Memoria ~復讐の夜想曲は密やかに~

鏡上 怜

文字の大きさ
1 / 12

太陽の国・その片隅で

しおりを挟む
 沈むことのない太陽に照らされた国。
 世界的にそう称されている大国、ハプスブルビア。

 過去に世界的な規模で広まっていた戦火を生き延びて、数々の領地を併合することで発展を遂げたこの国は、それだけに様々な文化を内包しつつも、「国としての統合」を目的に各地にあった数多の信仰を、王都で信じられていた唯一神を崇めるものへと変えていった。

 時に懐柔、時に弾圧を以て。
 その過程で、多くの血と涙を流して。

 そうしたに蓋をするように王都、そして当時のハプスブルビア国王、ルディア4世の威光は国内外に喧伝されていく。
 そして王位が甥であるアウレディウス2世に引き継がれて、前王によって築かれた王都中心・国王の神格化・多くの責務(といってもその責務のほぼ全てが国王に近い高官によって担われていたが)と引き換えに国王に与えられた絶対的な権限……という体制を前提としたが敷かれるようになる頃には、その弾圧を直に味わった者以外、王国に対する不満を抱くようなものはいなくなっていた。

 時代の移り変わり、そして率先して改宗した領地への特権付与。更にその流れによって国教を信じる領邦が多数派に変わっていく。
 そしてある種の抵抗とともに語られてきた国教への統一は、次第に反対派が異端視される現状へと変わっていく。


 物語は、そんな大国ハプスブルビアの辺境に位置する、サーカルクレ領から始まる。
 王都からは駿馬を走らせて1週間程度かかる距離にありながら、その豊富な資源によって王国にとって重要な領邦として扱われるこの地には、今日も穏やかな風が吹いている。

「テオ!」
 少し前を歩くその影に呼びかける声は天上からこの地を照らす太陽のように明るく、聞く者を微笑ませるような可憐さがある。その声に振り返るのは、軽装に身を包む細身の青年。テオと呼ばれた青年は軽く微笑んでその笑みに答える。
「アリシア様、どうなさいましたか、――――っ!?」
 振り返りざまに胸に飛び込んできた少女、アリシアを驚いた顔で受け止める。そして、困った妹を見るような微笑ましげな目つきでその輝くブロンドの髪をしばらく撫でてから、静かな声で「いかがなさいましたか?」と尋ねる。
 その声に、アリシアは顔を上げて、テオ――テオドールの顔を見る。

 初めて出会った頃よりだいぶ大人びた顔。
 月のように輝く銀色の髪。
 以前王都で謁見した貴族の邸宅で目にしたエメラルドよりも美しく、澄んだ緑色の瞳。
 心配そうに自分を見つめている輝き。
 
 あぁ、やっぱりあなただけが私のことをわかってくれる。

 その瞳に映っている自分を見つめるようにして、アリシアは口を開いた。
「ねぇ、テオ。あなたは私の騎士になってくれる?」
 アリシアの問いに、テオドールは優しげな瞳を変えずに「もちろんでございます」と傅く。アリシアの白く柔らかく、しかしその中にも骨ばった硬さが微かにある手の甲に口づけながら。
「私は、あなた様のおかげで今こうしてこの地で生きていられるのです。その御恩に報いずして、どうしてあなた様に顔向けできましょう」
 穏やかながら、強い響きを持つ声。
「テオ、」
 その後に言葉を続けようとして、しかし躊躇して止めた姫君を見る視線はあくまで優しげで。

 アリシアは、ひとり昼中の空を見上げた。
 サーカルクレ領の風景は、相変わらず穏やかに流れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のない、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

処理中です...