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主任補佐と新入社員と、距離感ゼロの恋未満
手をつなぐことが、思ってたより遠かった
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夜風は思ったよりも冷たくて、ビルの間を抜けてきた空気が首筋をなでるように通り過ぎた。
街はすでに日常のざわめきを収めていて、残っているのは遅くまで営業する飲食店の明かりと、信号の点滅する音だけだった。
佐倉と瀬戸は、無言のまま並んで歩いていた。
会話がないことに気まずさはない。
むしろ、それがふたりの間ではごく自然なことで、
沈黙のなかに少しの呼吸と、わずかな緊張だけが混じっていた。
仕事終わりに軽く食事をして、駅まで歩くには少し遠回りになる小さな公園の脇道を、佐倉が選んだ。
それに瀬戸は何も言わずついてきた。
その道を選んだ理由を、自分でもはっきりとは言えなかった。
ただ、まっすぐ帰るには、なにか物足りなかった。
それだけは、はっきりしていた。
ふたりの靴音が、アスファルトに淡く響く。
たまに通り過ぎる自転車が、夜の静けさを切り裂いていくたび、佐倉はなんとなく歩幅を合わせ直した。
瀬戸も、それにあわせるように一歩ずつずらしていた。
街灯が点在する細い道を進みながら、佐倉はふと自分の右手を意識する。
何も触れていない、少しひんやりとした空気。
その隣に、確かに瀬戸の存在がある。
けれど、届かない。
いや、届いていないだけだ。
それが、もどかしかった。
「……今日の案件、助かりました」
瀬戸がぽつりと口を開いた。
「ああ。お前の判断、早かったな」
佐倉も、声の調子を変えずに返す。
ふたりの言葉は、ごく短くて、どこか抑えられている。
本当は、もっと違う話がしたいのに。
もっと近づきたいのに。
けれど、それをどう言えばいいのか分からなかった。
前を歩くサラリーマンの背中が遠ざかり、公園脇の人通りが途切れる。
そのときだった。
瀬戸の左手が、そっと佐倉の右手に触れた。
ゆっくりと、ためらいながらも、確かに指先が重なる。
そして、そのまま手のひらが重なり、指が絡んだ。
佐倉の足が止まった。
「……なにしてんねん」
声は驚きよりも、困惑に近かった。
怒っているわけではない。
ただ、言葉にできないなにかが胸の中をかき回していた。
「すみません」
瀬戸の声は、ほんの少しだけ震えていた。
けれど、すぐに続けた。
「したくて。……ずっと」
ふたりの間に、また静けさが降りる。
佐倉は手を離さなかった。
そのまま、ゆっくりと指を絡ませ返す。
しっかりと、握り返した。
「……もっと前に、こうしとけばよかったな」
小さく漏れたその言葉に、瀬戸の肩がわずかに揺れた。
街灯の光が、ふたりの影を路面に落とす。
その影は、触れた指先の分だけ、ひとつに重なっていた。
言葉はいらなかった。
そのぬくもりが、ふたりの関係のすべてを語っていた。
歩き出すと、もう手を離そうとは思わなかった。
誰もいない夜道の中で、佐倉は瀬戸の手の感触を確かめるように、ゆっくりと指を重ね直した。
こんなに遠いと思っていたのに、
こんなにも近い場所に、その手はあった。
佐倉はふと、横を歩く瀬戸の横顔を見た。
そこには、見慣れた穏やかな表情があった。
ただ、それだけでよかった。
その隣に自分がいるということが、いまのすべてだった。
街はすでに日常のざわめきを収めていて、残っているのは遅くまで営業する飲食店の明かりと、信号の点滅する音だけだった。
佐倉と瀬戸は、無言のまま並んで歩いていた。
会話がないことに気まずさはない。
むしろ、それがふたりの間ではごく自然なことで、
沈黙のなかに少しの呼吸と、わずかな緊張だけが混じっていた。
仕事終わりに軽く食事をして、駅まで歩くには少し遠回りになる小さな公園の脇道を、佐倉が選んだ。
それに瀬戸は何も言わずついてきた。
その道を選んだ理由を、自分でもはっきりとは言えなかった。
ただ、まっすぐ帰るには、なにか物足りなかった。
それだけは、はっきりしていた。
ふたりの靴音が、アスファルトに淡く響く。
たまに通り過ぎる自転車が、夜の静けさを切り裂いていくたび、佐倉はなんとなく歩幅を合わせ直した。
瀬戸も、それにあわせるように一歩ずつずらしていた。
街灯が点在する細い道を進みながら、佐倉はふと自分の右手を意識する。
何も触れていない、少しひんやりとした空気。
その隣に、確かに瀬戸の存在がある。
けれど、届かない。
いや、届いていないだけだ。
それが、もどかしかった。
「……今日の案件、助かりました」
瀬戸がぽつりと口を開いた。
「ああ。お前の判断、早かったな」
佐倉も、声の調子を変えずに返す。
ふたりの言葉は、ごく短くて、どこか抑えられている。
本当は、もっと違う話がしたいのに。
もっと近づきたいのに。
けれど、それをどう言えばいいのか分からなかった。
前を歩くサラリーマンの背中が遠ざかり、公園脇の人通りが途切れる。
そのときだった。
瀬戸の左手が、そっと佐倉の右手に触れた。
ゆっくりと、ためらいながらも、確かに指先が重なる。
そして、そのまま手のひらが重なり、指が絡んだ。
佐倉の足が止まった。
「……なにしてんねん」
声は驚きよりも、困惑に近かった。
怒っているわけではない。
ただ、言葉にできないなにかが胸の中をかき回していた。
「すみません」
瀬戸の声は、ほんの少しだけ震えていた。
けれど、すぐに続けた。
「したくて。……ずっと」
ふたりの間に、また静けさが降りる。
佐倉は手を離さなかった。
そのまま、ゆっくりと指を絡ませ返す。
しっかりと、握り返した。
「……もっと前に、こうしとけばよかったな」
小さく漏れたその言葉に、瀬戸の肩がわずかに揺れた。
街灯の光が、ふたりの影を路面に落とす。
その影は、触れた指先の分だけ、ひとつに重なっていた。
言葉はいらなかった。
そのぬくもりが、ふたりの関係のすべてを語っていた。
歩き出すと、もう手を離そうとは思わなかった。
誰もいない夜道の中で、佐倉は瀬戸の手の感触を確かめるように、ゆっくりと指を重ね直した。
こんなに遠いと思っていたのに、
こんなにも近い場所に、その手はあった。
佐倉はふと、横を歩く瀬戸の横顔を見た。
そこには、見慣れた穏やかな表情があった。
ただ、それだけでよかった。
その隣に自分がいるということが、いまのすべてだった。
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