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「だからさ。佐竹先輩には絶対三宅先輩のがお似合いなんだよ。けど、なんか無理矢理恵那先輩が佐竹先輩のことを連れ回してるから、だから佐竹先輩はいつもあんな風に恵那先輩の後、くっついてってんだよ」
と、中学時代からの友人である石村日向に興奮した様子で言われた甲斐悠平は、眉を寄せて腕を組んだ。
ここは一年F組。
高校の授業、というものが始まって緊張しつつもまだまだ中学でやった内容の復習がメインだから、どっちかというと部活への興味の方が大きくて。
お互い弁当持参だったから、日向と一緒に教室でそれを広げながら一緒に入る予定の吹奏楽部について話をしていた。
「もおさ、佐竹先輩と三宅先輩のアンサンブルがまじ、すげえの。ホルンってさ、音程採るの結構難しいからさ、やっぱあんな風に息が合ったアンサンブルってのは気持ち合せないと厳しいっつーか」
「要はその二人が、ホントは付き合ってんじゃないかってこと?」
「いや、付き合いたいけど恵那先輩がジャマしてんじゃないかなって思うんだよ」
日向はホルン希望。中学時代もずっとホルンやっていたし。
そして悠平はアルトサックス希望。
先日から吹部に体験で行っているけれど、実際サックスパートの賑やかしみたいな恵那の存在にはちょっと辟易していた。
いつだってふざけていて、確かにムードメーカーとして先輩たちは全員彼を受け入れているようだけれど、自分から見た印象はただただ「お調子者」。まだ音も殆ど聴いていないけれど――歌ったり踊ったりばかりしている――尊敬できるとはとても思えない。
「なんか、ヤな感じだな、それ。恵那先輩ってさ、何なん?」
悠平が言うと「なんか、めっちゃ喧嘩とか強いらしいよ」と日向が卵焼きを咀嚼しながら、答える。
聞きかじった噂だけれど、と前置きして。
「なんかさ、サッカー部の前の三年生、ボコったんだって」
「ウソだろ? だって、あの人めっちゃ細いじゃん。サッカー部って、ほぼほぼ全員ガタイ良くね?」
サッカー部に限らず、体育会系の強化部に所属している生徒なんて、ほぼ全員超高校生級、的な体格をしているから。
「だからさ、きっと誰も逆らえないんだよ、多分」
実際、現三年生のパーカッション、奏先輩なんて目つきも悪いし雰囲気かなり怖いけれど、その辺と恵那先輩がつるんでいるのは有名な話で。
部長の立山先輩も、そして顧問の河野先生も。みんな恵那先輩には苦笑しながらも従っているし。
「なんか、まじヤな感じだな、それ」
「いや、でも噂だけどさ。あの人双子で、めちゃくちゃガタイのイイ弟だかお兄さんだとかがいて、その辺と一緒にいるから無敵なんだよ、きっと」
ガラの悪い連中とつるんでいて、それで調子に乗ってて。で、学校で一番可愛いって言われている佐竹先輩を脅して傍に侍らせてる。
悠平にはその絵がアリアリと浮かんでくるから。
自分としては別に、佐竹先輩はオトコにしとくにはもったいないくらい可愛いとは思うけれど、でもただそれだけで。
恵那先輩が本気で嫌なんだったらイヤって言えばいいのに、なんて思ってしまうけれど。
ただ、それすらも言えないくらい二人の力関係が大きければ、現状に甘んじているのも仕方ないのかもしれないし。
それなら、言える人間がなんとかしてやるのが筋ってもので。
「俺、一言ゆってやろっかな」ぽつりと呟くと。
「ええ! ヤめとけよ。そんな、いくらガタイいいからって、悠平が敵う相手じゃねーよ」
まだ百七十センチにギリギリ届かない日向にしてみれば、既に百八十センチまであと少し、なんて悠平は頼もしい体格だとは思う。けれど、ただ体だけデカいだけでどう見てもただのイタズラっ子みたいな悠平が、ガラの悪い先輩にたてつくなんて、あり得ない。
