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本なんて読んでも意味ない
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「だからさ、本なんて読んでも意味ないんだよ」
陽向はあくびをしながら、だるそうに言い放った。
「読んでるやつって、結局『俺、知的です』みたいな雰囲気出したいだけじゃね?」
トラ老師はピクリと耳を動かした。
「ふむ……」
陽向は腕を組み、どこか得意げな顔で続ける。
「だってさ、結局フィクションって作り話だろ? 作り話を読んで、何が得られるっていうんだよ」
「ほう」
トラ老師は、ゆっくりと毛づくろいをしながら、気だるそうに言った。
「では聞くが、お前は何のためにゲームをする?」
「は? ゲーム?」
「そうだ。お前は最近、スマホでよくゲームをやっているな」
「……いや、まぁ。なんとなく、暇つぶしだけど?」
「なるほど」
トラ老師は尻尾をパタン、と床に叩きつける。
「ならば、本もそれと同じだ」
「……は?」
「意味があるかどうかなんて、どうでもいい」
トラ老師は陽向をまっすぐに見つめ、こう言い放った。
「面白ければ、それでいいのだ」
陽向は、思わず言葉を失った。
「……え、いや、ちょっと待てよ」
さっきまで理屈っぽいことを言っていたくせに、急にそんな適当なことを言われても納得できない。
「お前、そんな雑な理屈でいいのかよ!?」
「雑ではない。至極まっとうな考え方だ」
トラ老師はそう言いながら、前足をぺろりと舐めた。
「お前は、意味のないものを無駄だと思っているようだが、むしろ人間というのは無駄なものにこそ価値を見出す生き物だろう?」
「……いや、そう言われても……」
「そもそも、読まずに批判するのは無意味だ」
トラ老師はひょいっと立ち上がり、軽やかに本棚の上へ飛び乗った。
「お、おい!? 俺んちの本棚に登んなよ!」
「細かいことを気にするな」
陽向の抗議を完全に無視し、トラ老師は棚の上でゆっくりと歩き回る。
そして、何冊かの本の背表紙を見つめながら、しっぽをゆったりと揺らした。
「さて……何を読ませるか」
そして、前足を伸ばし、いくつかの本をチョイ、チョイとつつき始めた。
「いや、何その選び方!? 適当すぎるだろ!」
「そう思うか?」
トラ老師はふと動きを止め、一冊の本を前足で押し出した。
そのまま本は、棚の端までスライドして──
バサッ。
「ほら、受け取れ」
「うわっ!?」
陽向の顔面めがけて、本が落下した。
反射的にキャッチしようとするが、間に合わず、見事に鼻の頭を直撃。
「ぐぇっ!!」
陽向は顔を押さえながら、その場でうずくまった。
「おい、いてぇよ!! もっと優しく渡せよ!!」
「文句を言うな、受け取れたのだから問題ない」
「全然問題しかねぇよ!!」
陽向は痛む鼻をさすりながら、本の表紙を睨みつけた。
タイトルは──
「……え、『走れメロス』?」
トラ老師は満足げに頷いた。
「うむ、それを読め」
陽向は、表紙をぼんやりと見つめる。
タイトルには聞き覚えがある。たしか、国語の教科書で一部だけ読まされた気がする。
「え、待てよ……これ、読まされたことある気がするんだけど」
「ほう、お前は最後まで読んだのか?」
「……いや、たしか授業で途中まで読んで、先生が『続きは各自読んでおくように』って言ってたような……」
「なるほど、つまり読んでいないのだな」
「……ぐっ」
言い返せず、陽向は口を噤んだ。
すると、トラ老師は、まるで勝ち誇ったかのように喉をゴロゴロと鳴らす。
「読まずに『つまらない』と決めつけるのは、想像力の欠如だ」
陽向は、ふてくされた顔で本を見つめた。
「……読めばいいんだろ、読めば……」
そう言いながら、しぶしぶページをめくる。
