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第ニ幕 王宮生活編
27 スイーツパラダイス
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〝わたし〟がワタクシ、ヴァイオレッタになって良かったと思う事は幾つかある。
ひとつはモブメイド時代に大好きだった〝ヴァイオレッタ様〟の美しい御体を堪能出来ること。最近は耐性が出来、ヴァイオレッタの身体でワタクシが悶えて毎朝ベッドで転がり回る事はなくなったが、それでも脳内のモブメイドは毎朝嬉々とした表情で悶えている。
ひとつはモブメイドでは見ることの出来なかった景色が見えるようになったこと。〝わたし〟はヴァイオレッタ付のモブメイドとして生きることで精一杯で、王子の素顔や、貴族達、そこに仕える者達それぞれの生き様まで見る事なんて出来ていなかったのだ。元々は危機回避の目的で周囲を見るようになったのだが、そのお陰でミランダとも仲良くなれたし、王子や王女の内面を見る事が出来た。
そして、もうひとつ。ヴァイオレッタになった事で、王宮の施設をある程度自由に使わせて貰えるというもの。うちのメイド、ローザや、王家直属の執事スミスへひと言告げるだけで融通を利かせて貰えるのだ。王宮の厨房は、メイド時代に日々皆様のお食事を作ることが目的で使っていたが、何百、何千人もの料理が同時に作れるよう、広い設備と器具が充実しているのだ。
『いつかこの巨大な石窯を使って、自由にタルトが焼けたらいいなぁ~』とモブメイドは考えていた訳だが、先日の星降祭前日に夢は叶い、以来、王宮付の調理師やメイドさんともお菓子作りを通じて気軽に話せるようになった。にしても、『ヴァイオレッタ様が使ってくださるのなら、この石窯も本望でしょう』とはどういう意味だろう? まぁ、そこは置いておこう。
「さぁ、ミランダと言いましたわね。私が星林檎のタルトの作り方をご教授するわよ」
「フィリーナ王女様、よろしくお願い致します!」
ミランダもびっくりよね。アイゼン王子の模擬戦闘を観戦した後、フィリーナ王女とお菓子作りだものね。巨大厨房の一部をお借りして、王宮の皆で食べれるよう、メイド達も集めて、みんなでアップルタルトを同時に作る。
予め寝かせておいた生地を綿棒で伸ばしていく王女と伯爵令嬢と侯爵令嬢。ドレスも汚れてはいけないと言う事で簡素な部屋着にエプロンという格好に着替えている。タルトの型へ生地を敷き詰め、フォークで細かい穴を開けていく。
「この! この! 兄様! もっと、私に! 振り向き! なさいな!」
「フィリーナ様……心の声が漏れてます」
「はっ! 今のは気のせいですわ、オホホホホ」
生地にフォークで穴を開ける理由は、焼けるときに空気を逃す事で生地が膨らむのを防ぐ役割なのだが、これではフィリーナのストレスを発散する役割になってしまっているわね。
続けて、アパレイユを作る。
「アパレイユ?」
「このタルト型へ流し込む生地の事よ? 卵、砂糖、ラム酒、シナモンを混ぜて、この紙を通して一度濾すの。生クリームとミルクを加えて混ぜたら出来上がりね」
「楽しそう、やってみます!」
生クリームなんかは上級貴族の家くらいじゃないと手に入らないだろうから、伯爵家のミランダはこれだけの材料が揃ったアップルタルトを作る事なんて初めてなのかもしれないわね。心なしかミランダの瞳が輝いてみえるもの。
タルトの型に薄切りした星林檎を並べ、アパレイユを流し込む。あとは王宮特製の巨大石窯へ入れて、焼き上げたら完成だ。だんだん焼き上がっていく様子を、フィリーナとミランダが石窯の前でじっと見つめている様子は微笑ましい。
ワタクシがまだ話した事のない王宮のメイド達と談笑していると、水色髪の第三メイド、ブルームが何やら合図を送ってくれた。メイド達から一旦離れ、ブルームの傍へ近づくと、彼女は小声でワタクシへ警鐘を鳴らしてくれた。
「ローザ様ヨリ申シ受ケ、怪シイメイド数名発見。コノ部屋ニモ居ル」
「了解。今度時間を設けましょう。引き続き監視をお願い」
「御意」
成程、王宮の仕事をしているのだろう。今この場にローザは居ない。だが、ワタクシを護るため、淡々と任務を熟すブルームを配置したという訳ね。流石のメイド長、ローザだ。
この部屋に危険なメイドが居る。王子と騎士団長の模擬戦があっていた際、ブルームがワタクシへ見せていた視線もそれか。王子や王女、ミランダと言った、過去ヴァイオレッタと明らかに敵対した者を味方につけただけでは、完全に危機回避したとは言えないのだろう。
〝目に見えない敵〟を炙り出す。そういう意味では、こうして沢山の人物が揃っている場は絶好の機会でもありますわね。
談笑しているメイド。洗い物をしているメイド。厨房の奥では王家の皆様のお昼ご飯を作っている調理師達。何か手掛かりはないかと気づかれないよう警戒しつつ、視線だけを動かしていると、洗い物をしているメイドの中に桃色ツインテールが目に入る。マーガレット王女と繋がっている可能性があるピーチ。彼女の隣に居るメイドは王宮のメイド? モブメイド時代も話した事がないメイド。王宮のモブメイド?