「大丈夫だよ。別に喧嘩するわけじゃねーし。恵那先輩単品ならさ、多分大したことねーよ」
へらへら笑っている恵那先輩なんて、綺麗な顔をしているただのにーちゃん、でしかない。大型の先輩をノしたのなんて、多分ただの噂だ。
「いや、いやいやいやいや。まじで、ヤバイって」
「だから、喧嘩なんかしないってば。おんなじサックスパートだしさ、ちょっと、話するだけ。そんで、佐竹先輩、解放してもらったが良くね? だってさ、俺だって三宅先輩が佐竹先輩んこと好きなんだろうなーっての、わかるもん」
いつだって、二人で目を見合わせて優しい演奏をしている。どちらがリードしてるってわけでもないけれど、佐竹先輩が走ろうとしたら必ず優しく三宅先輩が付いて行く。
そんな二人の演奏は、ホルンなんて全然やったことのない自分だって“いいな”って思える。
「佐竹先輩だって、三宅先輩の傍いる方が絶対いいじゃん」
「でもでも。恵那先輩から引き離してさ、三宅先輩とかに危害とか加えないかなあ、あの人」
先輩たちの関係性なんて、よくわからないから。
二人共気持ちを通じ合わせていて、でも恵那先輩が怖くてただ三宅先輩が一歩引いているのなら。
そんなの切なすぎる。
「だからさ。そゆの、ちゃんと話してやんよ、俺が。だって、恵那先輩だってバカじゃねーだろ? 自分のせいで友達が切ない想いしてるの、そんなの放っておけるような人間、同じ吹部としてヤだもん」
どこまでも真っすぐで、正義感の塊みたいな悠平だから。
そんな根性ねじ曲がってるような先輩、追い出してやってもいいくらいだと思う。
「話してわかってくんないようだったらさ、そん時はまた考えるよ」
悠平は「どうやって話、つけてやろうか」なんてぶつぶつ言いながら弁当の続きを食べ始めた。
「だからさ。佐竹先輩には絶対三宅先輩のがお似合いなんだよ。けど、なんか無理矢理恵那先輩が佐竹先輩のことを連れ回してるから、だから佐竹先輩はいつもあんな風に恵那先輩の後、くっついてってんだよ」
と、中学時代からの友人である石村日向に興奮した様子で言われた甲斐悠平は、眉を寄せて腕を組んだ。
ここは一年F組。
高校の授業、というものが始まって緊張しつつもまだまだ中学でやった内容の復習がメインだから、どっちかというと部活への興味の方が大きくて。
お互い弁当持参だったから、日向と一緒に教室でそれを広げながら一緒に入る予定の吹奏楽部について話をしていた。
「もおさ、佐竹先輩と三宅先輩のアンサンブルがまじ、すげえの。ホルンってさ、音程採るの結構難しいからさ、やっぱあんな風に息が合ったアンサンブルってのは気持ち合せないと厳しいっつーか」
「要はその二人が、ホントは付き合ってんじゃないかってこと?」
「いや、付き合いたいけど恵那先輩がジャマしてんじゃないかなって思うんだよ」
日向はホルン希望。中学時代もずっとホルンやっていたし。
そして悠平はアルトサックス希望。
先日から吹部に体験で行っているけれど、実際サックスパートの賑やかしみたいな恵那の存在にはちょっと辟易していた。
いつだってふざけていて、確かにムードメーカーとして先輩たちは全員彼を受け入れているようだけれど、自分から見た印象はただただ「お調子者」。まだ音も殆ど聴いていないけれど――歌ったり踊ったりばかりしている――尊敬できるとはとても思えない。
「なんか、ヤな感じだな、それ。恵那先輩ってさ、何なん?」
悠平が言うと「なんか、めっちゃ喧嘩とか強いらしいよ」と日向が卵焼きを咀嚼しながら、答える。
聞きかじった噂だけれど、と前置きして。
「なんかさ、サッカー部の前の三年生、ボコったんだって」
