オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始

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血液型でわかる?わからん? 営業部男子の昼下がりトーク~それ、科学的根拠ないって知ってるけど言いたくなるやつ

“っぽい”って言うな

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会議が終わった午後、営業部の会議室は微妙に熱を残した空気の中にあった。  
パソコンを閉じる音と、資料をまとめる紙の擦れる音だけが響いている。

榊は椅子に深く腰を沈め、首を左右に回しながら、手にしていたペットボトルの水を口に運んだ。

「血液型って、なんなんやろな……」

ぽつりとした独り言だった。  
誰に向けたでもないそのつぶやきに、すぐに反応したのは陽翔だった。

「課長、B型っぽいですもんね」

何の迷いもない断言に、榊が首を傾げる。

「……“っぽい”ってなんや。ほめ言葉か?」

「もちろん、いい意味で言ってますよ。自由で、感情に素直で、意外と情に厚いところとか」

「“意外と”ってつけんでもええやろ」

榊が目を細めて睨むように返すと、陽翔は少し口角を上げていた。  
そのやり取りを見ていた佐倉が、にこにこと笑いながら乗ってきた。

「でも橘くんは、A型以外だったらちょっと怖いわ~。真面目で綺麗好きで、部下にも丁寧やし、逆にそれでO型とかやったらびっくりする」

「そうですか?」と陽翔が眉をひそめる。

「めっちゃA型やわ、君。ですよね?」

佐倉が同意を求めて榊を見ると、榊は頷く代わりに軽く息を吐いた。

「せやな。まあ、血液型で性格決まるとは思わんけど、橘がA型や言われたら、“やろな”って納得する感じはある」

「やっぱり」と佐倉がにっこり笑う。

その会話の輪の中、黙って資料を鞄にしまっていた瀬戸が、ふいに口を開いた。

「……俺、ABです」

一瞬、場が静かになる。  
三人とも視線を瀬戸に向けたあと、なぜか揃ってうなずいた。

「うん、知ってた」と榊。  
「言われなくても伝わってました」と陽翔。  
「絶対そうやと思ってた」と佐倉。

無表情のまま、瀬戸はごく当たり前のように言った。

「……そういう決めつけ、偏見です」

言葉にはとげがあるようで、どこか平坦だった。  
けれどそれが逆にリアルで、全員がくすっと笑った。

「悪気はないって、なあ?」

佐倉がフォローのように笑いながら言えば、榊が笑いを飲み込みつつ片手を上げた。

「せやせや。俺もよく“マイペースですね”とか“空気読まないB型”って言われるけど、全部ちょっとだけ当たってる気するから困んねん」

「ちょっとだけじゃないですよ」と陽翔が即座にツッコミを入れる。

「なんやて」

「いやいや、そういうところも含めて、課長の魅力ですから」

榊がわざとらしく咳払いをし、椅子をきしませながら背もたれに深くもたれかかる。  
陽翔はその様子を横目で見つつ、ホワイトボードを消し始めた。

瀬戸はひとり、コーヒーを手にしたまま沈黙していたが、  
一口飲んでから静かに言う。

「血液型でわかることって、案外少ないんですよ」

「なのに、なんで気になるんやろなあ」と榊。

「話のきっかけには、なるんじゃないですか」  

陽翔が言った。

「なるほど。じゃあこれは“営業的雑談術”として成立しとるわけか」

「……課長がそれ言うと、全部ネタにしか聞こえません」

「お前、それは偏見や」

榊が肩をすくめると、佐倉が穏やかに笑って補足した。

「でも、性格の傾向っていうより、本人が“どう見られてるか”の方が面白いですよね。  
たとえば僕、O型って言うと“大らかで世話焼き”って言われるけど、そんなに包容力ない自覚ありますし」

「いや、あるで」

榊が即答し、瀬戸も小さく頷いた。

「……あると思います」

佐倉は少しだけ驚いたような顔をして、ふっと目を伏せた。

「そっか。……なんか照れますね、これ」

それぞれが、自分自身と、他人からの印象をかけあわせて会話を続ける。  
血液型の話は、ただのきっかけにすぎなかった。

けれど、そのきっかけの先には、  
互いに知っているようで知らなかった“内面”が、少しずつ顔を出し始めていた。

「偏見でも、なんでも、知ろうとするのはええことやと思うで」

最後にそう締めたのは、榊だった。

何気ない午後。  
だがその空気は、どこかやわらかくて、居心地がよかった。
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