猫の先生は気まぐれに~あるいは、僕が本を読む理由

中岡 始

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物語のように生きられたら

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 陽向は部屋のベッドに寝転びながら、最近読んだ本のことを思い返していた。  

 主人公は、さまざまな困難にぶつかりながらも、それを乗り越え、最後には大きな成長を遂げる。  
 仲間と協力し、絶望の中で希望を見出し、物語の結末には何かしらの意味がある。  

 (…俺もこんなふうに生きられたらいいのにな)  

 そんな考えが頭に浮かぶ。  

 目の前の天井をぼんやりと見つめながら、陽向はため息をついた。  

 現実の世界では、そんな劇的な展開は滅多に起こらない。  
 毎日学校に行き、授業を受け、適当に友達と話し、帰ってくる。  
 日常は淡々と繰り返され、大きな事件が起こるわけでもなく、物語のような展開は訪れない。  

 (俺の人生って、物語に比べたらつまんねえな)  

 そう思うと、なんとなく虚しくなってきた。  

 そのとき、不意に膝の上が重くなった。  

 「フン…またくだらんことを考えているな」  

 陽向は顔を下げた。  

 トラ老師が、いつの間にか膝の上に乗り、丸くなっていた。  

 「くだらんって言うなよ」  

 軽く押しのけようとするが、びくともしない。  
 むしろ、さらに落ち着いた様子で丸くなり、前足で顔を軽くこすりながら毛づくろいを始めた。  

 「物語みたいな人生を送りたいだと? そんなことを考える暇があったら、少しは現実の世界をよく見たらどうだ」  

 「…現実なんて、ただの繰り返しだろ」  

 陽向はそっけなく言い、視線を横にそらした。  

 しかし、トラ老師はそれ以上何も言わず、ただ喉を鳴らしながら気ままに毛づくろいを続けていた。  

 陽向は眉をひそめながらも、トラ老師を押しのけるのを諦め、再び天井を見上げた。  

 (…現実をよく見る、か)  

 その言葉が、妙に引っかかった。  
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