猫の先生は気まぐれに~あるいは、僕が本を読む理由

中岡 始

文字の大きさ
26 / 34

発表の時間

しおりを挟む
 翌日、国語の授業が始まると、先生は黒板の前に立ち、クラスを見渡した。  

 「それでは、昨日伝えた課題を発表してもらいます。みんな、自分が選んだ本について、どこが面白かったのか、なぜその本を読もうと思ったのかを話してみてください」  

 教室内に、緊張と面倒くさそうな雰囲気が入り混じった空気が流れた。  

 「じゃあ、順番に発表してもらおうか。誰からいこうかな…」  

 先生が名簿をめくりながら適当に名前を呼び、発表が始まった。  

 最初に話し始めたのは、クラスでも読書好きで知られる女子だった。  
 彼女は、有名なファンタジー小説について熱く語った。  
 ストーリーの魅力や登場人物の心理描写について丁寧に説明し、「続編もぜひ読んでほしい」と締めくくる。  

 「さすがだな…」  

 陽向は感心しながら聞いていたが、次の発表者の話を聞くうちに、少し意外なことに気づいた。  

 「俺が紹介するのは、この漫画です。めちゃくちゃ笑えるんですけど、実はストーリーが深いんですよ」  
 「この本、映画化されたやつなんだけど、原作のほうが細かいところまで描かれてて面白いんだよね」  
 「兄貴に勧められて読んだんだけど、意外とハマった」  

 話している内容は、それぞれバラバラだった。  
 かっちりとした文学作品を紹介する人もいれば、漫画や映画の原作小説を話す人もいる。  
 中には「子供のころに好きだった絵本」について語る生徒までいた。  

 (思ったよりも、みんな自由に話してるんだな)  

 陽向は、内心ホッとした。  
 もっと堅苦しい発表になるのかと思っていたが、意外とラフな雰囲気だ。  
 これなら、あまり深く考えずに話しても大丈夫そうだ。  

 そんなふうに安心しながら聞いていると、先生が次の名前を呼んだ。  

 「じゃあ、次は…陽向」  

 一瞬、心臓がドクンと鳴った。  
 周囲の視線が自分に向けられる。  

 (…まあいいか)  

 陽向はカバンから本を取り出し、立ち上がった。  

 「俺が最近読んで面白かったのは、この本で…」  

 その瞬間、ふと気配を感じた。  

 教室の窓の外、廊下に面したガラスの向こうに、見慣れた猫が座っていた。  

 トラ老師が、じっとこちらを見ている。  

 まるで、「お前の話を聞いてやるぞ」と言わんばかりの態度だった。  

 (…なんでお前がそこにいるんだよ)  

 心の中でツッコミながらも、陽向はゆっくりと話し始めた。  

 「この本、最初はちょっと難しいかなって思ったんですけど、読み進めるうちに、わからないことを考えながら読むのが面白くなってきて…」  

 いつの間にか、緊張は消えていた。  
 クラス全員が真剣に聞いているわけではない。  
 ぼんやり窓の外を眺めているやつもいるし、なんとなく相槌を打っているだけのやつもいる。  
 でも、その中に興味を持ってくれているやつもいる。  

 (…案外、悪くないかもな)  

 話し終えると、トラ老師がゆっくりと目を閉じ、満足げに喉を鳴らした。  

 陽向は、ほんの少しだけ笑いながら席に戻った。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...