25 / 34
本を語るのは自由?
しおりを挟む
夕暮れの帰り道、陽向はため息をつきながら歩いていた。
好きな本について発表する課題。
別に難しいことではないはずなのに、どうにも気が重い。
(俺がどんな本を読んでるかなんて、誰も興味ないだろ)
クラスの誰かが「へえ」と適当に流して終わるか、下手したら「なんでそんなの読んでるの?」と冷やかされるかもしれない。
そう考えると、わざわざ話すのが億劫になってくる。
歩道橋を渡ると、道沿いの塀の上に見慣れた猫の姿があった。
トラ老師が、前足をそろえてじっとこちらを見ている。
陽向が足を止めると、トラ老師はゆっくりと立ち上がり、軽やかにポンッと飛び降りた。
そして、何の迷いもなく陽向の足元にすり寄ってきた。
「お前、ずいぶん浮かない顔をしているな」
「…お前に言われる筋合いはない」
陽向はトラ老師を軽く払いのけながら、ポケットに手を突っ込む。
「…好きな本について発表するんだけどさ」
そうつぶやくと、トラ老師は「ほう?」と興味深そうに尻尾を揺らした。
「別に、俺が何を読んでるかなんて、誰も興味ないだろ」
トラ老師は鼻を鳴らし、ゆっくりと毛づくろいを始める。
「フン…本を読むのは自由だが、それを語るのもまた自由だ」
「…は?」
「誰が聞いていようがいまいが、お前が語りたいことを語ればいい」
陽向は足を止め、トラ老師をじっと見た。
「そんな簡単に言うけどさ、興味ないやつに話しても、ただの自己満足だろ」
「自己満足で何が悪い?」
トラ老師は顔を上げ、目を細めた。
「読書とは、そもそも個人的な行為だ。お前がどんな本を読み、どんなことを感じるかは、お前だけのものだ」
「…まあ、それはそうだけど」
「だがな、語るというのもまた、読書の一つの楽しみなのだ」
トラ老師は塀の上に跳び上がり、そこから陽向を見下ろした。
「それに、思いがけず興味を持つ者もいるかもしれんぞ」
「…そんなやつ、いるかな」
「さあな。だが、お前が語らなければ、誰も知ることはない」
陽向は口をつぐんだまま、地面を蹴って歩き出した。
言っていることはもっともだ。
けれど、実際に話すとなると、やはり気恥ずかしさがある。
そんな陽向の横を、トラ老師が軽やかな足取りで歩く。
「…お前に励まされるとムカつくんだよな」
ぼそっとつぶやくと、トラ老師は「フフン」と得意げに喉を鳴らした。
陽向はわずかに眉をひそめながら、それ以上何も言わずに前を向いた。
語ることも、読書の楽しみ。
今まで考えたこともなかったが、それが本当に楽しいものなのか。
それを確かめるのは、明日の発表次第だ。
好きな本について発表する課題。
別に難しいことではないはずなのに、どうにも気が重い。
(俺がどんな本を読んでるかなんて、誰も興味ないだろ)
クラスの誰かが「へえ」と適当に流して終わるか、下手したら「なんでそんなの読んでるの?」と冷やかされるかもしれない。
そう考えると、わざわざ話すのが億劫になってくる。
歩道橋を渡ると、道沿いの塀の上に見慣れた猫の姿があった。
トラ老師が、前足をそろえてじっとこちらを見ている。
陽向が足を止めると、トラ老師はゆっくりと立ち上がり、軽やかにポンッと飛び降りた。
そして、何の迷いもなく陽向の足元にすり寄ってきた。
「お前、ずいぶん浮かない顔をしているな」
「…お前に言われる筋合いはない」
陽向はトラ老師を軽く払いのけながら、ポケットに手を突っ込む。
「…好きな本について発表するんだけどさ」
そうつぶやくと、トラ老師は「ほう?」と興味深そうに尻尾を揺らした。
「別に、俺が何を読んでるかなんて、誰も興味ないだろ」
トラ老師は鼻を鳴らし、ゆっくりと毛づくろいを始める。
「フン…本を読むのは自由だが、それを語るのもまた自由だ」
「…は?」
「誰が聞いていようがいまいが、お前が語りたいことを語ればいい」
陽向は足を止め、トラ老師をじっと見た。
「そんな簡単に言うけどさ、興味ないやつに話しても、ただの自己満足だろ」
「自己満足で何が悪い?」
トラ老師は顔を上げ、目を細めた。
「読書とは、そもそも個人的な行為だ。お前がどんな本を読み、どんなことを感じるかは、お前だけのものだ」
「…まあ、それはそうだけど」
「だがな、語るというのもまた、読書の一つの楽しみなのだ」
トラ老師は塀の上に跳び上がり、そこから陽向を見下ろした。
「それに、思いがけず興味を持つ者もいるかもしれんぞ」
「…そんなやつ、いるかな」
「さあな。だが、お前が語らなければ、誰も知ることはない」
陽向は口をつぐんだまま、地面を蹴って歩き出した。
言っていることはもっともだ。
けれど、実際に話すとなると、やはり気恥ずかしさがある。
そんな陽向の横を、トラ老師が軽やかな足取りで歩く。
「…お前に励まされるとムカつくんだよな」
ぼそっとつぶやくと、トラ老師は「フフン」と得意げに喉を鳴らした。
陽向はわずかに眉をひそめながら、それ以上何も言わずに前を向いた。
語ることも、読書の楽しみ。
今まで考えたこともなかったが、それが本当に楽しいものなのか。
それを確かめるのは、明日の発表次第だ。
10
あなたにおすすめの小説
女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん
菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる