オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始

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もう一度、ちゃんと課長の気持ちを聞きたい

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榊の部屋に足を踏み入れた瞬間、陽翔はなんとなく安堵した。

ここに来るのはもう何度目だろう。

最初は仕事の流れで訪れていたが、今は明らかに違う理由で来ている。

週末の夜、休日を過ごすために自然とこの場所を選んだ。

「せっかくの休みだし、課長のズボラな生活改善でも手伝いますよ」

そんな口実をつけて押しかけたが、陽翔の本当の目的は別にあった。

(もう一度、ちゃんと課長の気持ちを聞きたい)

先週、一線を越えた。

だが、榊は決定的な言葉を何も言っていない。

それなのに、嫉妬したり、視線を送ったり、意識しているのは明らかだった。

(そろそろ、ちゃんと認めてもらわないと)

そう決意しながら、陽翔はゆっくりとドアを閉めた。

「まあ、適当にくつろいでや」

榊はソファに腰を下ろし、缶ビールを開ける。

陽翔はコートを脱ぎながら部屋を見渡した。

(相変わらず、適当な感じだな)

書類や飲みかけのペットボトルがテーブルに散らばり、無造作に置かれたネクタイが椅子の背もたれに掛けられている。

「課長、ちょっとは部屋を整える努力してくださいよ」

「お前がおるからええやろ」

「いや、俺がいないとダメな前提ですか」

榊は缶ビールを傾けながら、のんびりと笑う。

その緩んだ雰囲気を見て、陽翔は微かに胸の奥がざわついた。

(本当に俺と付き合ってる自覚、あるのか?)

じっと顔を見つめると、榊が首を傾げる。

「なんや」

「……課長、俺たち、付き合ってるんですよね?」

「せやな」

また、それだ。

陽翔は小さく息を吐くと、榊の缶ビールを奪い、テーブルに置いた。

「ちょっと、ちゃんと話しましょう」

「なんや、怖い顔して」

榊は少し困ったように笑ったが、その視線がわずかに揺れているのを陽翔は見逃さなかった。

(やっぱり、課長も意識してるんだ)

「課長は、俺のことどう思ってるんですか?」

「……好きやで」

榊は少しの間を置いて、ぽつりと呟いた。

その言葉を聞いて、陽翔の心臓が跳ねる。

(……やっと言った)

とはいえ、言葉自体はあっさりとしていた。

陽翔はじっと榊を見つめる。

「本当に?」

「本気やで」

「……今さら、逃げたりしませんよね?」

榊は微かに笑った。

「最初から逃げ道なんてあらへんやろ」

「当然です」

そう言って、陽翔はゆっくりと距離を詰めた。

榊は抵抗せず、目を閉じる。

(……課長、俺が好きなんですね)

心の中でそう呟きながら、陽翔はそっと榊の唇に触れた。

ほんの軽いキスのつもりだった。

しかし、榊の指が無意識に陽翔の腕を掴んだ瞬間、思わずそれ以上を求めたくなる。

榊の体温、唇の熱、呼吸の重なり――

陽翔は榊を深く抱き寄せ、その肌に手を這わせた。


気づけば、二人はベッドの上で寄り添っていた。

シーツの感触が心地よく、榊の体温がすぐ隣にある。

(先週とは違う。今夜は、ちゃんと課長の気持ちを聞けた)

陽翔は横になった榊の顔を見つめる。

榊は目を閉じていたが、完全に寝ているわけではないのがわかる。

「課長」

「ん?」

「好きですよ」

「……知っとる」

「言われるのは、どうです?」

榊は微かに笑い、目を開けた。

「悪くないな」

そう言って、ゆっくりと手を伸ばし、陽翔の髪を指先で梳いた。

「俺も、お前のこと好きやで」

「……今の、録音しておきたかったです」

「アホか」

静かな夜の中で、二人はそっと微笑みを交わした。

もう、迷いはない。

これは、確かに「恋人」としての時間なのだと、二人とも実感していた。
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