オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始

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完璧な商談と取引先の反応

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修正データを持ち、陽翔と榊は取引先へと向かった。  

契約書の誤りは訂正済みだが、それをどう説明するかが鍵になる。  

単なるミスとして処理されればいいが、慎重なクライアントだけに「チェック体制が甘いのでは」と不信感を持たれる可能性もある。それに加え、今日は新規提案のプレゼンも控えている。  

ミスが悪い印象を与えたままでは、交渉がうまくいかないかもしれない。  

陽翔は何度もシミュレーションしながら、取引先のオフィスに足を踏み入れた。  

応接室に通されると、すぐに担当者が現れた。  

「お忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」  

陽翔が頭を下げると、相手も軽く会釈を返す。  

「契約書の修正があったと伺いましたが…どういうことですか?」  

単刀直入な問いかけだった。やはり、先方も気にしているらしい。  

少しでも対応を誤れば、これまで築いてきた信頼関係が揺らぎかねない。  

陽翔は慎重に言葉を選ぼうとしたが、その前に隣にいた榊が口を開いた。  

「このたびは、弊社のデータ管理の不手際により、ご迷惑をおかけしました」  

落ち着いた口調だった。  

「ただ、今回の修正点については、単なるミスではなく、御社にとってより良い契約内容に調整させていただいた部分も含まれています」  

担当者が眉をひそめる。  

「それはどういう意味でしょうか?」  

榊はゆったりとした動作で手元の資料を開いた。  

「本来の契約内容と、今回修正した内容を比較してみてください。例えば、この部分ですが…」  

榊が指差した箇所には、今回修正した契約条件が記載されていた。  

「以前の契約では、納品スケジュールに関する項目がやや曖昧になっていたため、双方の負担が増える可能性がありました」  

「確かに…」  

「今回の修正では、その点を具体的に明記し、御社の業務効率を上げる形に変更しています」  

担当者が資料を確認しながら、わずかに表情を緩めた。  

「なるほど…確かに御社の意向も踏まえた形になっていますね」  

榊は軽く頷いた。  

「また、こちらの項目も同様です。本社のチェック体制の見直しを行い、今後このようなミスが発生しないよう改善策を講じました。その内容も、今回の契約に反映しております」  

担当者が目を上げた。  

「ということは…この契約書は、御社にとってもメリットがあるということですか?」  

「ええ。もちろん、今回の修正が不要であれば、元の契約のまま進めることも可能です。しかし、こちらのほうがよりスムーズに運用できるのではと考えております」  

沈黙が落ちる。  

陽翔は横で見守りながら、取引先の反応をうかがった。  

通常、契約書の修正といえば「ミスの訂正」というイメージが強い。しかし、榊はあくまで「より良い契約にするための調整」という形で話を進めた。  

その結果、担当者は契約ミスに対する不信感よりも、「こちらにとって有利な内容が含まれているかもしれない」という方向へ意識を向け始めていた。  

榊の話し方は終始落ち着いており、押しつけがましくもなく、それでいて相手にとってのメリットを的確に伝えていた。  

気づけば、取引先の担当者は資料に目を落とし、じっくりと内容を吟味している。  

「確かに、そちらの対応ならスムーズに進められそうですね」  

「ありがとうございます。では、この内容で進めさせていただいてもよろしいでしょうか?」  

「ええ、問題ありません」  

契約更新が、すんなりと決まった。  

陽翔は心の中で大きく息をつく。  

(…すごい)  

商談が始まる前まで、あれだけ厳しい表情をしていた取引先が、今は穏やかな口調で話している。  

榊の交渉スキルに、いつの間にか相手が引き込まれていた。  

「では、次に新規提案についてご説明させていただきます」  

陽翔が切り出すと、担当者は興味深そうに資料をめくる。  

「ぜひお聞かせください」  

完全に商談の流れはこっちのものになっている。  

ここまでスムーズに進められるとは思っていなかった。  

(この人、やっぱりデキる男だ)  

そう認識した直後、帰り道でカップラーメンを手にする榊を目撃するまでは。  
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