猫の先生は気まぐれに~あるいは、僕が本を読む理由

中岡 始

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読書は、すべてを理解するためのものではない

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 陽向は本を閉じ、ため息をついた。  

 「やっぱり、簡単な本にすればよかったかな…」  

 ページをめくるたびに、知らない言葉や難しい表現にぶつかる。  
 読んでいても、いまいち頭に入ってこない。  
 意味がわからないまま進むことに、なんとなく不安を覚える。  

 (せっかく買ったのに、楽しめなかったら意味ねえじゃん…)  

 横を見ると、トラ老師がのんびりと丸くなっていた。  
 寝ているのかと思ったが、こちらの気配を察したのか、ゆっくりと体を起こした。  

 「フン…つまらんことを考えるな」  

 「…なんだよ、いきなり」  

 「お前、すべてを理解しなければ本は読めないとでも思っているのか?」  

 トラ老師はあくびをしながら、前足を伸ばす。  
 陽向は少しムッとしながら、言い返した。  

 「いや、でも、わからないまま読むのって意味なくね?」  

 「では、お前は映画を観るとき、一言一句すべて理解しながら観るのか?」  

 「いや、それは…」  

 たしかに、映画を観るとき、登場人物の細かいセリフや背景のすべてを理解しているわけではない。  
 それでも、なんとなくストーリーを追って楽しんでいることがほとんどだ。  

 「わからない部分があっても、楽しめるのではないか?」  

 「…まあ、そうだけど」  

 「読書も同じだ。わからないことを考えるのも、また楽しさのひとつだ」  

 トラ老師はそう言いながら、前足を丁寧に舐め始めた。  

 「…考えるのも、楽しさ?」  

 陽向は手元の本を見つめる。  
 難しい言葉があったら、意味を考えながら読む。  
 話が複雑なら、どういうことなのか自分なりに推測してみる。  
 そういうことも、読書の一部なのかもしれない。  

 納得しきれない様子の陽向を見て、トラ老師は尻尾をゆっくりと振った。  
 次の瞬間、ポンッと軽く陽向の手を叩く。  

 「…なんだよ」  

 「フン…もう少し考えてみるといい」  

 トラ老師はそれだけ言うと、また毛づくろいを始めた。  
 まるで、これ以上の説明は必要ないと言わんばかりに。  

 陽向はもう一度本を開くと、静かにページをめくった。  
 わからないことがあるからこそ、考える余地があるのかもしれない。  
 そう思いながら、もう少しだけ読んでみることにした。  
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