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【7】Angelsilica
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「彬」
二人が去ったリビングで、皇は彬が泣き止むまでずっと抱きしめていた。
彬にはどこか、感情が欠落しているのだろうことは皇も気付いていて。
でもその責任は自分にもあることは、わかっていた。
ずっと昔から、彬の両親が多忙で不在がちなことは知っていたし、それを姉である静がフォローするように友人を招いては彬の周りに人を絶やさないようにしていたから。
静とはバッテリーを組んだこともあるし、女子だからと甘える体質の人間ではなくどちらかというと男勝りなヤツだったから、皇も完全に男友達のように接していて。
その静が弟である彬を大事にしていたから、自然と自分も彬を大事に想っていて、きっとその感覚がそのままセックスに繋がったのだろうとは思う。
ただ、その時には自分もまだサルに近かったから、行為が愛情を伴うべきか否かなんて教えることもなくて。
気持ちイイ、ということだけを与えた皇としても、その根底に恋愛感情なんてまだ持っていなかったわけで。
でも彬のことが可愛いと思っていたのは昔から。
好きとか愛してるとか、そんな感情はわからないけれど。
ただ可愛かったから、触ってみたくて。
触ってたら、反応するからそれも可愛くて。
いつの間にかそれが当たり前になっていた。
彬が自分に甘えてくるのも嬉しいし、静には話せないことも彬には話せた。
だから、彬が傍にいるのは当たり前で、静が“いてやってくれ”なんて言わなくても、傍にいるつもりだったし、実際傍にいると思っていた。
でも、自分が思うより、そして彬自身が自覚するよりもずっと、どうやら彬は皇のことを求めていたみたいで。
静はきっとそれを誰よりも見抜いていたのだろう。
だから、弟を託す相手に皇を選んだ。
「ごめんな、彬。寂しい想いさせて」
もっと、傍にいてやればよかった。
束縛したくないからと自由にさせていたことが、彬を寂しがらせる結果になっていたとは思ってもいなかった。
「こおくん……俺、こおくんのこと、好き、なのかな?」
涙が落ち着いたようで、彬がぽつりと言った。
「そおなんじゃねーの?」
親指で、涙を拭ってやる。
「なるのこと、可愛いと思ったし、しょおくん抱くのも愉しかったけど。俺、でもずっとこおくんのこと、求めてたのかもしれない」
皇の腕の中に収まっている彬が、ぽつぽつと話すのは皇に対してというよりはむしろ自分自身に対して。
不思議な感覚なのは、皇も同じで。
成親が真剣な顔で“好きだからセックスするんだろ”なんて言ったのを、鼻で笑っていた自分でさえ、手の中の彬を愛しく想えてくるのがあまりにも奇妙な感覚だから。
なんなんだあいつは、と。彬を抱きしめながら思う。
「こおくん」
「ん?」
「こおくんも、俺のこと、好き?」
「……あー、かなあ? 前に静にも訊かれたなー、それ」
たまたま、ヤってるトコを見られた静に、問い質された時は曖昧に答えた。
実際、好きか嫌いかの二択ならば間違いなく好きなんだろう。
けれど、独占したいとか愛しいとか、そんな綺麗な感情を抱いているとは、当時は思っていなかったから。
お互い自由に求め合う方が楽だった。
だって縛りたくないのは縛られたくないから。
それでも極力彬の求める時には応じていたし、それで十分だと思っていた。
けれどもそれでは、彬の心が満たされていなかったのならば。
満たしてやりたいと、今なら想える。
「好きだよ」
自分で言ってみて、物凄く陳腐に感じてしまって。
「うっわ。こっぱずかしいな、こんなん。初めてゆったぞ」
照れくさくて、頭を掻く。
ただ、そう言った瞬間、彬が今まで見たことのない柔らかな笑顔で微笑んだから。
それは本当に“可愛い”くて。
元々彬の綺麗な顔のことは、好みのタイプだと思う。
周りは皆、静が美人で彬がそれに似てると言うけれど、皇には静は“キツ”過ぎる。
綺麗かもしれないが、造り物のようなそれに惹かれることはなかった。
でも彬は。
時々見せる寂しさや、静に甘える顔もそれを満たされた時の喜びの表情も、皇にはこの上なく可愛く見える。
結局、成親に言われて自覚したのは彬だけじゃなく自分も。
この“可愛いと思う”、というのが“惚れてる”ってことなのだろうと、漸く気付いた。
「彬」
名前を呼ぶと、
「こおくん」
鼻にかかった声で返してくる。
いつだって、自分に対してその名前を呼ぶ声は誰よりも甘えた声色で。
なんだ、いつもこいつは俺が好きだから甘えていたのか、と。
おかしいくらい、愛しく想えて。
「抱いていい?」
耳元に囁いた。
うん。こんな可愛いヤツ、抱かずにいれるかっつの。
