コレは誰の姫ですか?

月那

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 正に体育祭日和という、朝からの晴天に恵まれて、恵那は張り切り涼は項垂れていた。
 まだ九月である。
 基本的には全員半そでに短パンという体操服であるが、涼は「焼けるの、ヤだから」とジャージを着ているわけで。

「暑くね?」
「暑いよ」
「脱がないの?」
「脱がない。日焼けしたら僕、火傷みたいになるもん。痛い思いだけして、黒くならないまま白くなるから、いっそのこと焼かない。これだけは女の子って言われてもいい!」
 ジャージの下、ちゃんと日焼け止めクリームもぎっちり塗っている。

 日焼けに肌が弱いのはもう、小さい頃からで。小学生の頃から皮膚科で診断書まで貰って、徹底的に焼かない生活をしている涼である。それでも幼い頃は遊びに夢中になって失敗したことはあるから、その痛みは経験上知っている。二度と味わいたくない。
 女の子のように白い肌には理由があるのだ。

「ま、とりあえずテントの下で応援はしとけよ。俺もだけど、涼が“頑張れ”って言ってくれたらそれだけで普段の三割増しの力、発揮できるヤツが殆どなんだからな」
 恵那が真剣な顔で、言う。

 ――この人、どこまでが冗談なのかほんと、わっかんないんだよなー。
 なんて涼は眉根を寄せながら見つめ返した。

「何? 俺、何か変なこと言った?」
「別に。応援はするよ。僕だって、黄色チームに勝って欲しいもん」
「だから、涼はたとえ同じ部活だからってB組の三宅や、Aの辰巳先輩たちには笑いかけなくていいからな。あと土岐たちにも声援無用だから」
「はあ?」
「あ、でも新田先輩はC組だから笑って良し」
「そーゆー差別はしないし」

 各学年A組からF組まで六クラス、ある。それを二クラスずつ縦分けして一年から三年が一つのチームになっていて、AとBが赤、CとDが黄色、EとFが青、という要は三チームに分かれて戦うわけだ。
今日ばかりは恵那がいつもつるんでいる辰巳と徹、奏が二年A組だから敵となる。

 とりあえず、形ばかりの入場行進が開会式前にあるので、吹奏楽部はリズム練習の為にいつもやっているメジャーどころの行進曲を数曲リピート演奏する。当然、テントの中である。また、開会式中の校歌と国歌、閉会式の表彰中の得賞歌も生演奏なので、日焼けしたくない涼としてはテントから出ないで済む時間が多いことに安堵している。

 本音を言えば、午後のまったり時間に設定されている大して闘争心も湧かないような玉入れというほんわか競技にだけエントリーして、あとはテントでまったり過ごそうと思っていたというのに、結局恵那と一緒に追加エントリーさせられたことで、朝から不機嫌なことこの上ない。

「よーし、涼。とにかく最後までちゃんと走り切ろう。それだけは、頑張ってくれ」
 午前の部が始まって早い段階で二人三脚。
 恵那としては、この後いくつも走る競技を控えているから、こんなのはただのウォーミングアップである。
 いやいやながらも、とりあえず大人しく脚を固定するゴムバンドを装着させてくれた涼が、それでも自分から逃げようとしているから、
「ほら、くっつかないと走れねーだろ。まだ順番まであるから、ちょっと練習するぞ」

 小学生じゃないから、特にリハーサルなんてものをしているわけでもなく、二人三脚なんてメジャーな競技、何をどうするかなんて誰もが知っているから当然ぶっつけ本番である。
 待っている時間を使って、数メートル歩いてみることにした恵那が涼の肩を抱いた。

「あ……」
 その瞬間、涼が固まる。

 ふと、こないだもこんな感じになったな、と恵那が思い当たる。
「涼? どうかした? こないだも俺がくっついたら固まったよな? 何か、あるのか?」
 首を傾げると、目を丸くして慌てて首を振るから。
「涼?」
「何も、ないよ! 大丈夫。気に、しないでいいから」
 まだぎこちないけれど、それでも涼が腰に腕を回してきて。
 気にしていても仕方がないし、今はそれよりも競技に集中すべきで。

「んじゃほら、せーので内側からな」
 言って、“いち、に、いち、に”と声を掛けてちょっとだけ歩いてみて。
「お、イけるじゃん。イイ感じイイ感じ」
 思っていたよりも涼がくっついてくれるから、恵那としても動きやすかった。これならゴールまで辿り着くことは難しいことじゃないだろう。
 そのまま肩を組んで順番を待っていると。

「あ!」
「おう、恵那じゃん」
 スタート位置に並んだ横に、A組の辰巳と奏がいた。どうやら学年はミックスらしい。
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