オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始

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え、課長のほうが嫉妬してるんですか?

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昼休みの社内食堂は、適度なざわめきに包まれていた。  

社員たちが思い思いに昼食をとりながら談笑し、カウンターでは温かい味噌汁の湯気が立ち上っている。  

陽翔はカウンターで適当に定食を選び、トレーを手に取ると、空いている席へ向かった。  

(課長、どこで食べてるんだろ)  

今朝のことを思い返しながら、ついそんなことを考えてしまう。  

昨夜のことがあったせいか、朝からどうにも意識しすぎている気がする。  

一緒に出社したのに、オフィスではいつも通りの態度。  

今までと何も変わらないように振る舞う榊に、モヤモヤとした気持ちが募っていた。  

(まあ、課長はそういう人だしな……)  

そう思い直し、気を取り直して味噌汁をすすった。  

「橘さんって、最近ちょっと雰囲気変わりましたよね?」  

不意に話しかけられ、陽翔は顔を上げた。  

視線の先には、同じ部署の女性社員がトレーを持って立っている。  

「そうですか?」  

「うん、なんか……余裕があるというか、落ち着いたというか」  

(まあ、そりゃ昨日の夜、"そういうこと"があったわけだし)  

思い当たる節がありすぎるが、もちろんそんなことは言えない。  

「特に何も変わってませんよ」  

適当に流しながら箸を進めていると、食堂の扉が開いた。  

そこへ、少し遅れて榊が入ってきた。  

トレーを手に取り、食堂内をぐるりと見渡す。  

(……あれ、俺のほう見てないか?)  

一瞬、視線が合ったような気がしたが、榊は何事もなかったかのように視線を逸らし、食堂の奥のほうの席に座った。  

(気のせい……?)  

そう思いつつ、再び食事に集中する。  

しかし、どこか視線を感じる気がして、ふと榊のほうを見た。  

――ばっちり目が合った。  

(あれ……課長、顔が怖いんですけど?)  

普段の気怠げな表情ではなく、どこか不機嫌そうな――いや、明らかに不機嫌な顔をしている。  

陽翔が軽く首を傾げると、榊はすぐに目を逸らした。  

しかし、スプーンを弄ぶ仕草がやけに落ち着きがない。  

(……え、これって)  

まさかとは思うが、もしや。  

陽翔はトレーを持ち、席を立つと、まっすぐ榊のもとへ向かった。  

「課長?」  

「……なんや」  

榊はチラリとこちらを見るが、すぐに視線を落とす。  

しかし、その態度が明らかにそわそわしているのが分かる。  

陽翔は向かいの席に腰を下ろし、じっと榊の顔を覗き込んだ。  

「もしかして、俺が女性社員と話してたの気になりました?」  

「……別に」  

「いや、めっちゃ不機嫌でしたよね?」  

「気のせいや」  

「いやいや、わかりやすすぎます」  

榊は黙ってスプーンを置き、コーヒーを口に運ぶ。  

だが、その耳元がほんのり赤くなっているのを、陽翔は見逃さなかった。  

(……あ、これ絶対そうじゃん)  

確信を得た陽翔は、ニヤリと笑いながら、低く囁いた。  

「え、課長のほうが嫉妬してるんですか?」  

榊の指がピクリと動く。  

「してへん」  

即答。  

だが、その否定の速さこそが、何よりも図星を突かれた証拠だった。  

陽翔はわざと顔を近づけ、「じゃあ、なんでそんなに不機嫌だったんです?」とさらに追い詰める。  

榊は口を開きかけるが、言葉が出てこない。  

そして、ついに、  

「……嫉妬なんてしてへん!」  

と語気を強めた。  

(いやいや、聞いてないのに否定が早い)  

「課長、顔、赤いですよ」  

「赤ない言うとるやろ!」  

ぷいっと顔を背ける榊を見て、陽翔は確信した。  

(課長、俺が思ってる以上に分かりやすい人だな)  

そして、妙に胸の奥があたたかくなるのを感じる。  

榊が陽翔のことで不機嫌になるなんて、今までなかったことだ。  

(……ああ、課長、俺に落ちてるな)  

その確信が、なんだか無性に嬉しかった。  
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