オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始

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営業チーム、大ピンチ

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午後の営業部は、いつになく活気に満ちていた。  

今日は本社としても重要な契約を控えた商談の日だった。  

クライアントとの長期契約の更新に加え、新規提案のプレゼンも予定されている。これが成功すれば、会社としての利益は大きい。それだけに、営業チーム全体が慎重に準備を進め、会議室にはピリッとした空気が漂っていた。  

陽翔もタブレットを片手に、最終確認を進めていた。  

「契約書類の再確認は済んでいますか?」  

「はい、先方に提出する用のデータも準備できています」  

「新規提案の資料は?」  

「問題ありません。先方の要望を反映した修正案も加えてあります」  

チームメンバーと確認を取り合いながら、陽翔は一つ息をつく。  

この案件は、営業部にとっても大きな意味を持つ。クライアントの要望を的確に汲み取ることはもちろんだが、本社の営業戦略としても、ここで成功を収めることで今後のビジネスの幅が広がる。  

緊張感はあるが、それは悪いものではない。  

全員が集中し、一つの目標に向かって動いている。こういうときこそ、営業の醍醐味を感じる瞬間だった。  

だが、その直前。  

会議室のドアが開き、部下の一人が血相を変えて駆け込んできた。  

「橘さん、大変です!」  

その声に、陽翔は顔を上げる。  

「どうした?」  

「契約書類のデータに誤りがありました!」  

「…何?」  

陽翔の表情が一瞬で険しくなる。  

部下がタブレットを差し出しながら、早口で説明を続ける。  

「先方に提出する契約書類の最新版ですが、一部のデータが間違っていたことが判明しました。本社のシステムに残っているものと、最終調整後のバージョンが異なっていて…修正前のデータが反映されたまま送られてしまっています」  

「修正はできるのか?」  

「はい、できますが…」  

「時間がない、か」  

陽翔は腕時計を見た。  

打ち合わせまで、あと二十分。  

通常ならすぐに修正して再提出すれば済む話だが、今回は違う。  

取引先は慎重な企業で、契約内容にも細かく目を通すタイプだ。契約書にミスがあったとなれば、不信感を抱かれる可能性が高い。  

仮にその場で訂正したとしても、対応の仕方を誤れば「本社のチェック体制が甘い」と見なされ、契約の更新自体が危ぶまれるかもしれない。  

何より、今回の商談では、こちらから新規提案も持ちかける予定だ。ただでさえ慎重なクライアントに対し、契約書類にミスがあった状態で「新たなビジネスの提案」を通すのは至難の業だろう。  

このままでは交渉がこじれる可能性がある。  

会議室の空気が、途端に重くなる。  

「…どうする?」  

部下が不安そうに陽翔を見つめる。  

陽翔はタブレットを確認しながら、最適な解決策を考えた。  

(このまま訂正だけを伝えたら、確実に不信感を抱かれる…ミスのリカバリーだけでなく、どう信頼を維持するかが重要だ)  

「先方には、すでにこのデータが送られているんだな?」  

「はい、午前中の時点で提出済みです」  

「差し替えたデータを送るとして、先方が受け入れる保証は?」  

「それが…今まで一度も契約書類にミスがなかっただけに、逆に警戒される可能性が高いかと…」  

「…厄介だな」  

陽翔は考え込む。  

契約の修正自体は難しくないが、問題はその「後」だった。  

ここでの対応次第では、今後の取引にも影響を及ぼすかもしれない。  

「どうすればいい…」  

陽翔は深く息を吸い込み、頭の中でいくつかの選択肢を並べ始める。  

だが、時間がない。  

次の一手を間違えれば、商談そのものが破綻する可能性すらあった。  

焦りが募る。  

そんなときだった。  

「なんや、大変そうやな」  

不意に、のんびりとした声が背後から聞こえた。  

振り返ると、そこにはコーヒー片手にゆったりと立つ榊の姿があった。  

「…課長」  

陽翔は驚き、榊を見上げる。  

「話は聞かせてもろたで。契約書類にミスがあって、このままやと先方に不信感を持たれるんやな?」  

「…そうです」  

「ほんなら、こうしたらええんちゃう?」  

そう言いながら、榊はタブレットの画面をちらりと見て、あっさりと解決策を口にした。  

その瞬間、会議室の空気が変わった。  

「…それなら、今すぐに修正できます」  

陽翔は驚きながらも、即座に対応に取り掛かった。  

バタバタと動いていた社員たちも、榊の言葉を聞いた途端にピタリと落ち着きを取り戻し、必要な作業に集中し始める。  

さっきまでの緊迫感が嘘のように、状況が動き始めた。  

そして、そのまま迎えた商談。  

榊の冷静な対応のおかげで、取引先への説明はスムーズに進み、契約更新と新規提案は問題なく成立した。  

「さすが榊さん!」  

取引先の担当者が笑顔でそう言った瞬間、陽翔は改めて思う。  

(…この人、やっぱりデキる男だ)  
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