猫の先生は気まぐれに~あるいは、僕が本を読む理由

中岡 始

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好きな本について発表?

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 国語の授業中、先生が教卓の前で手を組みながら言った。  

 「次の授業では、それぞれ好きな本を一冊選んで、その魅力をみんなに紹介してもらいます」  

 教室内に、途端に微妙な空気が流れた。  

 「えー、そんなのめんどくさくね?」  

 クラスの誰かがぼやくと、数人がそれに同調するようにため息をついた。  
 読書が好きな生徒もいるにはいるが、あまり本を読まない人にとっては、どうにも気乗りしない課題なのだろう。  

 陽向も、思わず心の中で「面倒だな…」とつぶやいた。  

 しかし、次の瞬間、ふと頭の中にある疑問が浮かんだ。  

 (俺の好きな本…何を話せばいいんだ?)  

 少し前までの自分なら、適当に義務教育で読まされるような本を選んでお茶を濁したかもしれない。  
 でも、今は違う。  
 最近は本を読むことが日常になりつつあり、気に入った本もいくつかあった。  

 (…どれにしよう?)  

 教科書にメモを取るふりをしながら、こっそり考え始める。  

 ミステリーも面白かったし、ファンタジーも魅力的だった。  
 最近読んだ本の中には、思わず夢中になった作品もある。  

 しかし、考えれば考えるほど、別の不安が湧いてきた。  

 (でも、俺が好きな本のことを話しても、誰も興味ないんじゃ…?)  

 周りのクラスメイトが、自分の選んだ本を聞いて「へえ、面白そう」と思うだろうか。  
 むしろ、「なんでそんな本読んでるの?」と微妙な反応をされるのではないか。  

 そんなことを考えていると、なんだか憂鬱になってきた。  

 ふと窓の外を見ると、フェンスの上に見慣れた姿があった。  

 キジトラ模様の猫が、じっとこちらを見ている。  

 陽向が目を向けたことに気づくと、トラ老師は細めていた目をわずかに開き、  
 まるで「待っていました」と言わんばかりの表情を見せた。  

 「フン…面白い課題ではないか」  

 突然、トラ老師の声が頭の中に響いた。  

 陽向は小さく肩をすくめ、机の上に視線を戻す。  

 (また勝手に入ってくる…)  

 どうやら、今日もトラ老師に付き合わされることになりそうだ。  
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