猫の先生は気まぐれに～あるいは、僕が本を読む理由

思ったより難しい…？

　夜の静けさの中、陽向はベッドの上で買ったばかりの本を開いた。  

　ページをめくると、新しい物語が始まる。  
　今まで読んできた本とは違い、少し厚めの文庫本だ。  
　ジャンルも、普段読まないような内容。  

　（どんな話なんだろう）  

　期待を胸に、一行目からじっくりと読み進める。  

　…が、数ページ経ったところで、陽向の手が止まった。  

　「あれ…なんか、むずい」  

　登場人物の名前がやたらと多い。  
　しかも、いきなり難しい言葉がいくつも出てくる。  
　場面の描写も細かすぎて、どこに意識を向ければいいのか迷う。  

　（えっと…これは誰が喋ってるんだ…？）  

　さっきから会話が続いているが、誰のセリフなのかがわかりにくい。  
　場面が急に切り替わるせいで、今どこにいるのかも混乱する。  

　（やべぇ、頭に入ってこねぇ…）  

　読んでは戻り、また読んでは戻る。  
　それを繰り返すうちに、ページをめくる手が止まった。  

　「…こんなの、読んで意味あるのか」  

　思わずつぶやいた瞬間、近くで小さな鼻を鳴らす音がした。  

　「フン…」  

　陽向が横を見ると、トラ老師が丸くなって寝ていた。  
　いや、よく見ると耳だけはこちらを向いている。  

　「…お前、寝てんのか」  

　「フン…」  

　返事なのか、ただの鼻息なのかわからない。  
　だが、その態度に何か言いたげな雰囲気がある。  

　陽向は本を見つめたまま、少し考える。  

　（このまま、読むのをやめるか…？）  

　ここでやめたら、せっかく買った本が無駄になる。  
　けど、読んでいて楽しくないのも事実だった。  

　もう一度、目の前のページに視線を落とす。  

　果たして、この本を読み続ける意味はあるのだろうか…。