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主任補佐と新入社員と、距離感ゼロの恋未満
休日の朝、トースターの音
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カーテンの隙間から、朝の光が細く差し込んでいた。
まだ部屋の中はひんやりとしていて、空気は静かだった。
佐倉は毛布にくるまったまま、ぼんやりと目を覚ます。
休日の朝にしては早すぎる時間だが、どこか落ち着いた空気が漂っていた。
耳を澄ませると、キッチンからカタカタと食器の鳴る音がした。
次いで、冷蔵庫の扉が開く音と、トースターのタイマーがカチリと回る小さな音。
寝起きの頭がそれをゆっくりと認識する。
ああ、そうや。瀬戸が泊まってたんや。
昨日の夜遅くまで、なんとなく映画を流しながらだらだら話して、
結局ふたりともソファで寝落ちしかけて、
そのまま当たり前のように「もう泊まればええやん」で済ませた。
無理もない。ふたりの関係は、もうそういう自然さに慣れていた。
布団から出ると、髪が寝癖で跳ねているのが分かったが、気にせずキッチンの方へ向かう。
足音をできるだけ立てずに、そっとのぞく。
瀬戸が、白いTシャツ姿で、真剣な顔をしてフライパンと向き合っていた。
冷蔵庫の中にあった卵とベーコン、それから冷凍のブロッコリーを湯通しして、
きちんとワンプレートになるように盛り付けている。
「……なんや、えらい本格的やん」
そう声をかけると、瀬戸が少し驚いたように振り返った。
朝の光に照らされた顔が、いつもよりやわらかく見える。
「おはようございます。起こすつもりなかったんですけど……トースター、うるさかったですか?」
「ちゃう、音より匂いやな。うまそうな匂いに起こされた感じや」
「……それなら、よかった」
どこか少し照れたように言いながら、瀬戸は皿をもう一枚取り出して、もう一人分の準備をはじめた。
佐倉は洗面台で顔を洗い、簡単に身支度を済ませると、キッチンに戻ってくる。
キッチンカウンターの端に腰かけ、コーヒーのマグを受け取った。
湯気が立ちのぼるその向こうで、瀬戸が小さく鼻歌を口ずさんでいた。
珍しい。いつもはそんなことしないのに。
「なあ、瀬戸」
「はい?」
「朝ごはん作ってもらうって、こんなにええもんなんやな」
その言葉に、瀬戸の手がほんの一瞬止まった。
けれどすぐに、照れたような笑みを浮かべて、ベーコンの焼き具合を確かめた。
「……また、作ってもいいですか?」
佐倉はその顔を見ながら、マグを持つ手で口元を隠す。
「毎回でもええよ。むしろお願いしたいくらいやわ」
言ったあと、ふたりのあいだに、静かな間が生まれた。
でもそれは気まずさでも緊張でもなく、
ただ“同じ時間を共有している”ことの実感だった。
ダイニングテーブルに並んで座り、トーストをかじりながら、佐倉はふと思う。
仕事で見せるきっちりとした瀬戸の顔とは違って、
今日の瀬戸は、生活にすっかり馴染んだ、柔らかい空気をまとう男だった。
「なんか、ふたりで食うてるだけやのに、すごい落ち着くな」
「それは、佐倉さんがリラックスしてるからです」
「俺、そんな顔してる?」
「……寝癖ついたままです」
「……やかましいわ」
ふたりで笑い合いながら、目の前の朝食に手を伸ばす。
その瞬間が、特別ななにかではなく、
“これからのふたり”の普通になるのだとしたら――
それは、とてもあたたかい朝の始まりだった。
まだ部屋の中はひんやりとしていて、空気は静かだった。
佐倉は毛布にくるまったまま、ぼんやりと目を覚ます。
休日の朝にしては早すぎる時間だが、どこか落ち着いた空気が漂っていた。
耳を澄ませると、キッチンからカタカタと食器の鳴る音がした。
次いで、冷蔵庫の扉が開く音と、トースターのタイマーがカチリと回る小さな音。
寝起きの頭がそれをゆっくりと認識する。
ああ、そうや。瀬戸が泊まってたんや。
昨日の夜遅くまで、なんとなく映画を流しながらだらだら話して、
結局ふたりともソファで寝落ちしかけて、
そのまま当たり前のように「もう泊まればええやん」で済ませた。
無理もない。ふたりの関係は、もうそういう自然さに慣れていた。
布団から出ると、髪が寝癖で跳ねているのが分かったが、気にせずキッチンの方へ向かう。
足音をできるだけ立てずに、そっとのぞく。
瀬戸が、白いTシャツ姿で、真剣な顔をしてフライパンと向き合っていた。
冷蔵庫の中にあった卵とベーコン、それから冷凍のブロッコリーを湯通しして、
きちんとワンプレートになるように盛り付けている。
「……なんや、えらい本格的やん」
そう声をかけると、瀬戸が少し驚いたように振り返った。
朝の光に照らされた顔が、いつもよりやわらかく見える。
「おはようございます。起こすつもりなかったんですけど……トースター、うるさかったですか?」
「ちゃう、音より匂いやな。うまそうな匂いに起こされた感じや」
「……それなら、よかった」
どこか少し照れたように言いながら、瀬戸は皿をもう一枚取り出して、もう一人分の準備をはじめた。
佐倉は洗面台で顔を洗い、簡単に身支度を済ませると、キッチンに戻ってくる。
キッチンカウンターの端に腰かけ、コーヒーのマグを受け取った。
湯気が立ちのぼるその向こうで、瀬戸が小さく鼻歌を口ずさんでいた。
珍しい。いつもはそんなことしないのに。
「なあ、瀬戸」
「はい?」
「朝ごはん作ってもらうって、こんなにええもんなんやな」
その言葉に、瀬戸の手がほんの一瞬止まった。
けれどすぐに、照れたような笑みを浮かべて、ベーコンの焼き具合を確かめた。
「……また、作ってもいいですか?」
佐倉はその顔を見ながら、マグを持つ手で口元を隠す。
「毎回でもええよ。むしろお願いしたいくらいやわ」
言ったあと、ふたりのあいだに、静かな間が生まれた。
でもそれは気まずさでも緊張でもなく、
ただ“同じ時間を共有している”ことの実感だった。
ダイニングテーブルに並んで座り、トーストをかじりながら、佐倉はふと思う。
仕事で見せるきっちりとした瀬戸の顔とは違って、
今日の瀬戸は、生活にすっかり馴染んだ、柔らかい空気をまとう男だった。
「なんか、ふたりで食うてるだけやのに、すごい落ち着くな」
「それは、佐倉さんがリラックスしてるからです」
「俺、そんな顔してる?」
「……寝癖ついたままです」
「……やかましいわ」
ふたりで笑い合いながら、目の前の朝食に手を伸ばす。
その瞬間が、特別ななにかではなく、
“これからのふたり”の普通になるのだとしたら――
それは、とてもあたたかい朝の始まりだった。
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