違和感を覚える。まだ王宮へ来て数週間。あんなに仲良くなれるものなのか? 談笑するピーチはとても楽しそうで、隣の黒髪メイドも彼女の話に耳を傾け、手を動かしながら頷いている。ピーチがこちらへ気づく前に、ワタクシは詮索を終了する。後でブルームからの報告を聞く事にしましょうか。
そうこうしている内に、アップルタルトが完成する。石窯から出て来た沢山のアップルタルト。本当、星林檎を敷き詰めた甘い香りのするタルトは、果実の宝石箱だ。
「キマシタワーー! 完成しましたわ~~!」
「まぁ……美しいですね……」
「さ、ミランダ。せっかくなので出来立てをいただきましょう」
「いいのですか?」
近くに居たメイドがすぐに席を用意する。三角形に切り分けられた星林檎のタルト。ナイフで一口大に切り分け、口の中へ入れる。柔らかく焼き上がった星林檎の甘味が口内から広がっていき、脳内を幸せ成分が満たしていく。生地との相性も抜群だ。
「これだけ美味しいタルトが出来ちゃうなんて、流石私ですわ」
「美味しくて頬っぺたが落ちちゃいますわ」
自画自賛するフィリーナと、満足そうに口元を緩ませるミランダ。このあとミランダとワタクシ達は、女子だけの食事会を堪能し、ワタクシ達は至福の時間を共有するのでした。
ひとつはモブメイド時代に大好きだった〝ヴァイオレッタ様〟の美しい御体を堪能出来ること。最近は耐性が出来、ヴァイオレッタの身体でワタクシが悶えて毎朝ベッドで転がり回る事はなくなったが、それでも脳内のモブメイドは毎朝嬉々とした表情で悶えている。
ひとつはモブメイドでは見ることの出来なかった景色が見えるようになったこと。〝わたし〟はヴァイオレッタ付のモブメイドとして生きることで精一杯で、王子の素顔や、貴族達、そこに仕える者達それぞれの生き様まで見る事なんて出来ていなかったのだ。元々は危機回避の目的で周囲を見るようになったのだが、そのお陰でミランダとも仲良くなれたし、王子や王女の内面を見る事が出来た。
そして、もうひとつ。ヴァイオレッタになった事で、王宮の施設をある程度自由に使わせて貰えるというもの。うちのメイド、ローザや、王家直属の執事スミスへひと言告げるだけで融通を利かせて貰えるのだ。王宮の厨房は、メイド時代に日々皆様のお食事を作ることが目的で使っていたが、何百、何千人もの料理が同時に作れるよう、広い設備と器具が充実しているのだ。
『いつかこの巨大な石窯を使って、自由にタルトが焼けたらいいなぁ~』とモブメイドは考えていた訳だが、先日の星降祭前日に夢は叶い、以来、王宮付の調理師やメイドさんともお菓子作りを通じて気軽に話せるようになった。にしても、『ヴァイオレッタ様が使ってくださるのなら、この石窯も本望でしょう』とはどういう意味だろう? まぁ、そこは置いておこう。
「さぁ、ミランダと言いましたわね。私が星林檎のタルトの作り方をご教授するわよ」
「フィリーナ王女様、よろしくお願い致します!」
ミランダもびっくりよね。アイゼン王子の模擬戦闘を観戦した後、フィリーナ王女とお菓子作りだものね。巨大厨房の一部をお借りして、王宮の皆で食べれるよう、メイド達も集めて、みんなでアップルタルトを同時に作る。
予め寝かせておいた生地を綿棒で伸ばしていく王女と伯爵令嬢と侯爵令嬢。ドレスも汚れてはいけないと言う事で簡素な部屋着にエプロンという格好に着替えている。タルトの型へ生地を敷き詰め、フォークで細かい穴を開けていく。
「この! この! 兄様! もっと、私に! 振り向き! なさいな!」
「フィリーナ様……心の声が漏れてます」
「はっ! 今のは気のせいですわ、オホホホホ」
