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実家に帰らせていただきます(なお、恋人付き)
年越しテレビとこたつの夜
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紅白歌合戦が終わり、テレビの画面が派手なカウントダウン特番へと切り替わる。
映し出されるのはにぎやかな司会者と、年越しを盛り上げるスタジオの賑わい。
けれどその騒がしさは、こたつに集うこの部屋には不思議と届かない。
誰も大きな声を出すことなく、反応もまばらだった。
父は黙って湯呑を置き、百合子は縫い物の手を止め、テレビを見るでもなく、台所の方へと目をやっている。
こたつの一角で、榊が背中を預けるようにしてゆっくりと体勢を崩した。
座布団を枕に凭れ、足をこたつに収めたまま、大きく息をつく。
「……ちょっと眠いだけや」
ぼそりとそう言って、目を閉じた。
言葉通り疲れているようで、頬の力が抜け、眉間のしわもゆるやかになっていく。
陽翔はその横に、そっと腰を下ろした。
距離を詰めるわけでもなく、けれど榊の背中が届きそうな位置に。
湯呑を持ったまま、足をこたつ布団の中へ入れた。
テレビの音が、どこか遠くで鳴っているように聞こえる。
さっきまでの笑い声はおさまり、今は、年末の夜が持つ独特の静けさが空気に染みはじめていた。
「……あかん、先に寝るわ」
百合子が立ち上がる。
カーディガンを羽織りながら、「こたつで寝たら風邪ひくで」と言い残して、ゆっくりと部屋を出ていった。
父もそれに続くように立ち上がり、特に言葉を交わすことなく寝室の方へと歩いていく。
足音も、襖を閉める音も、すべてがやわらかく、重ならない。
残ったのは、陽翔、榊、そして雅彦。
雅彦は座椅子に背をあずけたまま、缶ビールを片手に持っていた。
「カウントダウンまで、もうちょいやな」とだけ呟き、テレビに視線を戻す。
けれどその目は、番組の内容を追っているというよりは、ただ静かに時間の流れを感じているだけのようだった。
陽翔は、榊の方に目をやる。
こたつに足を入れたまま、榊は静かに寝息を立てていた。
薄く開いた唇から、ゆっくりと吐かれる息。
目元は穏やかで、普段の職場では見せない、無防備な顔だった。
髪が少しだけ乱れていて、けれどその乱れ方までもがやけに整って見えるのは、榊という人の“輪郭”そのものなのかもしれない。
近くにいるのに、遠い。
けれど、いまは近い。手を伸ばせば、届くところにいる。
陽翔は、手にした湯呑を両手で包むように持ち直した。
指先がじんわりと温まり、冷えた掌が緩やかにほどけていく。
こたつの中の熱と、湯呑のぬくもりと、そして隣で眠る人の存在。
そのすべてが、“今ここにいる”ことを強く感じさせてくれる。
ふと、時計を見ると、もうすぐ日付が変わろうとしていた。
新しい年が近づいてくる。
テレビではカウントダウンの準備が始まり、司会者が声を張り上げている。
けれど、陽翔の耳には、それらの音がただのBGMにしか聞こえなかった。
榊の寝息が、すこしだけ深くなった気がした。
心地よさに身を預けるように、すべての力が抜けている。
この人は、いま、安心して眠っている。
ここに陽翔がいることを、きっとちゃんと分かっていて、だからこそ、こうして無防備に眠れるのだと思えた。
そのことが、何よりもうれしかった。
部屋のなかには、静かな時間が流れている。
陽翔はもう一度、榊の寝顔を見た。
そして、小さく、ひとつ、深呼吸をした。
声には出さなかったが、胸の中でそっと呟いた。
“よく、ここまで来られたな”
年末の夜。
今年が、終わろうとしている。
けれど、それは“終わり”ではなく、“続き”の始まりに思えた。
