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太陽の国・その片隅で
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沈むことのない太陽に照らされた国。
世界的にそう称されている大国、ハプスブルビア。
過去に世界的な規模で広まっていた戦火を生き延びて、数々の領地を併合することで発展を遂げたこの国は、それだけに様々な文化を内包しつつも、「国としての統合」を目的に各地にあった数多の信仰を、王都で信じられていた唯一神を崇めるものへと変えていった。
時に懐柔、時に弾圧を以て。
その過程で、多くの血と涙を流して。
そうした暗部に蓋をするように王都、そして当時のハプスブルビア国王、ルディア4世の威光は国内外に喧伝されていく。
そして王位が甥であるアウレディウス2世に引き継がれて、前王によって築かれた王都中心・国王の神格化・多くの責務(といってもその責務のほぼ全てが国王に近い高官によって担われていたが)と引き換えに国王に与えられた絶対的な権限……という体制を前提とした平和的支配が敷かれるようになる頃には、その弾圧を直に味わった者以外、王国に対する不満を抱くようなものはいなくなっていた。
時代の移り変わり、そして率先して改宗した領地への特権付与。更にその流れによって国教を信じる領邦が多数派に変わっていく。
そしてある種の抵抗とともに語られてきた国教への統一は、次第に反対派が異端視される現状へと変わっていく。
物語は、そんな大国ハプスブルビアの辺境に位置する、サーカルクレ領から始まる。
王都からは駿馬を走らせて1週間程度かかる距離にありながら、その豊富な資源によって王国にとって重要な領邦として扱われるこの地には、今日も穏やかな風が吹いている。
「テオ!」
少し前を歩くその影に呼びかける声は天上からこの地を照らす太陽のように明るく、聞く者を微笑ませるような可憐さがある。その声に振り返るのは、軽装に身を包む細身の青年。テオと呼ばれた青年は軽く微笑んでその笑みに答える。
「アリシア様、どうなさいましたか、――――っ!?」
振り返りざまに胸に飛び込んできた少女、アリシアを驚いた顔で受け止める。そして、困った妹を見るような微笑ましげな目つきでその輝くブロンドの髪をしばらく撫でてから、静かな声で「いかがなさいましたか?」と尋ねる。
その声に、アリシアは顔を上げて、テオ――テオドールの顔を見る。
初めて出会った頃よりだいぶ大人びた顔。
月のように輝く銀色の髪。
以前王都で謁見した貴族の邸宅で目にしたエメラルドよりも美しく、澄んだ緑色の瞳。
心配そうに自分を見つめている輝き。
あぁ、やっぱりあなただけが私のことをわかってくれる。
その瞳に映っている自分を見つめるようにして、アリシアは口を開いた。
「ねぇ、テオ。あなたは私の騎士になってくれる?」
アリシアの問いに、テオドールは優しげな瞳を変えずに「もちろんでございます」と傅く。アリシアの白く柔らかく、しかしその中にも骨ばった硬さが微かにある手の甲に口づけながら。
「私は、あなた様のおかげで今こうしてこの地で生きていられるのです。その御恩に報いずして、どうしてあなた様に顔向けできましょう」
穏やかながら、強い響きを持つ声。
「テオ、」
その後に言葉を続けようとして、しかし躊躇して止めた姫君を見る視線はあくまで優しげで。
アリシアは、ひとり昼中の空を見上げた。
サーカルクレ領の風景は、相変わらず穏やかに流れていた。
世界的にそう称されている大国、ハプスブルビア。
過去に世界的な規模で広まっていた戦火を生き延びて、数々の領地を併合することで発展を遂げたこの国は、それだけに様々な文化を内包しつつも、「国としての統合」を目的に各地にあった数多の信仰を、王都で信じられていた唯一神を崇めるものへと変えていった。
時に懐柔、時に弾圧を以て。
その過程で、多くの血と涙を流して。
そうした暗部に蓋をするように王都、そして当時のハプスブルビア国王、ルディア4世の威光は国内外に喧伝されていく。
そして王位が甥であるアウレディウス2世に引き継がれて、前王によって築かれた王都中心・国王の神格化・多くの責務(といってもその責務のほぼ全てが国王に近い高官によって担われていたが)と引き換えに国王に与えられた絶対的な権限……という体制を前提とした平和的支配が敷かれるようになる頃には、その弾圧を直に味わった者以外、王国に対する不満を抱くようなものはいなくなっていた。
時代の移り変わり、そして率先して改宗した領地への特権付与。更にその流れによって国教を信じる領邦が多数派に変わっていく。
そしてある種の抵抗とともに語られてきた国教への統一は、次第に反対派が異端視される現状へと変わっていく。
物語は、そんな大国ハプスブルビアの辺境に位置する、サーカルクレ領から始まる。
王都からは駿馬を走らせて1週間程度かかる距離にありながら、その豊富な資源によって王国にとって重要な領邦として扱われるこの地には、今日も穏やかな風が吹いている。
「テオ!」
少し前を歩くその影に呼びかける声は天上からこの地を照らす太陽のように明るく、聞く者を微笑ませるような可憐さがある。その声に振り返るのは、軽装に身を包む細身の青年。テオと呼ばれた青年は軽く微笑んでその笑みに答える。
「アリシア様、どうなさいましたか、――――っ!?」
振り返りざまに胸に飛び込んできた少女、アリシアを驚いた顔で受け止める。そして、困った妹を見るような微笑ましげな目つきでその輝くブロンドの髪をしばらく撫でてから、静かな声で「いかがなさいましたか?」と尋ねる。
その声に、アリシアは顔を上げて、テオ――テオドールの顔を見る。
初めて出会った頃よりだいぶ大人びた顔。
月のように輝く銀色の髪。
以前王都で謁見した貴族の邸宅で目にしたエメラルドよりも美しく、澄んだ緑色の瞳。
心配そうに自分を見つめている輝き。
あぁ、やっぱりあなただけが私のことをわかってくれる。
その瞳に映っている自分を見つめるようにして、アリシアは口を開いた。
「ねぇ、テオ。あなたは私の騎士になってくれる?」
アリシアの問いに、テオドールは優しげな瞳を変えずに「もちろんでございます」と傅く。アリシアの白く柔らかく、しかしその中にも骨ばった硬さが微かにある手の甲に口づけながら。
「私は、あなた様のおかげで今こうしてこの地で生きていられるのです。その御恩に報いずして、どうしてあなた様に顔向けできましょう」
穏やかながら、強い響きを持つ声。
「テオ、」
その後に言葉を続けようとして、しかし躊躇して止めた姫君を見る視線はあくまで優しげで。
アリシアは、ひとり昼中の空を見上げた。
サーカルクレ領の風景は、相変わらず穏やかに流れていた。
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