「いいよ。もちろん」
彬が嬉しそうに答え、目を閉じたからキスをした。
二人が去ったリビングで、皇は彬が泣き止むまでずっと抱きしめていた。
彬にはどこか、感情が欠落しているのだろうことは皇も気付いていて。
でもその責任は自分にもあることは、わかっていた。
ずっと昔から、彬の両親が多忙で不在がちなことは知っていたし、それを姉である静がフォローするように友人を招いては彬の周りに人を絶やさないようにしていたから。
静とはバッテリーを組んだこともあるし、女子だからと甘える体質の人間ではなくどちらかというと男勝りなヤツだったから、皇も完全に男友達のように接していて。
その静が弟である彬を大事にしていたから、自然と自分も彬を大事に想っていて、きっとその感覚がそのままセックスに繋がったのだろうとは思う。
ただ、その時には自分もまだサルに近かったから、行為が愛情を伴うべきか否かなんて教えることもなくて。
気持ちイイ、ということだけを与えた皇としても、その根底に恋愛感情なんてまだ持っていなかったわけで。
でも彬のことが可愛いと思っていたのは昔から。
好きとか愛してるとか、そんな感情はわからないけれど。
ただ可愛かったから、触ってみたくて。
触ってたら、反応するからそれも可愛くて。
いつの間にかそれが当たり前になっていた。
彬が自分に甘えてくるのも嬉しいし、静には話せないことも彬には話せた。
だから、彬が傍にいるのは当たり前で、静が“いてやってくれ”なんて言わなくても、傍にいるつもりだったし、実際傍にいると思っていた。
でも、自分が思うより、そして彬自身が自覚するよりもずっと、どうやら彬は皇のことを求めていたみたいで。
静はきっとそれを誰よりも見抜いていたのだろう。
だから、弟を託す相手に皇を選んだ。
「ごめんな、彬。寂しい想いさせて」
もっと、傍にいてやればよかった。
束縛したくないからと自由にさせていたことが、彬を寂しがらせる結果になっていたとは思ってもいなかった。
「こおくん……俺、こおくんのこと、好き、なのかな?」
涙が落ち着いたようで、彬がぽつりと言った。
「そおなんじゃねーの?」
親指で、涙を拭ってやる。
「なるのこと、可愛いと思ったし、しょおくん抱くのも愉しかったけど。俺、でもずっとこおくんのこと、求めてたのかもしれない」
皇の腕の中に収まっている彬が、ぽつぽつと話すのは皇に対してというよりはむしろ自分自身に対して。
不思議な感覚なのは、皇も同じで。
成親が真剣な顔で“好きだからセックスするんだろ”なんて言ったのを、鼻で笑っていた自分でさえ、手の中の彬を愛しく想えてくるのがあまりにも奇妙な感覚だから。
なんなんだあいつは、と。彬を抱きしめながら思う。
「こおくん」
「ん?」
「こおくんも、俺のこと、好き?」
「……あー、かなあ? 前に静にも訊かれたなー、それ」
たまたま、ヤってるトコを見られた静に、問い質された時は曖昧に答えた。
実際、好きか嫌いかの二択ならば間違いなく好きなんだろう。
けれど、独占したいとか愛しいとか、そんな綺麗な感情を抱いているとは、当時は思っていなかったから。
お互い自由に求め合う方が楽だった。
だって縛りたくないのは縛られたくないから。
それでも極力彬の求める時には応じていたし、それで十分だと思っていた。
けれどもそれでは、彬の心が満たされていなかったのならば。
満たしてやりたいと、今なら想える。
「好きだよ」
自分で言ってみて、物凄く陳腐に感じてしまって。
「うっわ。こっぱずかしいな、こんなん。初めてゆったぞ」
照れくさくて、頭を掻く。
ただ、そう言った瞬間、彬が今まで見たことのない柔らかな笑顔で微笑んだから。
それは本当に“可愛い”くて。
元々彬の綺麗な顔のことは、好みのタイプだと思う。
周りは皆、静が美人で彬がそれに似てると言うけれど、皇には静は“キツ”過ぎる。
綺麗かもしれないが、造り物のようなそれに惹かれることはなかった。
でも彬は。
時々見せる寂しさや、静に甘える顔もそれを満たされた時の喜びの表情も、皇にはこの上なく可愛く見える。
結局、成親に言われて自覚したのは彬だけじゃなく自分も。
この“可愛いと思う”、というのが“惚れてる”ってことなのだろうと、漸く気付いた。
「彬」
名前を呼ぶと、
「こおくん」
鼻にかかった声で返してくる。
いつだって、自分に対してその名前を呼ぶ声は誰よりも甘えた声色で。
なんだ、いつもこいつは俺が好きだから甘えていたのか、と。
おかしいくらい、愛しく想えて。
「抱いていい?」
耳元に囁いた。
うん。こんな可愛いヤツ、抱かずにいれるかっつの。
「いいよ。もちろん」
彬が嬉しそうに答え、目を閉じたからキスをした。
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