30 / 46
第7章:触れたい、でも壊してしまいそうで
助けたいだけやのに、あかんのですか?
しおりを挟む
非常階段の鉄扉を閉めたとき、音が少しだけ大きく響いた。
夜のビルの中、喧騒から離れたその場所は、まるで世界から切り離されたように静かだった。
風が階段の隙間から吹き抜けていく。
薄いシャツ越しにその冷たさがじわりと染みる。
でも、そんな寒ささえ、陸の感情の熱には追いつかなかった。
目の前にいる玲は、コンクリートの手すりにもたれていた。
視線は足元の一点を見つめていて、顔は強張ったまま動かない。
それでも、どこかで何かを言おうとしているのが、伝わってきた。
けれど、言葉は来なかった。
その沈黙に、陸の心の底から、抑えていたものが溢れた。
「俺、無理やりどうこうしたいわけやないです」
玲が、わずかに肩を揺らす。
「ただ……助けたいだけなんです」
陸の声は、途中から少し震えた。
気持ちが先に出てしまって、言葉が追いつかない。
「如月さんがしんどそうにしてたら、ほっとけへん。
それって……そんなに、迷惑ですか」
玲は何も答えなかった。
「俺が、ただ隣にいたいって思うのも……あかんのですか?」
その言葉に、ようやく玲が顔を上げた。
目が驚いたように開かれたまま、動かない。
風がふたりの間を吹き抜けていく。
その音だけが、沈黙をかき乱していた。
玲は視線を陸に合わせたまま、口を開きかけて……何も言えなかった。
喉が動いたのに、言葉が出てこない。
その代わりに、目の奥に涙の光が浮かんでいた。
それでも、泣くこともできなかった。
玲は、ただ目を伏せ、手すりに背を預けたまま、そっと言った。
「……何も言えんくて、ごめん」
その声が、あまりにも静かで、あまりにも弱々しかった。
陸は、言葉を返すことができなかった。
そこには、答えなんて求めていない玲の本音があった。
本当は何かを返したいのに、それができないままの苦しさが、にじんでいた。
玲は、強がっていたわけではなかった。
ただ、自分のなかにある怖さに、まだ打ち勝てなかっただけだった。
「……俺、何回でも言いますから」
陸は、それだけを、ただ穏やかに言った。
「そのとき、受け取れるようになったらでええから」
玲は頷きもせず、否定もせず、ただ風に目を細めた。
非常階段の灯りは、昼間よりずっと柔らかかった。
二人の影が長く落ちて、足元に寄り添っていた。
その夜、何も進まなかったのかもしれない。
でも、何かが“止まらずに”いたことだけは、確かだった。
夜のビルの中、喧騒から離れたその場所は、まるで世界から切り離されたように静かだった。
風が階段の隙間から吹き抜けていく。
薄いシャツ越しにその冷たさがじわりと染みる。
でも、そんな寒ささえ、陸の感情の熱には追いつかなかった。
目の前にいる玲は、コンクリートの手すりにもたれていた。
視線は足元の一点を見つめていて、顔は強張ったまま動かない。
それでも、どこかで何かを言おうとしているのが、伝わってきた。
けれど、言葉は来なかった。
その沈黙に、陸の心の底から、抑えていたものが溢れた。
「俺、無理やりどうこうしたいわけやないです」
玲が、わずかに肩を揺らす。
「ただ……助けたいだけなんです」
陸の声は、途中から少し震えた。
気持ちが先に出てしまって、言葉が追いつかない。
「如月さんがしんどそうにしてたら、ほっとけへん。
それって……そんなに、迷惑ですか」
玲は何も答えなかった。
「俺が、ただ隣にいたいって思うのも……あかんのですか?」
その言葉に、ようやく玲が顔を上げた。
目が驚いたように開かれたまま、動かない。
風がふたりの間を吹き抜けていく。
その音だけが、沈黙をかき乱していた。
玲は視線を陸に合わせたまま、口を開きかけて……何も言えなかった。
喉が動いたのに、言葉が出てこない。
その代わりに、目の奥に涙の光が浮かんでいた。
それでも、泣くこともできなかった。
玲は、ただ目を伏せ、手すりに背を預けたまま、そっと言った。
「……何も言えんくて、ごめん」
その声が、あまりにも静かで、あまりにも弱々しかった。
陸は、言葉を返すことができなかった。
そこには、答えなんて求めていない玲の本音があった。
本当は何かを返したいのに、それができないままの苦しさが、にじんでいた。
玲は、強がっていたわけではなかった。
ただ、自分のなかにある怖さに、まだ打ち勝てなかっただけだった。
「……俺、何回でも言いますから」
陸は、それだけを、ただ穏やかに言った。
「そのとき、受け取れるようになったらでええから」
玲は頷きもせず、否定もせず、ただ風に目を細めた。
非常階段の灯りは、昼間よりずっと柔らかかった。
二人の影が長く落ちて、足元に寄り添っていた。
その夜、何も進まなかったのかもしれない。
でも、何かが“止まらずに”いたことだけは、確かだった。
11
あなたにおすすめの小説
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
壊すほどに、俺はお前に囚われている
氷月
BL
【後輩と先輩、交錯する心と体】
春、新学期の大学キャンパス。
4年の蓮(レン)は、人気者らしく女子に囲まれながらも、なぜか新入生・七瀬巧(タクミ)の姿を探してしまう自分に気づいていた。
彼は去年の秋、かつて蓮が想いを寄せていた男の恋人の友人として出会った相手。
――まさか、この俺様が、また男に惹かれるなんて。
否定しようとすればするほど、目はタクミを追ってしまう。
無邪気に笑う顔。ふと見せる真剣な横顔。
先輩と後輩、互いに抗えない感情に囚われながら、夏の学園を駆け抜けていく――。
一緒に食べよう
河野彰
BL
三坂貴史(みさかたかし)は2年前に妻に先立たれ、娘の実咲貴(みさき)と一緒にマンションで暮らしていた。偏食の気がある実咲貴に困ったり、学童を断られたりと心労や疲労が続くなかで、同じマンションに住むフレンチシェフの一修吾(にのまえしゅうご)と出会う。
最初は実咲貴の安全を考えて警戒していた貴史だが、何度か偶然にも出会う内に修吾のおおらかさと手作りの料理とで次第に心を許していき……。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
デコボコな僕ら
天渡清華
BL
スター文具入社2年目の宮本樹は、小柄・顔に自信がない・交際経験なしでコンプレックスだらけ。高身長・イケメン・実家がセレブ(?)でその上優しい同期の大沼清文に内定式で一目惚れしたが、コンプレックスゆえに仲のいい同期以上になれずにいた。
そんな2人がグズグズしながらもくっつくまでのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる