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第一幕 モブメイド令嬢誕生編

11 嫉妬するクラウン王子

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 ……待ってよ! こんな至近距離、聞いてませんわよ。斜め下へ視線だけ逸らすも、真っ直ぐこちらを見つめる王子の迫力に気圧され、言葉が出て来なくなってしまう。

「ここ最近アイゼンが剣や魔法の稽古を終えた後、馬車で何処かへ向かっていたんで気になっていたんだ。知っているんだぞ? お前の家へ行っていた事を」
「そ……それは……!」

「お前、アイゼンと何もしていないよな?」
「え? あ? ああ! まさか! 何もやましい事なんてやってませんよ!」

 顎をクイっとされて顔は固定されているので、両手を王子の横で前に出し、必死に振って何もしてないアピールをする。ワタクシは第ニ王子とあくまで王子をプロデュースする計画を練っていただけ。幸いモブメイド時代、本が好きだった私は、お屋敷にある本を沢山読んでいた。その中に魔法の指南書や応用書もあったのだ。
 
 ちなみにモブメイドは魔力を全く持たなかったが、今はヴァイオレッタ。才に恵まれたヴァイオレッタの身体は、豊富な魔力を保有しており、アイゼン王子と魔法の訓練をするのに最適だったのだ。

 あ、ようやく王子の至近距離の顔が離れましたわね。

「短期間であれだけ魔法の扱いが上達していた。ヴァイオレッタは魔法も得意だったからな。お前の事だから、甘い蜜で弟をたぶらかし、俺に続けて第二王子を籠絡しにかかったのかと」
「ちょっと待って! 元はと言えば、むしろアイゼンの方からワタクシの家にやって来ましてよ?」

「ん、何だって?」
「なんだかんだで兄弟ね。クラウン。彼は大切なあなたがワタクシに誑かされて、騙されているって思っていたのよ? と、同時に兄と自身を比べて劣等感も抱いていた。だからワタクシはちゃんと真実を伝え、あの子をプロデュースしようと考えたの」

「……それは本当か」
「ええ、本当よ」

 それまでとは違う、何か思案するような仕草を取る王子。やがて、ゆっくりと息を吐き、王子はワタクシへと向き直る。

「はぁ~。どうやら勘違いをしていたようだな。ヴァイオレッタ、ここは素直に非礼を詫びよう。にしても劣等感か。アイゼンにはアイゼンの魅力がある。俺と比べる事自体間違っている。あいつは自身が思っている以上に国民にも令嬢達にも人気だと言うのにな」
「そうですわね。彼には彼の魅力がある。概ね同意ですわね」

「俺はヴァイオレッタにアイゼンをプロデュースしてくれた礼を言わねばならんようだな。まだ未熟な弟の事、これからも頼めるか?」
「ええ。構いません事よ」

 むしろあんなに可愛らしい弟のような存在が出来て、嬉しい限りですわね。ミランダという良いお友達も出来たし、万々歳ですわ。

「ふ。それにしても、裏で有力貴族へ美貌を振り撒き、次々に男を籠絡しているという噂はただの噂だったようだな」
「なっ! だ、誰がそんな噂を! そんなの全くの事実無根ですわ」
「ははは! そりゃそうだな。俺の前で『初めてなんで優しく・・・・・・・・・』なんて可愛らしく啼いていた兎にそんな事出来る訳ないものな」
「っ……!」

 っ、かぁあああ~~~!? 両頬に手を当てるワタクシの様子を見て、明らかにこの男、楽しんでいるわ。

 あの日の事を思い出して、頬が林檎色に染まってしまうワタクシ。ワタクシが男を誑かしていると言うけれど、王子、あなたこそ、その甘い囁きと仮面で女を誑かしているんじゃなくて?

「どうした? また、欲しく・・・なったのか?」
「女を揶揄からかうのもいい加減にして下さい!」

 部屋を出ようとするワタクシよりも早く、王子は扉の前に廻り込み、両手を広げて扉を塞ぐ。そして、そのままその両手をドレスの後ろへ滑り込ませ、彼は……ワタクシを抱き締める。彼の腕はとても温かくて、何もかも忘れてしまいそうになる。

「俺が言っても信じないかもしれんが、お前がアイゼンと何もしていないと聞いて、安心したのは事実だ」
「……ちょっと、クラウン?」

「ふっ。以前お前が言っていた通り、あくまで結婚は互いの立場を利用する・・・・だけと思っていた筈なんだがな。今は……お前が愛おしい」
「クラウン……だめっ……」


 これ以上は駄目という言葉は遮られ、ワタクシの唇は再び、クラウンの甘く、柔らかなところと重なっていくのだった。
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