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前章
Side I 2
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日は刻一刻と過ぎていく。
相変わらず口は利かない。
一応、朝だけは見送りをしているが、話をしたあの日から目すら合わせてくれずに
俺はいないものとして扱われるようになった。
彼の残り香だけが慰めるようにぼんやりとそこに残って、時間をかけて霧散する。
いい香りのはずなのに悲しくて寂しい。
本来なら興奮材料になるものであるからか、それが悲しみと同時に慰めにもなるのがやるせなく感じた。
ここまで拒絶されてしまってはどうしようもなくて、タイムリミットを待つのみだった。
約束の1か月まであと3日。
がたがたと、荷造りの音がする。
もともと持ち物は少なくて、
引っ越しの際にも造り付けのクローゼットに段ボールを押し込めていたのを思い出しては
ああ、すぐ出て行くつもりだったからかといやな納得の仕方をしていた。
きっとこれから俺はローズマリーの匂いを嗅ぐたびにあの冷たい声と目を思い出すのだろう。
課題を片付けて、早々にベッドに潜り目を閉じる。
しばらくうとうととまどろんでいたが、突然体にびりりと電流が走ったような気がして跳ね起きた。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。
寝ぼける暇もなく覚醒する。頭痛が酷い。腹の奥が熱い。意識が飛びそうだった。
そしてそれが、すさまじいローズマリーの匂いのせいだと確信したとき、
風呂場からガタンッと何かが倒れるような音がして、咄嗟に部屋から飛び出した。
「内海さん!? 大丈夫!?」
すごい匂いだ。ぐらぐらする。
身体中から汗が噴出して、頭がガンガンと鳴り、鼻血が出そうだった。
ついでに下半身が痛い。
脱衣所のドアをぶるぶる情けなく震える拳で何度も叩くが、こちらに対しての反応はない。
ただその中から「あああああッッ!!」と獣じみた悲鳴が上がった。
「ごめん、開けるね!?」
引き戸を開けると、そこで裸で倒れている内海さんがいて、
その姿の煽情的さとローズマリーの匂いに視界が白飛びする。
ヒートだ。
けどなんで? 抑制剤飲んでるのにこんなあてられるなんて。
顔は腕で隠れて見えない。
細くて生白い腕。
赤くなっている乳首と慎ましやかなへそが、荒い呼吸で上下している。
下半身は、見たらこのまま襲ってしまうと判断して俺は意識がどうにかなりそうな頭を
ギリギリで持たせながらバスタオルを数枚引っ掴んで彼の身体をくるもうとした。
一歩踏み出そうとして、
「くんなボケ、死ね!!」
と満身創痍の声で怒鳴りつけられる。
普段ならそれに逡巡するはずだが、今のバカになった頭では音の響きしか捉えられない。
「うつみ、さん、暴れないで…」
「はあっ…はあっ……く、そ……」
とりあえずバスタオルでくるみ、それから彼の額から血が出てるのを確認した。
洗面台でぶつけたのだろうと察して、濡れタオルをそこにあてて、
彼を横抱きに持ち上げようとするが手足をばたつかせられて上手くいかない。
何度か殴られたし、顔を容赦なくひっぱたかれたり顎を押されて遠ざけられたりしている気がするが、
意識が下半身に集中して痛みなんてまったく感じなかった。
「触んな気持ち悪い!!はあ、はあ、おっ勃てやがって…!!
離せッ、部屋にすっこんでろ!!ちょっと落ち着いたら出てくから…!!」
「そんなんでどこ行くんだよ!?」
「隔離施設だよッ…!!
お前から、はあ、離れりゃ多少マシになんだろ…薬も飲んでるし…はあ、あうっ…!」
暴れたせいで上手く抱けなかった指が彼の身体に直に触れてしまう。
その瞬間びくびくと震えて小さくイッたのがわかり、俺は思わずごくりと喉を鳴らした。
このまま、組み敷いて、なにもかもを暴きたい。
突っ込んで、ぐちゃぐちゃにかき回して、気絶するまでイカせて、種付けしたい。
普段なら思わないような欲望が壊れた蛇口のように吹き出して頭をどうにかさせる。
「クソ、お前が近くにいるからか…!?
あっ…予定より、来るのがはやいし、キツい…ッ!!」
生理的な涙だろうか。
泣き腫らした顔が、たまらない。ああ、上も下もぶち侵したい。
息が獣のように荒くなっているのを、遠くで自覚した。
それで俺は、目の前のΩの、身体を、
だめだ。
俺は咄嗟に自分の顔面をぶん殴る。
驚いた内海さんの顔をこちらに向けさせてギリギリいっぱいのところで早口に言う。
「俺が出てく…! 家籠って、外出ないで…!
薬あるよね? ごはん、冷凍してあるから適当に食べて。
αの服ならなんでもいいのかな…使えそうなら俺の部屋にある服持ってっていいからッ…!
