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秋のイベントラッシュが終わり、少しだけ落ち着いている吹部である。
クリスマスコンサートは控えているけれど、こちらは毎年恒例のものだけに演出については基本的なラインは同じもの。当然全く同じなんて芸がないからそこは毎年趣向を凝らした企画はあるし、恵那も芝崎と一緒にいろいろと考えていたりはするけれど、プライベートはまったり期間に入るから。
涼が部活帰りに恵那とおうちデート、な日々が続いていた。
「今年もウチで集まるだろ、俺らの誕生日」
今年はタイミングよく双子の誕生日は日曜日で。バスケ部が忙しいのは当然だから集まるのは夜になるけれど、ちゃんと当日にお祝いパーティができそうなので。
「ん。いいのかなあ。おかーさん、大変じゃない? 土岐たちの遠征準備で忙しいんじゃいの?」
既に県予選で代表の座を勝ち取っているから、今はただただ練習の日々。全国大会に向けての準備に余念がない。
「かーちゃん、何も関係ねーし。親父の小遣い減らして遠征に付き合う気は満々だけど、ふっつーにパートに出てるだけ」
「そーゆーものなの?」
「そーゆーもん、そーゆーもん。今年は土岐も響も試合に出るっぽいし、響のかーちゃんと旅行予定話してるみたいだしな」
「あ、じゃあクリスマスコンサートは観に来れないんだー」
「ま、俺らのクリコンは去年観てるし、吹部のメインは定演だし、いんじゃねーの?」
リビングでゲームしていたら確実に涼が寝てしまうから、いっそのこと恵那の部屋で遊んでた方が運ばなくていい、と最近は部屋で動画を見たりスマホゲームをしたり。
時々イチャイチャするけれど、基本的にはキス止まりで。
恵那としてはもっとそれ以上のコトもいろいろしたい気持ちを抱えているけれど、いつだって涼が天使の微笑みでいるから、手を出すに出せないでいるのだ。
「キリも誘うだろ? 涼から連絡する?」
「あ……そか……だよね」
先日のキリエの失恋を思い出して、涼が黙り込む。
あれから涼もキリエとはその話に触れていなくて。
バスケ部が忙しいから土岐とも涼は会えていないから、この話を他の誰かに共有していいものかどうか躊躇われた。
恵那の誕生日だから呼ぶのは当然、だけど。土岐の誕生日でもあるから、その土岐と顔を合わすのはまだ、キリエとしては辛いのかもしれない。土岐だって、気まずいだろうし。
でも、それを涼の口から恵那に伝えるのは、どうだろうか。
二人の関係は二人だけのもので。友達のままではいるかもしれないけれど、まだきっとキリエの傷は全然癒えていないだろうし。
土岐だってきっと、傷付けたかったわけじゃないだろうから。
そんな二人のデリケートな問題を、ただでさえ誰からも“デリカシー無さ過ぎ”と言われまくっている恵那に、伝えてもいいものか。
付き合っている涼がそんなことを考えるのはどうかと思うけれど、いつもの恵那と土岐の関係を見ている限り、恵那は確実に土岐をからかいそうで。
涼が黙ったまま変な表情をしているから、
「どした? おまえ、またキリと喧嘩でもしたのか?」と突っ込まれて。
「またって……喧嘩なんか、してないし」
「俺、女の子から誕生日プレゼントって貰ったことねーんだよなー。ちょい楽しみなんだけど?」
「何そのずーずーしい発言」
「そおか? あと、俺としては涼からの誕プレは、そろそろえっちとかもいいなーとか思ってんだけど?」
ムードなんてまったくなく、ただただふざけた発言をするから、涼はデコピンを食らわせた。
「だって去年、涼からちゅーしてくれたじゃん」
「あれは……だって……でも……」
「今年のプレゼントはボクだよー、つって裸にリボン巻いてくれてもいいぞ」
「そんなことしないし!」
いつものようにくふくふ嗤っている恵那を睨んでおいて。
「ちゃんと土岐とえなのおソロなグッズ、考えてるもんねー」
「いや、待て。なんで俺ら、おソロなわけさ? やだよ、あいつとおソロいなんて制服だけでじゅーぶんだ」
「だって双子がおんなしカッコしてんのって可愛いじゃん」
「何、おまえ俺たちがまだ幼稚園児だとでも思ってるわけ?」
「うわ、幼稚園の制服おソロで来てるえな達、めっちゃ可愛い! 写真ないの?」
「ない! あっても見せるか!」
珍しく涼がいたずらっぽく笑って。