── こうして、陽向は「無理やり読書」を始めることになったのだった。
陽向はあくびをしながら、だるそうに言い放った。
「読んでるやつって、結局『俺、知的です』みたいな雰囲気出したいだけじゃね?」
トラ老師はピクリと耳を動かした。
「ふむ……」
陽向は腕を組み、どこか得意げな顔で続ける。
「だってさ、結局フィクションって作り話だろ? 作り話を読んで、何が得られるっていうんだよ」
「ほう」
トラ老師は、ゆっくりと毛づくろいをしながら、気だるそうに言った。
「では聞くが、お前は何のためにゲームをする?」
「は? ゲーム?」
「そうだ。お前は最近、スマホでよくゲームをやっているな」
「……いや、まぁ。なんとなく、暇つぶしだけど?」
「なるほど」
トラ老師は尻尾をパタン、と床に叩きつける。
「ならば、本もそれと同じだ」
「……は?」
「意味があるかどうかなんて、どうでもいい」
トラ老師は陽向をまっすぐに見つめ、こう言い放った。
「面白ければ、それでいいのだ」
陽向は、思わず言葉を失った。
「……え、いや、ちょっと待てよ」
さっきまで理屈っぽいことを言っていたくせに、急にそんな適当なことを言われても納得できない。
「お前、そんな雑な理屈でいいのかよ!?」
「雑ではない。至極まっとうな考え方だ」
トラ老師はそう言いながら、前足をぺろりと舐めた。
「お前は、意味のないものを無駄だと思っているようだが、むしろ人間というのは無駄なものにこそ価値を見出す生き物だろう?」
「……いや、そう言われても……」
「そもそも、読まずに批判するのは無意味だ」
トラ老師はひょいっと立ち上がり、軽やかに本棚の上へ飛び乗った。
「お、おい!? 俺んちの本棚に登んなよ!」
「細かいことを気にするな」
陽向の抗議を完全に無視し、トラ老師は棚の上でゆっくりと歩き回る。
そして、何冊かの本の背表紙を見つめながら、しっぽをゆったりと揺らした。
「さて……何を読ませるか」
そして、前足を伸ばし、いくつかの本をチョイ、チョイとつつき始めた。
「いや、何その選び方!? 適当すぎるだろ!」
「そう思うか?」
トラ老師はふと動きを止め、一冊の本を前足で押し出した。
そのまま本は、棚の端までスライドして──
バサッ。
「ほら、受け取れ」
「うわっ!?」
陽向の顔面めがけて、本が落下した。
反射的にキャッチしようとするが、間に合わず、見事に鼻の頭を直撃。
「ぐぇっ!!」
陽向は顔を押さえながら、その場でうずくまった。
「おい、いてぇよ!! もっと優しく渡せよ!!」
「文句を言うな、受け取れたのだから問題ない」
「全然問題しかねぇよ!!」
陽向は痛む鼻をさすりながら、本の表紙を睨みつけた。
タイトルは──
「……え、『走れメロス』?」
トラ老師は満足げに頷いた。
「うむ、それを読め」
陽向は、表紙をぼんやりと見つめる。
タイトルには聞き覚えがある。たしか、国語の教科書で一部だけ読まされた気がする。
「え、待てよ……これ、読まされたことある気がするんだけど」
「ほう、お前は最後まで読んだのか?」
「……いや、たしか授業で途中まで読んで、先生が『続きは各自読んでおくように』って言ってたような……」
「なるほど、つまり読んでいないのだな」
「……ぐっ」
言い返せず、陽向は口を噤んだ。
すると、トラ老師は、まるで勝ち誇ったかのように喉をゴロゴロと鳴らす。
「読まずに『つまらない』と決めつけるのは、想像力の欠如だ」
陽向は、ふてくされた顔で本を見つめた。
「……読めばいいんだろ、読めば……」
そう言いながら、しぶしぶページをめくる。
── こうして、陽向は「無理やり読書」を始めることになったのだった。
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