ふたりの時間が、これから何度も“こうして”続いていきますように――
そんな願いを込めながら、陽翔は湯呑をテーブルにそっと戻した。
映し出されるのはにぎやかな司会者と、年越しを盛り上げるスタジオの賑わい。
けれどその騒がしさは、こたつに集うこの部屋には不思議と届かない。
誰も大きな声を出すことなく、反応もまばらだった。
父は黙って湯呑を置き、百合子は縫い物の手を止め、テレビを見るでもなく、台所の方へと目をやっている。
こたつの一角で、榊が背中を預けるようにしてゆっくりと体勢を崩した。
座布団を枕に凭れ、足をこたつに収めたまま、大きく息をつく。
「……ちょっと眠いだけや」
ぼそりとそう言って、目を閉じた。
言葉通り疲れているようで、頬の力が抜け、眉間のしわもゆるやかになっていく。
陽翔はその横に、そっと腰を下ろした。
距離を詰めるわけでもなく、けれど榊の背中が届きそうな位置に。
湯呑を持ったまま、足をこたつ布団の中へ入れた。
テレビの音が、どこか遠くで鳴っているように聞こえる。
さっきまでの笑い声はおさまり、今は、年末の夜が持つ独特の静けさが空気に染みはじめていた。
「……あかん、先に寝るわ」
百合子が立ち上がる。
カーディガンを羽織りながら、「こたつで寝たら風邪ひくで」と言い残して、ゆっくりと部屋を出ていった。
父もそれに続くように立ち上がり、特に言葉を交わすことなく寝室の方へと歩いていく。
足音も、襖を閉める音も、すべてがやわらかく、重ならない。
残ったのは、陽翔、榊、そして雅彦。
雅彦は座椅子に背をあずけたまま、缶ビールを片手に持っていた。
「カウントダウンまで、もうちょいやな」とだけ呟き、テレビに視線を戻す。
けれどその目は、番組の内容を追っているというよりは、ただ静かに時間の流れを感じているだけのようだった。
陽翔は、榊の方に目をやる。
こたつに足を入れたまま、榊は静かに寝息を立てていた。
薄く開いた唇から、ゆっくりと吐かれる息。
目元は穏やかで、普段の職場では見せない、無防備な顔だった。
髪が少しだけ乱れていて、けれどその乱れ方までもがやけに整って見えるのは、榊という人の“輪郭”そのものなのかもしれない。
近くにいるのに、遠い。
けれど、いまは近い。手を伸ばせば、届くところにいる。
陽翔は、手にした湯呑を両手で包むように持ち直した。
指先がじんわりと温まり、冷えた掌が緩やかにほどけていく。
こたつの中の熱と、湯呑のぬくもりと、そして隣で眠る人の存在。
そのすべてが、“今ここにいる”ことを強く感じさせてくれる。
ふと、時計を見ると、もうすぐ日付が変わろうとしていた。
新しい年が近づいてくる。
テレビではカウントダウンの準備が始まり、司会者が声を張り上げている。
けれど、陽翔の耳には、それらの音がただのBGMにしか聞こえなかった。
榊の寝息が、すこしだけ深くなった気がした。
心地よさに身を預けるように、すべての力が抜けている。
この人は、いま、安心して眠っている。
ここに陽翔がいることを、きっとちゃんと分かっていて、だからこそ、こうして無防備に眠れるのだと思えた。
そのことが、何よりもうれしかった。
部屋のなかには、静かな時間が流れている。
陽翔はもう一度、榊の寝顔を見た。
そして、小さく、ひとつ、深呼吸をした。
声には出さなかったが、胸の中でそっと呟いた。
“よく、ここまで来られたな”
年末の夜。
今年が、終わろうとしている。
けれど、それは“終わり”ではなく、“続き”の始まりに思えた。
ふたりの時間が、これから何度も“こうして”続いていきますように――
そんな願いを込めながら、陽翔は湯呑をテーブルにそっと戻した。
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