242 / 343
奏太さん、もっと近くにいてもいいですか~不器用で優しい君の、はじめての夜
おまけSS 瀬戸×佐倉の糖分高めシーン集
しおりを挟む
「奏太さんのミルクティーの味、もう覚えました」
そう言ったとき、瀬戸の顔には一切の躊躇がなかった。
佐倉が少し驚いたようにカップを持ち上げ、口元を緩める。
「それ、ただの飲み物の話やないやろ」
「はい、違います」
「佐倉さんが、どんな気分でその味を選んだか、どういう時に飲むかも、少しだけですけどわかるようになってきました」
瀬戸は静かに視線を重ねた。真っ直ぐで、飾りのない目。
「そういうの、大事にしたいんです」
佐倉は、返事をせずにミルクティーをひと口含んだ。
甘さの加減が、いつもより柔らかく感じたのは、たぶん気のせいじゃない。
*
ベッドの中で、背中合わせに横になっていた夜。
眠れないまま時間だけが過ぎていく。
そんななか、後ろから瀬戸の声が低く響いた。
「……触れてもいいですか」
「無理にじゃなくて、大事に…したくて」
佐倉は目を閉じたまま、背中で呼吸の揺れを感じていた。
何度も繰り返し、慎重に選ばれた言葉。
その奥にある真剣さが伝わってくる。
「怖がらせたくない。でも、止まれないくらい…好きなんです」
それは、欲ではなく願いに近かった。
佐倉は静かにうなずいた。
言葉はいらなかった。
*
休日の午後、佐倉の部屋。
日差しの差し込むカーテンの前で、瀬戸は佐倉の肩に寄りかかるように座っていた。
外では風が強く、どこかへ誰かが出かけていく音が遠くに聞こえていた。
「今日はもうちょっと一緒にいたいです。何もしなくていいので」
「……それ、十分“何か”やで」
「なら、それがしたいです」
「“一緒にいる”だけで、ぼくには充分ですから」
佐倉は一度だけ大きく息を吐いた。
肩に置かれた瀬戸の手が、ゆっくりと握られる。
「わがままか?」
「……わがままくらい、言え」
*
夜、布団に入る前、電気を落とした部屋で。
佐倉がベッドに入ると、瀬戸もその隣に静かに腰を下ろした。
「寝る前、奏太さんの声が最後に聞きたいです」
「……今日、しゃべりすぎたくらいやのに?」
「それでも、最後がいいんです」
佐倉は、ベッドに寝転びながら天井を見上げた。
その静かな声に、少しだけ胸が鳴る。
「……おやすみ、悠貴」
「……おやすみなさい。名前、呼んでくれてありがとうございます」
*
朝、目が覚める前のまどろみの中。
隣にいるはずの人のぬくもりを、確かめるように瀬戸がささやいた。
「夢の中でも奏太さんでした」
佐倉はまだ眠っていた。
けれど、その声はたしかに届いていた。
まぶたの裏が熱を持つのは、目覚めたときの話だった。
*
夜、少しだけ気持ちが不安定になっていた佐倉が、黙ったままテレビの前に座っていた。
瀬戸は何も言わずに隣に座り、クッションを持たせてくれた。
数分後、ぽつりと口を開く。
「僕、結構甘えたがりなんで……これから引かないでくださいね?」
佐倉はクッションを抱きながら、首だけで彼を見た。
その目は、やけに真剣だった。
「そんなもん、最初から分かっとるわ」
*
ふたりでベッドに入り、横向きで向かい合っていた夜。
佐倉がそっと腕を伸ばして額に触れると、瀬戸がほっとしたように目を細めた。
「“好き”って言っていいタイミング、まだ残ってます?」
「……お前はもう、いつでも言うてええんやで」
「じゃあ」
瀬戸は枕に顔を沈めながら、小さな声で続ける。
「好きです。奏太さん」
その声を聞いた佐倉は、ため息のような笑いを漏らしながら、そっと額を寄せた。
*
瀬戸の言葉は、たいてい短い。
まわりくどくないし、華やかでもない。
けれど、なぜか一言が長く胸に残る。
その正直さが、佐倉にはときに眩しくて、だからこそ受け止めたくなる。
好きという言葉が、何度も繰り返されても、うるさく感じないのは、
そのたびに“新しく届いてくる気がする”からだった。
そう言ったとき、瀬戸の顔には一切の躊躇がなかった。
佐倉が少し驚いたようにカップを持ち上げ、口元を緩める。
「それ、ただの飲み物の話やないやろ」
「はい、違います」
「佐倉さんが、どんな気分でその味を選んだか、どういう時に飲むかも、少しだけですけどわかるようになってきました」
