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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
58 ご乱心?
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天井を円形にくり貫いた窓から月が見える。今夜は満月ではないけれど、雲が少ないから明るい夜のようだ。
「史上初、霊山で入る風呂! 最っ高ですね! やっぱり簡易風呂セットを持ってきて良かったぁ」
「気持ちいいペエ。爽真たちも入れば良かったのにペ」
私とネネさんは山小屋の横に設置した小さなお風呂に入っていた。一畳ぐらいの脱衣所と、二畳ぐらいの狭い風呂場がくっ付いた部屋だ。浴槽に魔法で温かいお湯をはり、二人仲良く入浴中である。ハル様と爽真は遠慮するとの事で、さっさと寝てしまった。
「ネネさん、背中とおなか痛くないペ? なんか痛そうだペエ……」
「古い傷なので、もう痛みはないですよ。大丈夫です」
ネネさんの背中やお腹は傷の痕だらけだった。奴隷の時に受けた傷のようで、商品価値が下がらないように首から下だけを痛めつけられたらしい。見ていると悲しくなってきて、勝手に傷を撫でてしまう。
しばらく私の様子を見ていたネネさんは、ふと思い出したように口を開いた。
「リノ様が公爵様と同行しているのは、魅了と関係があるんですか?」
「……? ミリョー? みりんなら知ってるけど、ミリョーってのは良く知らないペエ」
「魅了というのは、誰かを虜にする不思議な力のことですよ。公爵様の瞳は不思議な色をしてるでしょう。あれは魅了眼と言って、魔物を虜にする力を秘めています。とても珍しい目なんですよ。あの力で翼竜も魅了したのだとか……羨ましい話ですねぇ」
「へえーっ! 確かにプールの水みたいな不思議な色だと思ってたペエ。でも私がハル様と一緒にいるのは、魅了のせいじゃないペ」
「あれ? 違いました?」
「お世話になってる内に、この人はいい人だなぁ、助けてあげたいなぁと思ったから一緒にいるペエ」
最初にハル様を見たとき、もの凄いイケメンだと思った。でも虜になるほど見惚れた訳ではないから、あれは魅了されたとは言えないだろう。最初の夜は「名付けセンスが壊滅的な人だ」とか思ってたし。
「……ん? って事は、プロクスはハル様に魅了されたから懐いてるペエ? でも魅了っていうより、ただのペットみたいな感じがするペ」
「それは公爵様の人柄によるところでしょう。一般的に魔物って、ボコボコに痛めつけてプライドをへし折らないと召喚契約してくれないんですけど、公爵様は名前まで付けて可愛がってるみたいですし。でも召喚対象に名前を付けてる人、初めて見ました」
「えっ。プロクスって名前だったペエ!? 翼竜のことだと思ってたペ!」
「そのままだと、ドラグーンとかドラコーンという名称になりますかね。プロクスは公爵様が付けた名前だと思います」
えぇぇ。私には『ペペ』なのに、何故にあのキザ竜には『プロクス』? その時にだけ、神がかり的なセンスが働いたのか。あるいは傍にいた誰かがヒントを与えたのか。まったくもう。
私とネネさんは体の芯までしっかり温まってからお風呂を出た。お湯は捨ててお風呂セットも収納し、山小屋に戻ると二段ベッドの片方で男性二人が寝ている。上が爽真、下がハル様だ。
私は梯子を登れそうにないので、ネネさんが上段で寝てくれることになった。物音を立てないように注意しながら、そっと毛布にくるまった……のだが、どうにも眠れない。
(霊山に来てから、ずっと頭の中で誰かが呼んでる声がするんだよね……。私の体が呼んでるのかな)
眠れない。声が気になるし、ずっとおんぶされてた影響なのか、いまいち眠くならない。何度もゴロゴロと寝返りを打っていると、少し離れた場所からカタンと音がした。
さては下衆人間キーファが襲ってきたのかと身構えていたら、ハル様が起きてドアを開けている。こんな時間にどこへ行くというのか。
私は心配になり、短い足を必死の思いで伸ばして床に着地した。プルプルする瞬間は誰にも見られたくないものだ。爽真もネネさんも寝ているみたいで良かった。
そしてコソ泥のように足音を立てないようにしてドアの外に出ると、ハル様はぼんやりと月を見上げている。こんな時間に月見? しかも霊山で?
