猫の先生は気まぐれに~あるいは、僕が本を読む理由

中岡 始

文字の大きさ
20 / 34

わからないからこそ、面白い?

しおりを挟む
 陽向は、本のページをめくり続けていた。  

 最初は難しいと感じていたこの本も、読み進めるうちに少しずつ理解できるようになってきた。  
 登場人物の関係性が複雑すぎて混乱していたが、注意深く読んでいると、それぞれの立場や目的が少しずつ見えてくる。  

 「…あ、そういうことか」  

 登場人物の言葉や行動が、最初に読んだときとは違う意味に感じられる。  
 あのときの伏線が、ここで回収されるのかと気づいた瞬間、思わず前のページをめくり返した。  

 「おお…さっきの伏線、ここにつながるのか!」  

 わからないまま読み進めた部分が、後になってつながる感覚。  
 それが、思っていたよりも楽しいと感じる。  

 「…あれ?」  

 ふと、自分の中で違和感が生まれた。  

 最初は「わからないことがあると読みにくい」「難しい本を読む意味がわからない」と思っていたはずなのに、  
 今は、わからなかった部分が理解できるようになったことに喜びを感じている。  

 「もしかして、わからないことがあるほうが、楽しいのか?」  

 自分で言った言葉に、少し驚いた。  

 トラ老師が、鼻をクンクンと鳴らす音が聞こえる。  

 「フン…ようやく気づいたか」  

 陽向が顔を上げると、トラ老師は丸くなったまま、薄く目を開けていた。  

 「世界はすべてを理解できるほど単純ではない。だが、だからこそ面白い」  

 「…そっか」  

 陽向は、ゆっくりと本に視線を戻した。  

 すべてを完璧に理解しなくてもいい。  
 最初はわからなくても、読み進めれば気づくことがある。  
 それでもまだわからない部分があるなら、それはまた別の機会に読めばいい。  

 考えながら読むこと、理解する過程を楽しむこと。  

 それが、読書の面白さなのかもしれない。  

 次のページをめくる手が、自然と軽くなった。  

 ふと、横から小さな音が聞こえる。  

 「フフン…」  

 トラ老師が喉を鳴らしていた。  

 陽向は一瞬だけ顔を上げたが、何も言わずに本へと目を戻した。  

 もう、トラ老師の余裕たっぷりの態度にも慣れた。  

 むしろ、この本を読み終えたら、次は何を読もうかと、そんなことを考え始めていた。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...