ローズマリーと犬

無名

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前章

Side I 3

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ヒートは1週間続くと言う。
親からの仕送りは十分にあるとはいえビジネスホテルの連泊に使うのは気が引けたが
とてもじゃないが家には戻れず、たっぷり10日ホテル生活をしてから、
いい加減学業に支障が出てきたので荷物を取りに行かねばとなり、
マンションのエントランスをそっとくぐった。

あんなことになった手前気が引ける。
αである以上、パートナーの煽情的な姿はどうしてもクるものがあり、
性欲と罪悪感がぐちゃぐちゃになった悪夢を連日見た。
あのとき完全にやばいやつだったのは確かで、
変に荒い息で勃起して、内海さんに触ろうとしたことは紛れもない事実だった。
怯えた顔の内海さんの顔が忘れられなくて胸が痛んだ。
そして同時に、そんな胸の痛みを抱きながらも思い出しては下半身が痛くなる己の浅ましさが
初めて自分のαという性に嫌悪感を抱かせた。

大学帰り、平日15時。まだ梅雨が明けていない大雨の日。
コンビニで買ったビニル傘から水をぽたぽたとしたたらせながら、俺はそっと玄関を開けた。
自分の家なのに緊張する。
一応、帰宅は内海さんが仕事にいっているであろう時間を選んだ。
或いは、約束の1ヶ月を過ぎた以上もう荷物をまとめて出て行ってしまったかもしれない。
…好きでもないαに、性欲むき出しにして迫られたら逃げるのは
Ωの危機管理能力としては正常だ、と半ばあきらめに似た感情すらあったが。


「ただいま…」


物音はしない。
カーテンの開けられたリビングは、天気のせいで薄暗い。
ローズマリーの香りがするが、あれだけ強烈な匂いを浴びたあとだと
これがどのくらいの濃度の香りで彼がいつまでここにいたのかすら判別がつかない。

とりあえず自分の部屋から教科書を、と自室に入ろうとしてドアノブに手をかけたところで
ガチャと音がしてローズマリーの匂いがぶわりと香った。
内海さんが部屋から出て来たのに心臓がバクンと高鳴って慌てて言い訳を述べた。


「わっ! ご、ごめん…!!いつもこの時間いないから、すぐ出て行…」
「ヒート終わったからもう大丈夫だよ」


ハーフパンツにTシャツ姿で、白くて細い手足が目に悪い。
俺は目をそらしながらそれはよかったと笑った。
内海さんはそれからなにも言わない。
嫌な沈黙が流れて、嫌な汗が背中を伝う。
冷静な声の裏に、先日の喘ぎ声がよみがえる。だめだ。また。
じゃあ、俺は荷物取りに来ただけだから、と言おうとして吸い込んだ息が、
彼の「話」という小さな声に呑まれた。


「ちょっと付き合え」


そう言って、彼はリビングのソファを指さした。
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