生地にフォークで穴を開ける理由は、焼けるときに空気を逃す事で生地が膨らむのを防ぐ役割なのだが、これではフィリーナのストレスを発散する役割になってしまっているわね。
続けて、アパレイユを作る。
「アパレイユ?」
「このタルト型へ流し込む生地の事よ? 卵、砂糖、ラム酒、シナモンを混ぜて、この紙を通して一度濾すの。生クリームとミルクを加えて混ぜたら出来上がりね」
「楽しそう、やってみます!」
生クリームなんかは上級貴族の家くらいじゃないと手に入らないだろうから、伯爵家のミランダはこれだけの材料が揃ったアップルタルトを作る事なんて初めてなのかもしれないわね。心なしかミランダの瞳が輝いてみえるもの。
タルトの型に薄切りした星林檎を並べ、アパレイユを流し込む。あとは王宮特製の巨大石窯へ入れて、焼き上げたら完成だ。だんだん焼き上がっていく様子を、フィリーナとミランダが石窯の前でじっと見つめている様子は微笑ましい。
ワタクシがまだ話した事のない王宮のメイド達と談笑していると、水色髪の第三メイド、ブルームが何やら合図を送ってくれた。メイド達から一旦離れ、ブルームの傍へ近づくと、彼女は小声でワタクシへ警鐘を鳴らしてくれた。
「ローザ様ヨリ申シ受ケ、怪シイメイド数名発見。コノ部屋ニモ居ル」
「了解。今度時間を設けましょう。引き続き監視をお願い」
「御意」
成程、王宮の仕事をしているのだろう。今この場にローザは居ない。だが、ワタクシを護るため、淡々と任務を熟すブルームを配置したという訳ね。流石のメイド長、ローザだ。
この部屋に危険なメイドが居る。王子と騎士団長の模擬戦があっていた際、ブルームがワタクシへ見せていた視線もそれか。王子や王女、ミランダと言った、過去ヴァイオレッタと明らかに敵対した者を味方につけただけでは、完全に危機回避したとは言えないのだろう。
〝目に見えない敵〟を炙り出す。そういう意味では、こうして沢山の人物が揃っている場は絶好の機会でもありますわね。
談笑しているメイド。洗い物をしているメイド。厨房の奥では王家の皆様のお昼ご飯を作っている調理師達。何か手掛かりはないかと気づかれないよう警戒しつつ、視線だけを動かしていると、洗い物をしているメイドの中に桃色ツインテールが目に入る。マーガレット王女と繋がっている可能性があるピーチ。彼女の隣に居るメイドは王宮のメイド? モブメイド時代も話した事がないメイド。王宮のモブメイド?
違和感を覚える。まだ王宮へ来て数週間。あんなに仲良くなれるものなのか? 談笑するピーチはとても楽しそうで、隣の黒髪メイドも彼女の話に耳を傾け、手を動かしながら頷いている。ピーチがこちらへ気づく前に、ワタクシは詮索を終了する。後でブルームからの報告を聞く事にしましょうか。
そうこうしている内に、アップルタルトが完成する。石窯から出て来た沢山のアップルタルト。本当、星林檎を敷き詰めた甘い香りのするタルトは、果実の宝石箱だ。
「キマシタワーー! 完成しましたわ~~!」
「まぁ……美しいですね……」
「さ、ミランダ。せっかくなので出来立てをいただきましょう」
「いいのですか?」
近くに居たメイドがすぐに席を用意する。三角形に切り分けられた星林檎のタルト。ナイフで一口大に切り分け、口の中へ入れる。柔らかく焼き上がった星林檎の甘味が口内から広がっていき、脳内を幸せ成分が満たしていく。生地との相性も抜群だ。
「これだけ美味しいタルトが出来ちゃうなんて、流石私ですわ」
「美味しくて頬っぺたが落ちちゃいますわ」
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