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14 憧れのひと

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 国王の補佐やレッスンに明け暮れている内に春を迎えた。相変わらずメリンダには嫌われているが、パトリシアとはかなり距離が近付いたように思う。
 メリンダはアイリスが努力して結果を出すと忌々しい顔をするけれど、パトリシアは喜んでさらに深い知識を与えてくれる。本当に真逆な二人である。

 パトラと呼ぶことも許してもらえたので、アイリスとパトラはお互いに名前で呼び合っていた。
 今日のレッスンはもうすぐ終わる。パトラのレッスン中は見学者が誰もいないし、個人的な質問をしても構わないだろうか―――アイリスは迷いながら話しかけた。

「あのう、パトラ嬢。わたしを子供扱いしてくる人に、大人の女性だと認めさせるにはどうしたらいいと思います?」

 パトラが持っていたテキストがばさばさと床に落ちた。彼女の白い頬は薔薇のように赤く染まり、目はこれでもかというぐらい見開いている。しばらくしてパトラは震えながら叫んだ。

「あ、アイリス様も、同じことで悩んで……!?」

「えっ? 同じこと?」

「あっ」

 慌てて口を手で塞いでいる。思わず出た言葉だったのか、パトラの顔には「しまった」と書いてあった。

「同じことというのは何ですか? つまり、パトラ嬢も誰かに大人の女性だと認めてもらいたいという……」

「全部言わないでください! は、恥ずかしいです……」

 パトラの赤い顔を見ながら、ようやく謎が解けたような気分だった。彼女には想う人がいるのだ。だからアイリスが王妃になることに抵抗がなかったのだろう。

「大人だと認めてもらいたいという事は、パトラ嬢よりも年上の方なのですね。同じように悩む人が身近にいるなんて心強いです」

 にこりと微笑むと、パトラは「んんっ」と咳払いした。そして言いにくそうにぼそぼそと話す。

「アイリス様が認めて貰いたいお人は陛下なのでしょう。私だけ知っているのも不公平ですし、正直に言いますわ……。私は騎士団長さまをお慕いしているのです」

「えっ」

 騎士団長って、あの人だよね?

 アイリスは王宮に連れて来られた日を思い出していた。堂々と現れた彼は確かにとても格好よかったが―――。

「……騎士団長さまは結構お年ではなかったですか? 三十は超えているように見えましたが」

 アイリスが言うと、パトラはふう、とため息をついた。

「そこがいいのです。男は三十を超えてこそ素敵な渋みが出てくるのですよ。十代や二十代なんてまだまだ若造という感じで……」

 そういうものなんだろうか。ではヨシュアも、あと四年したらもっと男として深くなると?
 ますます厄介な人物になってそうな気がするけど。

 どうやらパトラは何年も前から騎士団長に思いをつのらせていたらしい。彼は前王の時代、何回か命令に背いて謹慎処分を受けたこともあったそうで、その騎士らしい精神が好きなのだと彼女は話した。

 アイリスとしては腑に落ちない。だってアイリスは騎士団長に無理やり王宮まで連れてこられたのだ。彼はヨシュアに対して忠誠を誓っているから、捨てられた王女のことなど二の次なのだろう。
 まあ、ヨシュアが王女に対して酷いことをしないと分かっていたのかもしれないけれど。

 それでもこうして頬を染めながら好きな人の話をするパトラは、いじらしくてとても可愛い。何か彼女にしてやれることはないだろうか。

 いつも真剣に勉強を教えてくれるし、わたしだって力になってあげたい。
 パトラの話を聞きながらアイリスはあれこれ考えていた。
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