Treasure of life

月那

文字の大きさ
44 / 101
【3】Astrophyllite

11

しおりを挟む
「……わーい、お泊まりだー」
 成親が、翔の腕に絡みつきながら、言った。

「…………」
 絶対に喜んで照れてくれるハズ、と思ったのに。
 やっぱり翔は微妙な微笑みを湛えて成親の頭を撫でるだけで。

「……しょーさん?」
「なる、アイス、もいっこ食べよっか?」
 するり、と成親の腕を放して立ち上がるから。
「なんで? 俺、泊まるの嬉しくねーの?」
 唇を尖らせて、拗ねて見せる。
「なんで? 嬉しいよ? 嬉しいに決まってんじゃん」
 その言葉と裏腹に、翔の表情は硬くて。
「……嬉しいって顔、してないじゃん」
「え?」

 まるで、そんなつもりなんて全然なかったと、成親の言葉に自分の感情に初めて気付いたような顔で翔が目を見開いた。

「しょーさん、何かあった?」
「え……?」
「俺、何か、した?」

 不安になる。
 いつだって凛としていて、二つや三つのことを同時にこなしてるから。
 自分のことだって忙しいのに、いつだって成親のことを優先してくれて。
 そんな翔だから、甘え過ぎていたのかもしれない。

「ごめんね。俺、しょーさんみたいに賢くないから、知らない間にしょーさんのこと、怒らせちゃってた?」
「なる?」
「しょーさん、特選科だからほんとはめっちゃ忙しいのわかってんのに、いつもしょーさん全然そんなの俺に見せないから、全然ヨユウなんだって俺、勝手に頼って困らせてたのかな」
「なる」
「俺のこと、嫌いになった? 俺いると、迷惑?」
「なんでそんなこと!」
「だってしょーさん、今日おかしいじゃん」
「俺?」
「ずっと、今日、俺んことちゃんと見て、ない」

 引っかかっていた棘に、成親はやっと気付く。
 そうだ。
 目が、全然合わないのだ。
 いつだって、成親が翔を見る時にはもの凄い優しい瞳が自分を捉えてて。
 何か言おうとしたら、ちゃんとその先を読んでくれていて。
 だからわざと成親がハズして遊んだら、ちゃんと付き合って楽しんでくれて。
 そういう感覚は、だっていつも翔が自分を見てくれてるから味わえるのに。
 今日は何も響かない。何も、噛み合わない。

「惰性で、一緒にいてくれてるの? 家庭教師、ご近所だからせざるを得ない? だったらもう、いいよ。俺、自分で勉強するし、しょーさんの邪魔、したくない」
「なる!」
 ぎゅっと抱きしめられた。

「やめてくれ。なるがいないなんて、俺にはあり得ない」
 耳元に、苦しそうな声が聞こえた。
「今、俺に全然余裕がないのは、事実だ。なるに、こんなこと言わせてしまうくらい、余裕ないの、今、気付いた。ほんとに、今言われて気付いたくらい、いっぱいいっぱいになってる」
「しょーさん?」
「だめだな、ほんとに俺、かなりのポンコツだよ」

 抱きしめていた腕を解き、ちゃんと目を合わせてくれた。
 苦笑しているのがわかるから、成親も半分泣きそうだった自分の力が抜ける。
「なるが邪魔とか、ほんとにあり得ないから。俺の全部の原動力はなるだから。だから、惰性とかそんな単語、使わせてしまった俺が悪いのはわかってんだけど、でも、頼むから、そんなこと言わないでくれ」
 成親の腕を掴みながら、まるで縋るような目で翔が言った。

「どしたー? 喧嘩でもしたの?」
 と、背後から玲子の呑気な声が聞こえてきて。
 慌てて翔が腕を放した。
「あ……や、そんな……」

「うん、ちょっと。しょーさんが意地悪言うから、拗ねてた」
 成親が笑いながら言って。
「やーねーもう。翔のがお兄ちゃんなんだから、なるくんに意地悪ゆわないの」
「言ってねーし……」
「んじゃ、仲直りするからしょーさんの部屋、泊まっていい?」
「うん、なるくんは翔のお部屋でいいかなーと思ってた。お布団持って行こうと思うけど、翔の部屋に敷けるかなあ?」
「いんじゃない? 翔くんのベッドで。こないだもなる、寝相悪いからベッドから落ちて翔くんと一緒に寝てたし」

 玲子に言われ、見られていたのかと、成親がほんのり赤くなる。
「なるくん、それでもいい?」
「いいよー。ね、しょーさん」
 成親が微笑むと、やっと翔が照れた表情を見せてくれ。

「……いんじゃね?」
 の言葉に安心した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

処理中です...