必要なものあったら連絡して。酷そうなら救急車呼んでね」
本当はベッドに運んであげたかったが、今触ったら確実にそれだけでは済まなくなる。
意識の端でシャワーが出っぱなしになっているのに気づいたが止める余裕はない。
それだけまくしたてるように言うと、俺は自分の部屋に駆け込んで、
スマホと財布をスウェットのポケットに突っ込み、
真っ白になったあたまで通学用のカバンに服を適当に詰めて家を飛び出した。
下半身が痛い。
これが、ヒート。
しばらく歩いた先の公園の公衆便所に立てこもり、何発か抜いてようやく頭が戻って来た。
やばかった。一歩間違えたら、完全に間違いを犯してしまっていた。
その恐ろしさに、よたよたとベンチに座り込んでから、しばらく震えていた。
相変わらず口は利かない。
一応、朝だけは見送りをしているが、話をしたあの日から目すら合わせてくれずに
俺はいないものとして扱われるようになった。
彼の残り香だけが慰めるようにぼんやりとそこに残って、時間をかけて霧散する。
いい香りのはずなのに悲しくて寂しい。
本来なら興奮材料になるものであるからか、それが悲しみと同時に慰めにもなるのがやるせなく感じた。
ここまで拒絶されてしまってはどうしようもなくて、タイムリミットを待つのみだった。
約束の1か月まであと3日。
がたがたと、荷造りの音がする。
もともと持ち物は少なくて、
引っ越しの際にも造り付けのクローゼットに段ボールを押し込めていたのを思い出しては
ああ、すぐ出て行くつもりだったからかといやな納得の仕方をしていた。
きっとこれから俺はローズマリーの匂いを嗅ぐたびにあの冷たい声と目を思い出すのだろう。
課題を片付けて、早々にベッドに潜り目を閉じる。
しばらくうとうととまどろんでいたが、突然体にびりりと電流が走ったような気がして跳ね起きた。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。
寝ぼける暇もなく覚醒する。頭痛が酷い。腹の奥が熱い。意識が飛びそうだった。
そしてそれが、すさまじいローズマリーの匂いのせいだと確信したとき、
風呂場からガタンッと何かが倒れるような音がして、咄嗟に部屋から飛び出した。
「内海さん!? 大丈夫!?」
すごい匂いだ。ぐらぐらする。
身体中から汗が噴出して、頭がガンガンと鳴り、鼻血が出そうだった。
ついでに下半身が痛い。
脱衣所のドアをぶるぶる情けなく震える拳で何度も叩くが、こちらに対しての反応はない。
ただその中から「あああああッッ!!」と獣じみた悲鳴が上がった。
「ごめん、開けるね!?」
引き戸を開けると、そこで裸で倒れている内海さんがいて、
その姿の煽情的さとローズマリーの匂いに視界が白飛びする。
ヒートだ。
けどなんで? 抑制剤飲んでるのにこんなあてられるなんて。
顔は腕で隠れて見えない。
細くて生白い腕。
赤くなっている乳首と慎ましやかなへそが、荒い呼吸で上下している。
下半身は、見たらこのまま襲ってしまうと判断して俺は意識がどうにかなりそうな頭を
ギリギリで持たせながらバスタオルを数枚引っ掴んで彼の身体をくるもうとした。
一歩踏み出そうとして、
「くんなボケ、死ね!!」
と満身創痍の声で怒鳴りつけられる。
普段ならそれに逡巡するはずだが、今のバカになった頭では音の響きしか捉えられない。
「うつみ、さん、暴れないで…」
「はあっ…はあっ……く、そ……」
とりあえずバスタオルでくるみ、それから彼の額から血が出てるのを確認した。
洗面台でぶつけたのだろうと察して、濡れタオルをそこにあてて、
彼を横抱きに持ち上げようとするが手足をばたつかせられて上手くいかない。
何度か殴られたし、顔を容赦なくひっぱたかれたり顎を押されて遠ざけられたりしている気がするが、
意識が下半身に集中して痛みなんてまったく感じなかった。
「触んな気持ち悪い!!はあ、はあ、おっ勃てやがって…!!
離せッ、部屋にすっこんでろ!!ちょっと落ち着いたら出てくから…!!」
「そんなんでどこ行くんだよ!?」
「隔離施設だよッ…!!
お前から、はあ、離れりゃ多少マシになんだろ…薬も飲んでるし…はあ、あうっ…!」
暴れたせいで上手く抱けなかった指が彼の身体に直に触れてしまう。
その瞬間びくびくと震えて小さくイッたのがわかり、俺は思わずごくりと喉を鳴らした。
このまま、組み敷いて、なにもかもを暴きたい。
突っ込んで、ぐちゃぐちゃにかき回して、気絶するまでイカせて、種付けしたい。
普段なら思わないような欲望が壊れた蛇口のように吹き出して頭をどうにかさせる。
「クソ、お前が近くにいるからか…!?
あっ…予定より、来るのがはやいし、キツい…ッ!!」
生理的な涙だろうか。
泣き腫らした顔が、たまらない。ああ、上も下もぶち侵したい。
息が獣のように荒くなっているのを、遠くで自覚した。
それで俺は、目の前のΩの、身体を、
だめだ。
俺は咄嗟に自分の顔面をぶん殴る。
驚いた内海さんの顔をこちらに向けさせてギリギリいっぱいのところで早口に言う。
「俺が出てく…! 家籠って、外出ないで…!
薬あるよね? ごはん、冷凍してあるから適当に食べて。
αの服ならなんでもいいのかな…使えそうなら俺の部屋にある服持ってっていいからッ…!
必要なものあったら連絡して。酷そうなら救急車呼んでね」
本当はベッドに運んであげたかったが、今触ったら確実にそれだけでは済まなくなる。
意識の端でシャワーが出っぱなしになっているのに気づいたが止める余裕はない。
それだけまくしたてるように言うと、俺は自分の部屋に駆け込んで、
スマホと財布をスウェットのポケットに突っ込み、
真っ白になったあたまで通学用のカバンに服を適当に詰めて家を飛び出した。
下半身が痛い。
これが、ヒート。
しばらく歩いた先の公園の公衆便所に立てこもり、何発か抜いてようやく頭が戻って来た。
やばかった。一歩間違えたら、完全に間違いを犯してしまっていた。
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