リスタート・オーバー ~人生詰んだおっさん、愛を知る~

中岡 始

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触れてほしいのは俺のほうかもしれねぇ

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 部屋の灯りを落とすと、静寂が訪れた。

 いつものように蓮のベッドに横になり、薄い布団を肩まで引き上げる。

 すっかり馴染んだ夜のはずだった。

 なのに、今夜はどうにも落ち着かない。

 枕元のデジタル時計が、静かに秒を刻んでいる。

 眠れない。

 いつもなら、布団に入ってしまえばすぐに寝落ちていたのに。

 修一は寝返りを打ち、僅かに視線をずらした。

 すぐ隣に蓮がいる。

 向こうはいつも通り、落ち着いた様子で横になっている。

 だが、意識してしまう。

 こいつの体温、呼吸のリズム、シーツの擦れる音。

 それが気になって、胸の奥が妙にざわついた。

 ――なんで、こいつは何もしてこねぇんだ?

 蓮は、確かに自分を欲しがっているはずだった。

 それはもう、わかりきっている。

 今まで散々、向こうから仕掛けてきて、そのたびに突き放してきたのは自分だ。

 だが、今は違う。

 蓮は何も言わず、何も求めてこない。

 まるで、じっと待っているかのように。

 それが、どうしようもなく気に食わなかった。

 ――触れてほしいのは、俺のほうかもしれねぇな。

 唐突に浮かんだ考えに、自分で驚く。

 まさか、そんなことを思う日が来るなんて。

 これまで散々拒んできた手前、自分から言い出せるはずもない。

 けれど、胸の奥が焦れて仕方がなかった。

「……お前、今日はやけに静かじゃねぇか」

 口をついて出た言葉は、いつものぶっきらぼうな調子だった。

 蓮はゆっくりと目を開ける。

 暗がりの中でも、その双眸ははっきりとこちらを見ていた。

「倉持さんが、どうしたいのか待ってるんですよ」

 落ち着いた声。

 まるで、自分の気持ちを見透かしているかのような口調だった。

 修一は咄嗟に言葉を飲み込む。

「待つって、お前……」

「もう逃げないって、信じてますから」

 確信に満ちた言葉だった。

 その瞬間、鼓動が跳ねるのを感じた。

 蓮は何もしていない。

 ただ、修一の答えを待っているだけだ。

 だが、それが余計に心を揺さぶった。

 自分の意思で、一歩を踏み出さなければならない。

 そう思った瞬間、喉が妙に渇いた気がした。
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