「ご乱心かもしれないペ。私が目を覚まさせてあげるペエ……!」
「……ん?」
動揺のあまり心の声が漏れてしまった。私に気付いたハル様が振り向き、爛々と光るプール色の目でこちらを見ている。いやもう、本気で怖い。
「ハッ、ハル様……! どうか正気にお戻りあそばせペエッ!」
「なにを訳の分からないことを言ってるんだ。目が覚めたから、外の空気を吸おうと思っただけだぞ」
え。ご乱心じゃない? これじゃまるで私の一人芝居じゃないの。
「史上初、霊山で入る風呂! 最っ高ですね! やっぱり簡易風呂セットを持ってきて良かったぁ」
「気持ちいいペエ。爽真たちも入れば良かったのにペ」
私とネネさんは山小屋の横に設置した小さなお風呂に入っていた。一畳ぐらいの脱衣所と、二畳ぐらいの狭い風呂場がくっ付いた部屋だ。浴槽に魔法で温かいお湯をはり、二人仲良く入浴中である。ハル様と爽真は遠慮するとの事で、さっさと寝てしまった。
「ネネさん、背中とおなか痛くないペ? なんか痛そうだペエ……」
「古い傷なので、もう痛みはないですよ。大丈夫です」
ネネさんの背中やお腹は傷の痕だらけだった。奴隷の時に受けた傷のようで、商品価値が下がらないように首から下だけを痛めつけられたらしい。見ていると悲しくなってきて、勝手に傷を撫でてしまう。
しばらく私の様子を見ていたネネさんは、ふと思い出したように口を開いた。
「リノ様が公爵様と同行しているのは、魅了と関係があるんですか?」
「……? ミリョー? みりんなら知ってるけど、ミリョーってのは良く知らないペエ」
「魅了というのは、誰かを虜にする不思議な力のことですよ。公爵様の瞳は不思議な色をしてるでしょう。あれは魅了眼と言って、魔物を虜にする力を秘めています。とても珍しい目なんですよ。あの力で翼竜も魅了したのだとか……羨ましい話ですねぇ」
「へえーっ! 確かにプールの水みたいな不思議な色だと思ってたペエ。でも私がハル様と一緒にいるのは、魅了のせいじゃないペ」
「あれ? 違いました?」
「お世話になってる内に、この人はいい人だなぁ、助けてあげたいなぁと思ったから一緒にいるペエ」
最初にハル様を見たとき、もの凄いイケメンだと思った。でも虜になるほど見惚れた訳ではないから、あれは魅了されたとは言えないだろう。最初の夜は「名付けセンスが壊滅的な人だ」とか思ってたし。
「……ん? って事は、プロクスはハル様に魅了されたから懐いてるペエ? でも魅了っていうより、ただのペットみたいな感じがするペ」
「それは公爵様の人柄によるところでしょう。一般的に魔物って、ボコボコに痛めつけてプライドをへし折らないと召喚契約してくれないんですけど、公爵様は名前まで付けて可愛がってるみたいですし。でも召喚対象に名前を付けてる人、初めて見ました」
「えっ。プロクスって名前だったペエ!? 翼竜のことだと思ってたペ!」
「そのままだと、ドラグーンとかドラコーンという名称になりますかね。プロクスは公爵様が付けた名前だと思います」
えぇぇ。私には『ペペ』なのに、何故にあのキザ竜には『プロクス』? その時にだけ、神がかり的なセンスが働いたのか。あるいは傍にいた誰かがヒントを与えたのか。まったくもう。
私とネネさんは体の芯までしっかり温まってからお風呂を出た。お湯は捨ててお風呂セットも収納し、山小屋に戻ると二段ベッドの片方で男性二人が寝ている。上が爽真、下がハル様だ。
私は梯子を登れそうにないので、ネネさんが上段で寝てくれることになった。物音を立てないように注意しながら、そっと毛布にくるまった……のだが、どうにも眠れない。
(霊山に来てから、ずっと頭の中で誰かが呼んでる声がするんだよね……。私の体が呼んでるのかな)
眠れない。声が気になるし、ずっとおんぶされてた影響なのか、いまいち眠くならない。何度もゴロゴロと寝返りを打っていると、少し離れた場所からカタンと音がした。
さては下衆人間キーファが襲ってきたのかと身構えていたら、ハル様が起きてドアを開けている。こんな時間にどこへ行くというのか。
私は心配になり、短い足を必死の思いで伸ばして床に着地した。プルプルする瞬間は誰にも見られたくないものだ。爽真もネネさんも寝ているみたいで良かった。
そしてコソ泥のように足音を立てないようにしてドアの外に出ると、ハル様はぼんやりと月を見上げている。こんな時間に月見? しかも霊山で?
「ご乱心かもしれないペ。私が目を覚まさせてあげるペエ……!」
「……ん?」
動揺のあまり心の声が漏れてしまった。私に気付いたハル様が振り向き、爛々と光るプール色の目でこちらを見ている。いやもう、本気で怖い。
「ハッ、ハル様……! どうか正気にお戻りあそばせペエッ!」
「なにを訳の分からないことを言ってるんだ。目が覚めたから、外の空気を吸おうと思っただけだぞ」
え。ご乱心じゃない? これじゃまるで私の一人芝居じゃないの。
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