秋のイベントラッシュが終わり、少しだけ落ち着いている吹部である。
クリスマスコンサートは控えているけれど、こちらは毎年恒例のものだけに演出については基本的なラインは同じもの。当然全く同じなんて芸がないからそこは毎年趣向を凝らした企画はあるし、恵那も芝崎と一緒にいろいろと考えていたりはするけれど、プライベートはまったり期間に入るから。
涼が部活帰りに恵那とおうちデート、な日々が続いていた。
「今年もウチで集まるだろ、俺らの誕生日」
今年はタイミングよく双子の誕生日は日曜日で。バスケ部が忙しいのは当然だから集まるのは夜になるけれど、ちゃんと当日にお祝いパーティができそうなので。
「ん。いいのかなあ。おかーさん、大変じゃない? 土岐たちの遠征準備で忙しいんじゃいの?」
既に県予選で代表の座を勝ち取っているから、今はただただ練習の日々。全国大会に向けての準備に余念がない。
「かーちゃん、何も関係ねーし。親父の小遣い減らして遠征に付き合う気は満々だけど、ふっつーにパートに出てるだけ」
「そーゆーものなの?」
「そーゆーもん、そーゆーもん。今年は土岐も響も試合に出るっぽいし、響のかーちゃんと旅行予定話してるみたいだしな」
「あ、じゃあクリスマスコンサートは観に来れないんだー」
「ま、俺らのクリコンは去年観てるし、吹部のメインは定演だし、いんじゃねーの?」
リビングでゲームしていたら確実に涼が寝てしまうから、いっそのこと恵那の部屋で遊んでた方が運ばなくていい、と最近は部屋で動画を見たりスマホゲームをしたり。
時々イチャイチャするけれど、基本的にはキス止まりで。
恵那としてはもっとそれ以上のコトもいろいろしたい気持ちを抱えているけれど、いつだって涼が天使の微笑みでいるから、手を出すに出せないでいるのだ。
「キリも誘うだろ? 涼から連絡する?」
「あ……そか……だよね」
先日のキリエの失恋を思い出して、涼が黙り込む。
あれから涼もキリエとはその話に触れていなくて。
バスケ部が忙しいから土岐とも涼は会えていないから、この話を他の誰かに共有していいものかどうか躊躇われた。
恵那の誕生日だから呼ぶのは当然、だけど。土岐の誕生日でもあるから、その土岐と顔を合わすのはまだ、キリエとしては辛いのかもしれない。土岐だって、気まずいだろうし。
でも、それを涼の口から恵那に伝えるのは、どうだろうか。
二人の関係は二人だけのもので。友達のままではいるかもしれないけれど、まだきっとキリエの傷は全然癒えていないだろうし。
土岐だってきっと、傷付けたかったわけじゃないだろうから。
そんな二人のデリケートな問題を、ただでさえ誰からも“デリカシー無さ過ぎ”と言われまくっている恵那に、伝えてもいいものか。
付き合っている涼がそんなことを考えるのはどうかと思うけれど、いつもの恵那と土岐の関係を見ている限り、恵那は確実に土岐をからかいそうで。
涼が黙ったまま変な表情をしているから、
「どした? おまえ、またキリと喧嘩でもしたのか?」と突っ込まれて。
「またって……喧嘩なんか、してないし」
「俺、女の子から誕生日プレゼントって貰ったことねーんだよなー。ちょい楽しみなんだけど?」
「何そのずーずーしい発言」
「そおか? あと、俺としては涼からの誕プレは、そろそろえっちとかもいいなーとか思ってんだけど?」
ムードなんてまったくなく、ただただふざけた発言をするから、涼はデコピンを食らわせた。
「だって去年、涼からちゅーしてくれたじゃん」
「あれは……だって……でも……」
「今年のプレゼントはボクだよー、つって裸にリボン巻いてくれてもいいぞ」
「そんなことしないし!」
いつものようにくふくふ嗤っている恵那を睨んでおいて。
「ちゃんと土岐とえなのおソロなグッズ、考えてるもんねー」
「いや、待て。なんで俺ら、おソロなわけさ? やだよ、あいつとおソロいなんて制服だけでじゅーぶんだ」
「だって双子がおんなしカッコしてんのって可愛いじゃん」
「何、おまえ俺たちがまだ幼稚園児だとでも思ってるわけ?」
「うわ、幼稚園の制服おソロで来てるえな達、めっちゃ可愛い! 写真ないの?」
「ない! あっても見せるか!」
珍しく涼がいたずらっぽく笑って。
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