俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始

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元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です

そのうち、親にも話そうか

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カフェを出たあと、ふたりは駅と反対方向に足を向けていた。  
歩道脇の桜並木にはまだ花の気配はなかったが、枝の先には小さな芽がふくらんでいて、春がすぐそこにあることを思わせた。

横を歩く颯斗は、手をポケットに入れたまま、特に目的もないままのんびりと歩いている。  
その歩調に合わせるように、悠真もゆっくりと足を運んだ。

何を話すでもなく、しばらく無言の時間が続いた。  
けれど、それは気まずさではなかった。  
たっぷりとした満足の余韻のような沈黙だった。

「……うちの親、真面目だけどさ」

颯斗がぽつりと口を開いたのは、近くの公園のベンチが見えてきたころだった。

「反対は、たぶんしないと思う。変に偏見とかもないし、昔から“自分のことは自分で決めろ”って言われて育ってきたから」

「……へえ。いいな、それ」

悠真は静かに返した。  
羨ましい、というほどの強い感情ではない。  
ただ、心の奥が少しだけざわついた。

「うちは……どうだろうな。反対されるかもしれないし、されないかもしれない。  
でも、話してみる価値はあるかもって、最近ようやく思えるようになってきた」

そう言いながら、前を向いたまま息を吐いた。  
言葉にすると、思っていたよりも軽く響いた。  
心の中でぐるぐるしていたものが、形になって外に出た瞬間、少しだけ輪郭がやわらいだ気がした。

「今すぐじゃなくてもいいよ」

颯斗の言葉は、風に乗せるようにさらりと届いた。

「無理して“言わなきゃいけない”ことじゃないし、タイミングも選べばいい。  
でも、お前が“言ってもいいかも”って思ってくれたなら、それだけで十分だと思う」

悠真は、ふっと笑った。  
どこまでも変わらない、そういう颯斗のスタンスがありがたかった。

「うん……俺も、“隠したい”って思ってたわけじゃなかったんだよな」  
「ただ、“話す必要あるのかな”とか、“言ったところでどうなるんだろう”って思ってた」

「それは分かる。俺も昔はそうだったし」

「でも最近、“隠してる”っていうより、“守ってる”んだなって思えるようになった」  
「俺たちの関係とか、大事にしてることを、無理に誰かに説明しなくていい。  
でも、話したくなったら話してもいい。そう思えるって、なんか……嬉しいんだよな」

ふたりはベンチに腰を下ろした。  
コートの裾が揺れ、風が足元をかすめていく。  
頬に触れる風は冷たいのに、胸の奥はじんわりと温かかった。

「……俺さ」

悠真は、少しだけ声を落とした。

「“分かってもらえるはずがない”って、最初からあきらめてたのかもしれない」  
「けど、お前といるうちに、ちょっとずつ思えてきた。  
“分かってもらえるかどうか”じゃなくて、“話すことが怖くなくなった”ってことが、たぶん大事なんだなって」

その言葉に、颯斗がふっと息を吐いた。

「悠真」

名前を呼ばれた瞬間、どこか胸の奥がざわりとした。  
けれどそれは、緊張ではなかった。

「俺さ、お前と一緒にいたいって思ってることに、恥なんかないと思ってる」

まっすぐで、何の装飾もない言葉だった。  
でも、それだけで悠真の心の奥に何かがじわりと沁みていった。

「……それ、言われるとずるい」

照れくさそうに目をそらしながら、それでもちゃんと返した。  
隣にいるこの人は、いつも大切なところで言葉を惜しまない。  
それが、どれほど嬉しいことか。  
どれほど自分を救ってくれているか。  
全部は口にできないけれど、今は少しだけでも伝えたかった。

「ありがとう、颯斗」

声に出すと、心が少し軽くなった。  
春の光が差し込むように、柔らかいものが胸の中を満たしていく。

これが、愛情なのか、信頼なのか、それとももっと別の何かなのか。  
言葉にするにはまだ足りない。  
けれど、この“確かさ”は、それだけで十分だった。

いつか親に話すときが来るかもしれない。  
そのとき、何を言われるのかは分からない。  
でも、ひとつだけ分かっていることがある。

隣には、この人がいる。  
それが、何よりの支えだった。  

風がやんで、空が少し明るくなった。  
芽吹きかけた枝先が、光を透かして揺れていた。
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