オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始

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恋人でいるための、夏が来た~陽翔×榊、瀬戸×佐倉、ふたりずつの完成された恋人たちが過ごす夏の一泊旅

崩れたYシャツと、静かな寝息

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夏の夜、二十二時を少し過ぎたころ。  
リビングの空気は冷房の風でほどよく冷えていて、それでも一日分の熱がわずかに残っているような、そんな湿度をまとっていた。

ソファには榊が身体を預けて眠っていた。  
上半身はシャツ姿のまま、ネクタイは夕方のうちに外され、テーブルの端に丸めて置かれている。  
シャツの前ボタンは二つほど開いたままで、無防備にのぞく鎖骨と、のど元には汗が一筋、静かに流れていた。  
ソファに横たわるその姿は、仕事帰りの気の抜けた男そのもので、けれど陽翔の目には、どこか…綺麗にすら見えた。

少し乱れた髪が額にかかっている。  
夕方、会社を出るときにはちゃんと整っていたはずの髪が、今は湿気でふわりと跳ねて、顔の一部を隠している。  
それがまた、いつもよりずっと年下に見えて──  
陽翔は、胸の奥が小さく鳴るのを感じた。

洗い物を終えたばかりの手で、タオルケットを取り出す。  
音を立てないように、ゆっくりと、榊の肩にかけた。  
布が肌に落ちたとき、ソファがかすかに軋む。  
その振動に応じるように、榊の胸がわずかに揺れ、開いた襟元から覗く肌に、陽翔の指が触れた。

ほんの一瞬だった。

でも、その一瞬で、心臓が跳ねた。  
触れたのは指の側面。榊の肌は少し冷えていて、けれど汗でしっとりと湿っていた。  
思わず息を止めて、陽翔は手を引っ込めた。  
息をのんだ音が、自分の喉から出たことさえ恥ずかしくなるほど、部屋は静かだった。

…よく寝てる。

そうつぶやいた声さえ、自分にしか届かないくらい小さい。  
榊は眠っているようで、目を閉じたまま、うっすらと口元に緩い呼吸を乗せている。  
こうしていると、本当にただの“普通の人”に見えた。  
部下にも、取引先にも一目置かれるあの榊圭吾が、今は手足を伸ばしてソファを占領している、ただの大人の男。

…相変わらず、無防備すぎるんだよ、圭吾さんは。

日中もヨレヨレで、ネクタイが曲がってて、身だしなみに無頓着で、でも仕事は圧倒的にできて。  
何もかもがちぐはぐなはずなのに、そこに“整っている感じ”があって、それがまた、ずるい。

ああ、好きだな、と思った。

何度見ても、こうして目の前にいても。  
飽きるなんて気配が一切ない。  
むしろ、今もこうして“好き”が増えていくのが、わかる。  
毎日一緒にいて、同じ家に帰ってきて、顔を見て、食事をして、眠って。  
それなのに、ふとした瞬間にまた、こんなふうに心臓が騒ぐなんて。

…いつか、慣れるのかもしれない。  
この顔も、寝息も、手の甲に触れた肌の温度も。

けれど今はまだ、それが全部、新しい。  
まるで恋人になったばかりの頃のような、慎重な感情のゆらぎ。

榊の顔を見つめながら、陽翔はソファの横に腰を下ろした。  
視線は自然と、襟の隙間や喉元の汗、軽く開いた指先へと滑っていく。  
何もかもが、触れたらいけないような、でも触れてしまいたくなるような。  
その狭間で、自分の中の理性が、わずかに揺れていた。

…夏だから、というわけじゃない。  
きっと、季節なんて関係ないんだ。

好きだと思う気持ちは、こうして“まだ更新されていく”。  
眠っている榊を見つめながら、陽翔はそっと息を吐いた。  
静かな夜の中で、ひとつ、確かに積み重なった想いを胸に。
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