「ウソだろ? だって、あの人めっちゃ細いじゃん。サッカー部って、ほぼほぼ全員ガタイ良くね?」
サッカー部に限らず、体育会系の強化部に所属している生徒なんて、ほぼ全員超高校生級、的な体格をしているから。
「だからさ、きっと誰も逆らえないんだよ、多分」
実際、現三年生のパーカッション、奏先輩なんて目つきも悪いし雰囲気かなり怖いけれど、その辺と恵那先輩がつるんでいるのは有名な話で。
部長の立山先輩も、そして顧問の河野先生も。みんな恵那先輩には苦笑しながらも従っているし。
「なんか、まじヤな感じだな、それ」
「いや、でも噂だけどさ。あの人双子で、めちゃくちゃガタイのイイ弟だかお兄さんだとかがいて、その辺と一緒にいるから無敵なんだよ、きっと」
ガラの悪い連中とつるんでいて、それで調子に乗ってて。で、学校で一番可愛いって言われている佐竹先輩を脅して傍に侍らせてる。
悠平にはその絵がアリアリと浮かんでくるから。
自分としては別に、佐竹先輩はオトコにしとくにはもったいないくらい可愛いとは思うけれど、でもただそれだけで。
恵那先輩が本気で嫌なんだったらイヤって言えばいいのに、なんて思ってしまうけれど。
ただ、それすらも言えないくらい二人の力関係が大きければ、現状に甘んじているのも仕方ないのかもしれないし。
それなら、言える人間がなんとかしてやるのが筋ってもので。
「俺、一言ゆってやろっかな」ぽつりと呟くと。
「ええ! ヤめとけよ。そんな、いくらガタイいいからって、悠平が敵う相手じゃねーよ」
まだ百七十センチにギリギリ届かない日向にしてみれば、既に百八十センチまであと少し、なんて悠平は頼もしい体格だとは思う。けれど、ただ体だけデカいだけでどう見てもただのイタズラっ子みたいな悠平が、ガラの悪い先輩にたてつくなんて、あり得ない。
「大丈夫だよ。別に喧嘩するわけじゃねーし。恵那先輩単品ならさ、多分大したことねーよ」
へらへら笑っている恵那先輩なんて、綺麗な顔をしているただのにーちゃん、でしかない。大型の先輩をノしたのなんて、多分ただの噂だ。
「いや、いやいやいやいや。まじで、ヤバイって」
「だから、喧嘩なんかしないってば。おんなじサックスパートだしさ、ちょっと、話するだけ。そんで、佐竹先輩、解放してもらったが良くね? だってさ、俺だって三宅先輩が佐竹先輩んこと好きなんだろうなーっての、わかるもん」
いつだって、二人で目を見合わせて優しい演奏をしている。どちらがリードしてるってわけでもないけれど、佐竹先輩が走ろうとしたら必ず優しく三宅先輩が付いて行く。
そんな二人の演奏は、ホルンなんて全然やったことのない自分だって“いいな”って思える。
「佐竹先輩だって、三宅先輩の傍いる方が絶対いいじゃん」
「でもでも。恵那先輩から引き離してさ、三宅先輩とかに危害とか加えないかなあ、あの人」
先輩たちの関係性なんて、よくわからないから。
二人共気持ちを通じ合わせていて、でも恵那先輩が怖くてただ三宅先輩が一歩引いているのなら。
そんなの切なすぎる。
「だからさ。そゆの、ちゃんと話してやんよ、俺が。だって、恵那先輩だってバカじゃねーだろ? 自分のせいで友達が切ない想いしてるの、そんなの放っておけるような人間、同じ吹部としてヤだもん」
どこまでも真っすぐで、正義感の塊みたいな悠平だから。
そんな根性ねじ曲がってるような先輩、追い出してやってもいいくらいだと思う。
「話してわかってくんないようだったらさ、そん時はまた考えるよ」
悠平は「どうやって話、つけてやろうか」なんてぶつぶつ言いながら弁当の続きを食べ始めた。
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