オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始

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【出張】じゃない、社員旅行です~ヨレヨレ課長と理性ギリギリ主任の2日間

朝って、こういう顔なんですね

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障子の隙間から、白んだ光が射していた。  
旅館の朝。  
空気はまだ冷たさを残していたけれど、室内はほんのりあたたかく、掛け布団の中のぬくもりはまだ消えていなかった。

陽翔は、ゆっくりとまぶたを開けた。  
視界の端に、近すぎる距離で眠る榊の顔があった。

夜の名残が、肌に残っている。  
髪は枕元で少し乱れていて、目元の力が抜けている。  
声も息もまだ静かで、眠っているというより、ただ起き上がる気力を持て余しているようだった。

陽翔は、その輪郭を目でなぞった。  
自分の中の感情が、胸の奥でかすかに波打っていた。

静かだった。  
とても静かだった。  
何も言う必要がないほどに、ふたりのあいだにある空気は満ちていた。

そっと身体を寄せると、榊がうっすら目を開けた。

「……おはよう」

掠れた声。  
それは昨夜よりもずっと無防備で、言葉をまっすぐに受け取らせる音だった。

陽翔は答えず、ただその頬に唇を寄せた。  
ゆっくりと、音のないキスを落とす。

好きです、と言う代わりに。  
言葉よりも確かに伝わるものを、唇に込めて。  
榊の呼吸が少しだけ深くなって、肩がふわりと緩む。

「……朝から、ようやるな」

そう言いながらも、榊の手は、陽翔の背に添えられていた。  
拒む気配はない。  
むしろ、もう一度、深く触れてほしいと語っているようにすら感じた。

もう一度だけ、と心の中で言い訳をして、  
陽翔は、そっと手を榊の胸元へ滑らせる。  
指先が、浴衣の襟をゆっくりと開いた。  
肩口にかかる陽の光が、肌を柔らかく照らしていた。

その肌に、もう一度、触れる。  
声にならない吐息が交差する。  
肌と肌が再び重なる。  
音も声も立てずに、ただ朝の空気の中で、愛情だけが静かに確かめられていった。

キスが、もうひとつ、落とされる。  
それは昨夜の熱とは違う、優しさだけでできたやわらかな動きだった。

---

廊下ですれ違う声がしたのは、少し後のことだった。

佐倉奏太は、歯磨きを終えて部屋を出たところだった。  
向こうから歩いてきたのは、瀬戸悠貴。  

ふたりは、ほんの一瞬、立ち止まった。  
同じ部署で、同じ旅に来ていて、同じ時間に、たまたま廊下で向かい合っている。

瀬戸が、小さくうなずく。

「……佐倉さん」

「ん?」

「……来年も一緒なら、嬉しいです」

その言葉が落ちるまでの間が、わずかに長く感じられた。  
佐倉は驚いたように目を瞬いたが、すぐに視線を逸らした。

「……そういうのは、もうちょい早く言え。……けど、まあ、俺もやぶさかではないかな」

瀬戸は、それを肯定と受け取ったようだった。  
何も言わずに、微かに笑って、先に廊下を進んでいった。

佐倉はその背中を見送りながら、自分の手を軽くこぶしにして握った。  
胸のあたりが、ぽっと温まるような、そんな感じがした。

---

朝食のビュッフェ会場では、静かなざわめきが広がっていた。

佐倉は和食コーナーで立ち止まっていた。  
瀬戸が、横に並ぶ。

「……卵焼き、甘いのとだし巻き、どちらが好みですか?」

「え、ええと……だし巻きかな」

「了解です」  
そう言って、瀬戸が佐倉の皿にそっと、だし巻き卵を乗せた。

「なんでお前が選ぶねん……」

「佐倉さんの好みは、わりと記憶に残りやすいので」

さらっと言われた言葉に、佐倉の耳がまた赤くなる。  
返事はしなかった。けれど、そのあとふたりで並んで席に着いた。

---

別のテーブルでは、陽翔と榊が朝食をとっていた。

陽翔のプレートには、スクランブルエッグ、ベーコン、クロワッサン、ヨーグルト。  
洋食一択の構成に、対面の榊が苦笑する。

「相変わらずやな。なんで和食食わへんの」

「課長こそ、完全に旅館モードですね。ご飯と焼き魚とみそ汁って」

「こういうとこ来たら、それが正解やろ」

ふたりの会話は、いつものように聞こえる。  
けれど、ふとした拍子に交わる視線に、昨夜からの余韻がにじんでいる。

誰にも気づかれないように。  
でも、自分たちにははっきりと伝わるように。
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