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48話・超体育会系
しおりを挟む須崎の動向を見張るため、能登家にお邪魔して待機することになった。
居間でスイカを食べていると奥にあるドアが開き、ミノリちゃんがひょこっと顔を出した。
「みんな、来てくれてありがと」
小さな声でそう言うと、また顔を引っ込めて奥へと戻っていった。なんだろうと思っていると、同じドアから今度はポロシャツとスラックス姿のおじさんと共に現れた。おそらくミノリちゃんのお父さんだろう。慌ててスイカを皿に置き、頭を下げる。
「お、お邪魔してます」
「おや、君は?」
俺を見て怪訝そうな顔をするお父さん。自分ちに見知らぬ金髪男がいたらそりゃ聞くよね。ちなみに、パーカーとサングラスは家に上がった時点で外している。
「この子はアタシの友だちだよ」
「母さんの知り合いだったのか」
「ど、どうも」
座ったまま引きつった愛想笑いを浮かべ、お父さんを見上げる。そのままミノリちゃんのお父さんは須崎が待つ客間の方へ向かった。その後を追うように、ミノリちゃんとお母さんが付いていく。ミノリちゃんのお母さんは俺たちのテーブルに追加でお菓子と飲み物を置き、「ゆっくりしていってね」と笑顔で声を掛けてくれた。
ミツさんが助け舟を出してくれたおかげで追い出されずに済んだ。
「じゃあ、行ってくるね」
「頑張って」
思いつめたような表情のまま、ミノリちゃんは須崎が待つ客間へと向かった。『一緒に居て』とは言われたが、大事な話し合いに同席は出来ない。代案として、襖一枚を隔てた居間で待機することになった。
三人が隣の客間に入ったのを見届けてから、俺は盛大な溜め息をついた。
やべえ、ミノリちゃんのお父さん怖い。背が高いだけじゃなくガタイが良い。筋肉質だし額に傷があるし眼光も鋭い。ここが民家の居間じゃなければヤクザかと思ったくらいだ。
「ミツさん、お父さんて何してる人?」
小さな声で尋ねると、ミツさんはプッと吹き出した。
「あんな見た目だけど町役場の職員だよ」
「嘘でしょ! なんかスポーツやってる?」
「小さい頃から柔道やってるくらいかねえ」
「超体育会系じゃん!」
町役場より道場にいたほうが似合うんだが。見た目だけでなく実際強いと見た。ミノリちゃんも大人しそうに見えて武闘派だしなぁ。
「顔の傷は? 熊と戦ったりした?」
「ふふっ、あれは猫にやられたのよ」
猫かぁ~。ちょっと安心した。
「プーさん怖がってる~」
「うるせー、緊張してるだけだっつの!」
リエに笑われた。オマエは宿題やってろ。
しかし、これはマズい。ミノリちゃんが何故両親に須崎のことを言わなかったのか何となく分かってしまった。
同じ体育会系同士、お父さんが須崎の味方をするんじゃないか。そういう恐れがあったんだろう。正々堂々と交際を申し込みに来た姿勢を見て気に入るかもしれない。
それに引き換え、俺は『ミノリちゃんの友人です』すら言えてない。ルミちゃんに背中を押され、ミツさんに協力してもらわなきゃ能登家に来れなかった臆病者だ。情けない。
「プーさん、話し合いが始まるみたいよ」
「ん、わかった」
小声でルミちゃんが教えてくれた。
すぐに気を取り直す。
襖一枚隔てた客間では、須崎が自己紹介を始めていた。
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