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部活が終わると腹が減る。
そんなの運動部だけではないから、恵那と涼は学校帰りにファストフード店に寄り道していた。
「ホルン、どーよ?」
ポテトとコーラという最強の組み合わせを頬張りながら恵那が問う。
「先輩はね、めっちゃ優しい。三年の雪野先輩と真中先輩でしょ、で二年の新田先輩と大橋先輩」
涼が出す名前は、でも恵那にはまだわからない。
木管セクションの先輩は殆ど覚えたが、ホルンを含む金管セクションとはまだあまり接触がない。
「僕、中学ではずっとガイヤー使ってて、でもこの学校ガイヤーは二本しかないんだよね。雪野先輩と新田先輩が使ってるから空いてなかったんだけど、雪野先輩が譲ってくれたの。自分はどっちでも気にならないからって」
ちょお優しくない? とシェイクのストローをグサグサやりながら言う。
まあ、涼に対してならほぼ誰でも同じ対応してくれそうだと、恵那は思うけれど。
というか何のことやらさっぱりわからん。
金管楽器には触れてこなかった恵那なので、専門用語を出されると曖昧に笑うしかない。
「一年は? 仲良くなった?」
「……ビミョー……」
こちらの問には、表情が曇る。
「何? 変なヤツ、いるのか?」
「変なヤツはいないよ。僕が話しかけらんないだけ」
「あー、人見知りなー」
「僕もいちお、努力はしてるよ? どこ中って、訊いてみたし」
「お、いいじゃん」
「でも、目、合わせてくんない」
シェイクをずずっと啜って目を伏せる。
睫毛なげーな。なんて、恵那はそっちに感心してしまう。
大きな丸い目を縁取るバサバサの睫毛が、涼の可愛さに一役買っているのは確かだろう。
「なんでかなあ? えな、いつも初対面の人にどーやって話しかけてる?」
「知らん。そんなん、考えたことねーし」
「えー。だって、えな誰とでも話するじゃん」
「うん、だから何も考えてねー。涼にはなんつったっけ?」
入学して、教室入って、隣の席だった。
きっかけなんてただそれだけ。
そして恵那は左隣りではなく、右隣りの涼に声をかけた。
特に何のこだわりもなく「なんか、書類めっちゃ多くね?」と。
「あー、だっけ? 覚えてねーわそんなんいちいち」
「だよね、えなのことだから。てことは、思いついたこと、口に出してるだけ?」
「たぶん」
基本的に、単純なんで。
思い出したけど、その後目が合った瞬間思わず「うわ、可愛い」と口にして涼に嫌な顔をされたんだった。
「涼、構え過ぎ。ちなみにどこ中出身だか答えてくれた?」
「すっごいちっちゃい声でなんとか山中ってゆってたけど、もっかい訊き返す勇気はなかった」
「この辺で山って付くなら多分三田山中じゃね? 涼、知らない?」
「僕この辺詳しくない」
確かに、地元じゃないならわからなくても仕方ないだろう。
恵那は自転車を二十分も漕げば自宅に帰り着く超地元出身だが、涼はバスで市を跨いで通学している。
私立高校だからそんな人間はザラにいるし、同じ中学出身の者が誰もいないなんて当たり前の世界だから。
人見知りの激しい自分が、まだ入学して大して時間も経っていないのに、放課後一緒に寄り道できる友達がいるなんて、奇跡みたいだと涼は思う。
まあそれも、恵那という誰彼構わず声をかけてはタらし込んでる人たらしにたまたま引っ掛けてもらったから、なだけで。
そんな恵那のマネなんて、簡単にできるわけがない。
部活が終わると腹が減る。
そんなの運動部だけではないから、恵那と涼は学校帰りにファストフード店に寄り道していた。
「ホルン、どーよ?」
ポテトとコーラという最強の組み合わせを頬張りながら恵那が問う。
「先輩はね、めっちゃ優しい。三年の雪野先輩と真中先輩でしょ、で二年の新田先輩と大橋先輩」
涼が出す名前は、でも恵那にはまだわからない。
木管セクションの先輩は殆ど覚えたが、ホルンを含む金管セクションとはまだあまり接触がない。
「僕、中学ではずっとガイヤー使ってて、でもこの学校ガイヤーは二本しかないんだよね。雪野先輩と新田先輩が使ってるから空いてなかったんだけど、雪野先輩が譲ってくれたの。自分はどっちでも気にならないからって」
ちょお優しくない? とシェイクのストローをグサグサやりながら言う。
まあ、涼に対してならほぼ誰でも同じ対応してくれそうだと、恵那は思うけれど。
というか何のことやらさっぱりわからん。
金管楽器には触れてこなかった恵那なので、専門用語を出されると曖昧に笑うしかない。
「一年は? 仲良くなった?」
「……ビミョー……」
こちらの問には、表情が曇る。
「何? 変なヤツ、いるのか?」
「変なヤツはいないよ。僕が話しかけらんないだけ」
「あー、人見知りなー」
「僕もいちお、努力はしてるよ? どこ中って、訊いてみたし」
「お、いいじゃん」
「でも、目、合わせてくんない」
シェイクをずずっと啜って目を伏せる。
睫毛なげーな。なんて、恵那はそっちに感心してしまう。
大きな丸い目を縁取るバサバサの睫毛が、涼の可愛さに一役買っているのは確かだろう。
「なんでかなあ? えな、いつも初対面の人にどーやって話しかけてる?」
「知らん。そんなん、考えたことねーし」
「えー。だって、えな誰とでも話するじゃん」
「うん、だから何も考えてねー。涼にはなんつったっけ?」
入学して、教室入って、隣の席だった。
きっかけなんてただそれだけ。
そして恵那は左隣りではなく、右隣りの涼に声をかけた。
特に何のこだわりもなく「なんか、書類めっちゃ多くね?」と。
「あー、だっけ? 覚えてねーわそんなんいちいち」
「だよね、えなのことだから。てことは、思いついたこと、口に出してるだけ?」
「たぶん」
基本的に、単純なんで。
思い出したけど、その後目が合った瞬間思わず「うわ、可愛い」と口にして涼に嫌な顔をされたんだった。
「涼、構え過ぎ。ちなみにどこ中出身だか答えてくれた?」
「すっごいちっちゃい声でなんとか山中ってゆってたけど、もっかい訊き返す勇気はなかった」
「この辺で山って付くなら多分三田山中じゃね? 涼、知らない?」
「僕この辺詳しくない」
確かに、地元じゃないならわからなくても仕方ないだろう。
恵那は自転車を二十分も漕げば自宅に帰り着く超地元出身だが、涼はバスで市を跨いで通学している。
私立高校だからそんな人間はザラにいるし、同じ中学出身の者が誰もいないなんて当たり前の世界だから。
人見知りの激しい自分が、まだ入学して大して時間も経っていないのに、放課後一緒に寄り道できる友達がいるなんて、奇跡みたいだと涼は思う。
まあそれも、恵那という誰彼構わず声をかけてはタらし込んでる人たらしにたまたま引っ掛けてもらったから、なだけで。
そんな恵那のマネなんて、簡単にできるわけがない。
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