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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?

34 恐怖の鬼(オーガ)ごっこ

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「この広い庭を使って、今から鬼ごっこをしよう」

「ああ、やっぱりだ」

「だからその、知ってましたぁ~な口調をやめろと言っとるだろうが! キーファ!」

「ハイハイ。子供にはちょっと怖いかもしれないなぁ。キーファ・レーヴェンが命じる。召喚――オーガ」

 キーファが唱えると、地面に円が重なった模様が現れた。プロクスが出てくるときと同じだ。地面から芽が伸びるように、召喚された生き物の頭部がにょきにょきと現れる。が、出てきたのはプロクスとは似ても似つかない不気味な生き物だった。

『げぇ!? きっ気持ち悪ぅ!』

『魔物だ! 頭に角が生えてんぞォ!?』

 私と親ビンが大騒ぎしても、セル様は黙ったままじっと地面を見ている。かすかに体を震わせながら、睨みつけるような鋭い眼差しで魔物を見ている。

 黒っぽい緑色の硬そうな皮膚に、額に生えた二本の角。身長は三メートルほどで、たった一つの大きな目がギョロギョロと盛んに動いている。鬼だ。本物の鬼だ。

「こいつはちょっと珍しいオーガでね。目が一個しかないから、周りがよく見えないみたいなんだ。だから子供相手の追いかけっこにはピッタリだと思って、エリック殿下に提案してみた。鬼ごっこしたらどうかなって……楽しそうだろ?」

 キーファが恍惚とした表情で語った。確かに気持ち悪い魔物だけど、コレクターみたいなモノ扱いする言い方はどうなんだろう。
 プロクスを大切にしているハル様とは全然違うクズだ。私たちをいたぶるために魔物を召喚するクズがいるとは思わなかった。

「どうだぁ? 怖いだろう。降参するなら今のうちだぞ。セルディスよ、諦めて私の提案に乗りなさい」

「いやですっ! 命にかけて守ると言ったでしょう!」

「ふぅ、残念だなぁ……。やはりおまえは三年前に死ぬべきだったな。オーガになぶり殺しにされるぐらいなら、あの時に殺してやれば良かった」

 え? 今、なんて?
 私の頭の上で、セル様がヒュッと息をのむ音がした。

「や、やっぱり……エリック殿下が、あの事故を起こしたんですか!?」

「その“やっぱり”は当たりだぞ。ふはは……。でもあの馬車にハルディアも乗ってたら最高だったな。まとめて始末できたらスカッとしたものを」

「このクズ! クズ王子! 絶対に許さないぞ、告発してやる!」

「それも生きて帰れたら、の話だろう? 安心しろ、その鳥も犬もまとめてあの世に送ってやる。どこかの森に迷いこんだ子供が、魔物にたまたま遭遇して死んでしまった――そういう筋書きだ。よくある話だ」

「ペペは聖獣の雛だぞ! ペペが死んじゃったら、南大陸は瘴気だらけになる! たくさんの人が死ぬんだぞ!」

 セル様は正論を叫んだが、エリック殿下は何ともなさそうな顔で言った。

「そのうち魔法院の奴らが瘴気を浄化する方法を見つけるだろう。なにも聖獣に頼る必要はない。魔法さえあれば、どんな事でも可能だ! 王都を完全に大地と切り離して、魔物に襲われる心配のない空中要塞にしてみせよう! ふははぁ!」

「く、狂ってる……。こんな奴が王子だなんておかしいよ!」

「そろそろいいですかぁ? エリック殿下は話が長いんだよな。オーガが待ちくたびれてるんだけど」

 キーファがのんびりした口調で言うと、エリック殿下は短い足を動かして屋敷の中に入って行った。しばらくして二階のバルコニーに現れ、室内から持ち出した椅子にどっかりと座る。安全な場所から高みの見物をするつもりらしい。本っ当にゲス王子だ。

「よぉし、いい眺めだ。キーファ、始めろ」

「ハイハイ。オーガ、子供と動物を追いかけろ。好きなだけ遊んでいいぞ」

「グフォォォオオオッ!!」

 それまで大人しくしていたオーガが、涎を垂らしながら嬉しそうに叫んだ。空気がビリビリと震え、セル様がたまりかねたように耳を塞ぐ。

「ウォン! ウォォンッ!」

 親ビンがオーガの足元に近寄り、わざとらしく大声で吠えた。オーガを自分に引きつけて、セル様を守ろうとしているらしい。親ビンの狙いどおりオーガが犬の声に反応し、ズシン、ズシンと地面をかすかに揺らしながら歩き始めた。

「ガイ、駄目だよ! 無理しないで!」
『ペペ! セルディス様の口を塞げェ! こいつは音に反応する!』
『わ、分かった!』
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