リスタート・オーバー ~人生詰んだおっさん、愛を知る~

中岡 始

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これからも、二人で歩いていく

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 夜の公園を歩く足音が、静かに響く。

 並木道の街灯は間隔が広く、光と影が交互に揺れるように続いていた。

 肌に触れる夜風は冷たいが、隣を歩く蓮の存在が不思議と寒さを感じさせなかった。

 ふと、歩幅を合わせるように寄ってきた蓮が、自然な動作で修一の手を取った。

 指先が触れ合い、やがてしっかりと絡められる。

 抵抗する間もなかった。

 修一は眉をひそめ、蓮を横目で睨むように見た。

「……お前、こういうの慣れすぎだろ」

 ぼやくように言うと、蓮はまるで当然だとでも言うように微笑んだ。

「倉持さんが鈍感すぎるだけです」

 さらっと言われて、言葉を詰まらせる。

 確かに、こいつは最初からずっとそうだった。

 迷いなく距離を詰めてきて、どれだけ突き放しても平然と戻ってきた。

 そのたびに、修一は戸惑い、苛立ち、そして――少しずつ心を開かされていった。

 今、この手を握られることにも、そこまで強く拒否する気にはなれない。

 それが自分でもわかってしまって、ますますバツが悪くなる。

「……チッ、お前、ほんとずるいわ」

 舌打ち交じりに呟く。

 だが、それ以上は何も言わず、手を振り払うこともしなかった。

 蓮が握る手の温かさが、夜の冷えた空気の中でじんわりと伝わってくる。

 以前の自分なら、こんな状況を考えもしなかった。

 会社がなくなり、結婚生活も終わり、ただ酒を飲んで時間を潰していた。

 先なんて何も見えず、考えようともしなかった。

 でも、気づけばここにいた。

 蓮とともに、カフェで働き、同じ時間を過ごし、こうして並んで歩いている。

 ――俺の人生、終わったと思ってたのにな。

 そう思ったとき、ふと笑いがこみ上げた。

 何も言わず、静かな公園を歩き続ける。

 手を繋いだまま、街灯の下を抜けて、長く続く並木道の先へ。

 もう、「終わった」なんて言葉は、どこにもなかった。
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