俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始

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元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です

俺は、大学院、受かったよ

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銀杏並木の葉が黄色く色づきはじめ、キャンパスの景色が夏の喧騒を遠くに追いやっていた。  
晩秋の午後。風がやや強く、空は晴れているのに肌寒かった。  

図書館横のベンチに並んで腰を下ろした悠真は、手にした紙コップから立ちのぼる湯気をぼんやりと見つめていた。  
コートの袖を引き寄せながら、息を白く吐く。時間は15時過ぎ。木漏れ日が、地面に揺れる葉の影を落としていた。

「……合格した」  

隣に座る颯斗が、唐突にそう言った。  
視線は正面のまま。手にしていた缶コーヒーを軽く揺らしながら、その言葉だけを置くように口にした。  

「大学院」

悠真は、一瞬だけ返事を止めて、そっと目を細めた。  
知っていた。試験を受けていたことも、面接が終わったあとの空気も。  
でも、“結果”という形で聞くのは今日が初めてだった。

「……そっか。おめでとう」  

言葉にしてから、思ったよりもすんなり口にできたことに、少しだけ驚く。  
ほんの数年前、まだ大学1年の頃なら、たぶん同じようには言えなかった。  
どこかで「比べてしまう」気持ちがあった。  
道を迷わず進んでいく颯斗を見て、自分は立ち止まってばかりだと、焦っていた。

でも今は違った。

「ちゃんと努力してたし、当然っちゃ当然だな」  
「……まあ、努力だけでなんとかなる世界でもないけどな」  

颯斗は苦笑するように、缶を傾けた。  
それを見て、悠真も笑った。

「でもさ、なんかいいな」  
「うん?」  

「こうやって、それぞれやりたいことやって、うまくいったときに、一番に報告してくれるってさ。  
……それだけで、もう十分すごいことだと思う」  

風が強くなって、足元の落ち葉がふわりと舞い上がった。  
黄色と茶色が混ざった葉が、二人の膝の上をかすめて通り過ぎていく。  

「俺さ、前はお前の進路の話、ちゃんと聞けなかった。  
なんか、自分が決められてないのがバレる気がしてさ。  
でも今は、ようやく“違ってていい”って思えるようになった」  

言いながら、どこか肩の力が抜けていくのを感じた。  
正解を求めるように誰かと比較していた頃の自分が、遠く思える。  

「お前は、ちゃんとお前のやりたいことに向かってる。  
俺も、俺なりに考えて、“関わること”を大事にしたいって思えた。  
……たぶん、そっちのほうが大事なんだよな」  

颯斗は、少しだけ視線を落とした。  
そのまま、うっすらと微笑む。

「……なんか、そう言ってくれるの、救われる」  
「え、なんで?」  
「研究って、なんとなく“閉じこもってる”イメージあるだろ。  
現場で人と接してるお前の方が、よっぽどちゃんと社会に関わってる気がしてた」  

「そうかな」  

悠真は、ゆっくりと頷いた。  
少しだけ頬が冷えてきていたが、不思議と心は穏やかだった。

「俺たち、ほんとに違う方向に進んでるんだなって思うと、ちょっと不安になるときもあるけど」  
「うん」  
「でも、同じ場所に戻ろうとしなくてもいいって、最近は思えるようになった」  

「違う道を選んでも、歩幅は合わせられるしな」  

颯斗の声は、風の中に溶けていった。  
その言葉に、悠真は静かに頷く。  

自分の道を選ぶって、昔は“ひとりになる”ことだと思っていた。  
でも今は、“誰かと並ぶ”ことでもある。  
それを教えてくれたのは、隣にいるこの人だった。

「じゃあさ」  
「ん?」  
「大学院の入学祝い、なんかしよっか」  

「え、別にいいよ」  
「よくない。ちゃんと祝わせて。  
ほら、どうせお前、自分の誕生日とか卒業とかでも騒がれたくないタイプでしょ」  

「まあ、そうだけど……」  

「でも、俺が祝いたいって言ってるんだから、いいじゃん」  

そう言って、少しだけ睨むような目をすると、颯斗はあきれたように笑った。

「……わかった。じゃあ、飯でも行くか」  
「奢ってくれる?」  
「なんでそうなる」  

ふたりの笑い声が、黄昏のキャンパスにかすかに溶けていく。  
そこにあったのは、ただの穏やかな時間だった。  
未来のこと、進路のこと、かつては触れるのが怖かった話題が、今はふたりの間で自然に語られている。  

それだけで、十分だった。

違う道を選んだはずなのに、不思議と“同じ方向に進んでいる”感覚があった。  
それは、隣にいる人を信じているという実感そのものだった。  

もう比べる必要はない。  
どちらが正しいとか、どちらが成功しているとか、そんなことでは測れない絆がここにはある。  

だから今、悠真は自分の言葉に迷わず自信を持って言えた。

「本当に、おめでとう、颯斗」  

その言葉に、颯斗が軽く頷く。

それだけで、この秋の日が、ずっと心に残る気がした。
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