龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始

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襲撃、陣の決死の覚悟

夜の闇に、銃声が響いた。

仕掛けた罠は完璧だったはずだった。

悠真が単独で動くように見せかけ、敵をおびき寄せる。

だが、敵は予想以上に早く、しかも周到に動いた。

陣は悠真の前に立ち、即座に周囲の状況を把握する。

暗殺者は五人、いや――もっといる。

囲い込まれていたのは、こちらのほうだった。

***

三時間前――悠真は敵を誘い込むために罠を張った。

「僕が護衛なしで一人になる時間を作ったら、どうすると思う?」

悠真は、静かにそう言った。

「当然、襲ってきます」

陣が即答すると、悠真は微笑む。

「せやろ? だから、そのタイミングをこっちで決めたほうが楽やん?」

悠真の計画はシンプルだった。

敵が悠真を「護衛のいない状態」で襲撃しやすい状況を意図的に作る。

「僕が単独で動く、みたいな噂を流して、襲われる前提で場所を選ぶんよ」

実際には、悠真の周囲には辰巳会の精鋭が控えている。

悠真を囮にしつつ、逆に敵を包囲し、一気に制圧する―― それが狙いだった。

しかし、敵の動きは悠真の計算よりも早かった。

しかも、悠真の罠を逆手に取り、戦力を増強して襲撃に踏み切った。

***

「悠真様、伏せてください!」

陣は悠真の体を押し、銃弾が飛んできた方向を即座に把握する。

悠真は反射的に身を低くするが、すぐに陣の異変に気づいた。

「陣さん……?」

陣の左肩に、赤い染みが広がっている。

「陣さん、撃たれたん!?」

「問題ありません」

陣は、痛みを押し殺しながら即答した。

しかし、その返答が虚勢であることは、悠真にもすぐにわかった。

悠真の仕掛けた罠のはずが、形勢は逆転しつつある。

敵の増援が予想よりも多く、囲い込まれているのはこちらのほうだった。

陣は迷わず悠真の前に立つ。

敵は確実に悠真を狙っている。

「陣さん、下がって――」

「悠真様、動かないでください」

その声は、これまでのどんな指示よりも強かった。

悠真は息を呑む。

***

敵の銃口が再びこちらを向く。

陣は、傷を負いながらも動きを止めない。

この場にいる誰よりも速く、正確に動かなければならない。

悠真の命が狙われている。

悠真がいなければ、辰巳会は崩れる。

だが、それ以上に――

「……悠真様」

陣の声が低く響いた。

「俺は……悠真様なしでは、生きられません」

悠真は、その言葉をしっかりと聞いた。

目を見開きながら、陣を見つめた。

「陣さん……?」

陣は、ただ悠真を守るためだけにここにいるのではない。

それは、主従の関係だけではない。

忠誠だけでは説明できない想いが、陣の中にある。

悠真は、そのことを初めて理解し始めていた。
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