俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件～転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

で、台本の進捗、何％？

悠真は、教室の前方で配られる台本を受け取ると、何気なく表紙をめくった。  

その瞬間、思わず手が止まる。  

「……未完成？」  

台本の最初のページには、はっきりとそう書かれていた。  

嫌な予感がして、さらに中をめくる。  

確かに、前半部分はきちんと書かれている。  

だが、後半に進むにつれ、明らかに台詞が抜けていたり、演出の指示が空欄のままだったりする。  

ラストシーンに至っては、「クライマックスは演者のアドリブで盛り上げる！」とだけ書かれていた。  

悠真は、静かに視線を上げた。  

「…え、まだ出来上がってないのか？」  

脚本担当の女子が、悪びれもせず笑いながら答えた。  

「大丈夫、大丈夫！なんとかなるっしょ！」  

「……」  

悠真は、過去の経験を振り返る。  

「なんとかなる」という言葉が現実になったことは、社畜時代において一度もなかった。  

納期直前になって進捗が遅れていると気づき、慌てて徹夜作業を強いられる。  

「この部分、あとで調整しましょう」が、結局誰も手をつけずにそのまま放置される。  

結果、締切前日に「これ間に合わないな」と青ざめる未来しか見えない。  

悠真は、ふと周囲を見渡した。  

演劇に関わるクラスメイトたちは、和気あいあいとした雰囲気の中で台本を手に取り、「うわ、王子の台詞長っ！」「魔法使い役、派手な登場シーンあるの楽しみ！」と楽しげに話している。  

悠真だけが、この状況の危険性を察知していた。  

（いや、普通に考えて間に合わないだろ、これ）  

ここから、悠真の社畜的な思考が無意識に働き始める。  

「台本の完成予定日は？」  

脚本担当の女子が「え？」ときょとんとした顔をした。  

「えーと、まだ決めてないけど…今週中には仕上げようかなって」  

「それ、決まってないのと同じじゃないか」  

悠真は、机に手をついて深く息をついた。  

「で、練習日程は？キャストの調整はできてる？」  

「うーん、まだみんなの都合聞いてないから、決まってないんだよね」  

「衣装の手配は？作るのか、レンタルするのか」  

「そこもまだ検討中かな」  

悠真の眉間に、自然と皺が寄る。  

（これはダメだ。進捗管理の概念が存在していない）  

悠真は台本を閉じ、軽く頭を押さえた。  

このままでは、確実に文化祭直前に地獄を見ることになる。  

いや、そもそも間に合うかどうかすら怪しい。  

文化祭までのスケジュールを頭の中でざっと組み立てる。  

今週中に台本が完成したとして、練習時間は二週間ほど。  

その間にキャストの動きを固め、衣装や舞台装置を準備する。  

さらに、クラス全体のリハーサル日程を調整し、本番に向けて完成度を上げる時間を考慮すると――  

（…無理だ。絶対に間に合わない）  

悠真は、自然とプロジェクトマネージャーの思考になっていることに気づいた。  

だが、ここで放置すれば、自分も王子役として巻き込まれるのは明白だった。  

少しでも効率的に動かなければ、被害を最小限に抑えることはできない。  

悠真は、冷静に問いかけた。  

「とりあえず、具体的な締切を決めよう。台本の最終稿はいつ完成させる？」  

「えっと…じゃあ、来週の金曜日？」  

「遅い。今週の金曜日にしろ」  

「え、でも…」  

「台本が完成しないと、配役ごとの練習スケジュールが決められない。演出も固まらない。ギリギリまで台本が未完成だと、全員が混乱するだけだ」  

「……そ、そうかも」  

「あと、衣装担当は誰だ？進捗、今どの段階？」  

衣装班の女子が手を挙げた。  

「まだデザイン決めてるとこだけど、布は来週買いに行く予定！」  

「それも遅いな。今週中にデザインを確定させて、来週の頭には材料を揃えろ」  

次々に指示を出していくと、クラスメイトたちは「え、マジでしっかりしてる…」とざわつき始めた。  

悠真は、ようやく自分が文化祭の演劇準備をほぼ仕切っていることに気づく。  

（……おかしい。俺、王子役じゃなかったのか？）  

そのとき、隣で一部始終を見ていた颯斗が、小さく笑った。  

「お前、転入生なのになんでそんなにしっかりしてんの？」  

悠真は、腕を組んで少し考える。  

「いや、締切にルーズなのが嫌なだけで」  

「いや、それ、普通の高校生は気にしないんだよ」  

颯斗のツッコミを聞きながら、悠真はふと考えた。  

転生して、せっかく自由な高校生活を送れると思っていたのに、気づけばまた締切と進捗を管理している。  

（……俺、ほんとに転生した意味あるのか？）  

そんな疑問が、ふと脳裏をよぎった。