瀬戸は静かに視線を重ねた。真っ直ぐで、飾りのない目。
「そういうの、大事にしたいんです」
佐倉は、返事をせずにミルクティーをひと口含んだ。
甘さの加減が、いつもより柔らかく感じたのは、たぶん気のせいじゃない。
*
ベッドの中で、背中合わせに横になっていた夜。
眠れないまま時間だけが過ぎていく。
そんななか、後ろから瀬戸の声が低く響いた。
「……触れてもいいですか」
「無理にじゃなくて、大事に…したくて」
佐倉は目を閉じたまま、背中で呼吸の揺れを感じていた。
何度も繰り返し、慎重に選ばれた言葉。
その奥にある真剣さが伝わってくる。
「怖がらせたくない。でも、止まれないくらい…好きなんです」
それは、欲ではなく願いに近かった。
佐倉は静かにうなずいた。
言葉はいらなかった。
*
休日の午後、佐倉の部屋。
日差しの差し込むカーテンの前で、瀬戸は佐倉の肩に寄りかかるように座っていた。
外では風が強く、どこかへ誰かが出かけていく音が遠くに聞こえていた。
「今日はもうちょっと一緒にいたいです。何もしなくていいので」
「……それ、十分“何か”やで」
「なら、それがしたいです」
「“一緒にいる”だけで、ぼくには充分ですから」
佐倉は一度だけ大きく息を吐いた。
肩に置かれた瀬戸の手が、ゆっくりと握られる。
「わがままか?」
「……わがままくらい、言え」
*
夜、布団に入る前、電気を落とした部屋で。
佐倉がベッドに入ると、瀬戸もその隣に静かに腰を下ろした。
「寝る前、奏太さんの声が最後に聞きたいです」
「……今日、しゃべりすぎたくらいやのに?」
「それでも、最後がいいんです」
佐倉は、ベッドに寝転びながら天井を見上げた。
その静かな声に、少しだけ胸が鳴る。
「……おやすみ、悠貴」
「……おやすみなさい。名前、呼んでくれてありがとうございます」
*
朝、目が覚める前のまどろみの中。
隣にいるはずの人のぬくもりを、確かめるように瀬戸がささやいた。
「夢の中でも奏太さんでした」
佐倉はまだ眠っていた。
けれど、その声はたしかに届いていた。
まぶたの裏が熱を持つのは、目覚めたときの話だった。
*
夜、少しだけ気持ちが不安定になっていた佐倉が、黙ったままテレビの前に座っていた。
瀬戸は何も言わずに隣に座り、クッションを持たせてくれた。
数分後、ぽつりと口を開く。
「僕、結構甘えたがりなんで……これから引かないでくださいね?」
佐倉はクッションを抱きながら、首だけで彼を見た。
その目は、やけに真剣だった。
「そんなもん、最初から分かっとるわ」
*
ふたりでベッドに入り、横向きで向かい合っていた夜。
佐倉がそっと腕を伸ばして額に触れると、瀬戸がほっとしたように目を細めた。
「“好き”って言っていいタイミング、まだ残ってます?」
「……お前はもう、いつでも言うてええんやで」
「じゃあ」
瀬戸は枕に顔を沈めながら、小さな声で続ける。
「好きです。奏太さん」
その声を聞いた佐倉は、ため息のような笑いを漏らしながら、そっと額を寄せた。
*
瀬戸の言葉は、たいてい短い。
まわりくどくないし、華やかでもない。
けれど、なぜか一言が長く胸に残る。
その正直さが、佐倉にはときに眩しくて、だからこそ受け止めたくなる。
好きという言葉が、何度も繰り返されても、うるさく感じないのは、
そのたびに“新しく届いてくる気がする”からだった。
51
あなたにおすすめの小説
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
今度こそ、どんな診療が俺を 待っているのか
相馬昴
BL
強靭な肉体を持つ男・相馬昴は、診療台の上で運命に翻弄されていく。
相手は、年下の執着攻め——そして、彼一人では終わらない。
ガチムチ受け×年下×複数攻めという禁断の関係が、徐々に相馬の本能を暴いていく。
雄の香りと快楽に塗れながら、男たちの欲望の的となる彼の身体。
その結末は、甘美な支配か、それとも——
背徳的な医師×患者、欲と心理が交錯する濃密BL長編!
https://ci-en.dlsite.com/creator/30033/article/1422322
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる