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暁の都へ
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アリシアの婚姻の日取りが決まり、いよいよサーカルクレ領を離れる時が来た。
もちろん、目的の為には国王に近い宮廷貴族への輿入れは必要なプロセスである。そのことは、とうに理解している。誰にも――たとえ弟にさえも――言えるようなことではないけれど、テオドールと分かち合えている。
ただ、幼いころから育ってきたこの場所を離れること。
そしてテオドールへの想いを押し殺したまま別の貴族のものになってしまうこと。
その2つが、アリシアの心に重くのしかかる。
そもそも、互いに肖像画でしか顔を知りえない状態。
権威を笠に着た行いが取り沙汰される家系。
そういった不安もある。
貴族同士の婚礼は両家の繋がりを作るためのものであり、現にサーカルクレ領はシュヴァイツ侯爵家との密接な繋がり――侯爵家による手厚い庇護と地域における盟主としての地位を約束され、シュヴァイツ家については、サーカルクレ領一帯から採れる資源の優先的な使用権を獲得することが決定している。
そして嫁いだ子女に求められるのは、血を絶やさないようにする為の世継ぎを産むこと。それができなければ周囲の目が冷たくなるのは避けられないし、婚姻の解消によって、それまでに与えられたものを剥奪されてしまう恐れもあった。
相手が誰であれ、相手への情の有無など関係なく、必要だから。
そんな実利的に結ばれる関係によって、いま確かに自分の中に宿っている想いを踏みにじってしまうことが、怖くて仕方がない。
何よりも、悲しい。
遠くから領民たちが自分を見送っている。
「お元気で、アリシア様!」
「あの小さかったお嬢ちゃんが、もう侯爵夫人とはなぁ」
「王都かぁ、僕たちも行ってみたいなぁ」
「どうかここのことを忘れないでくださいね……!」
「お元気で……っ!」
口々にかけられる言葉に、領民たちとの日々が蘇る。きっと、王都で侯爵夫人になったらここで生きてきたような自由な日々はもう訪れないのだろう……。
そして、彼との日々も、もう戻らない。
「テオ、――――」
思わずテオドールの名前を呼びそうになって。
それでも、全ては目的のため。
自分に言い聞かせながら、アリシアは前を向いた。
やがて、数日前に王都を発ったというシュヴァイツ侯爵家からの使者の一団がサーカルクレ領に現れて。アリシア達一行を伴って、馬を進め始めた。
ハプスブルビア王国の中心――暁の都とも呼ばれる王都、ピュセルブランシュに向かって。
アリシアの乗る馬車の横に張り付いて辺りの様子を窺いながら、テオドールは思う。
これでようやく始まったのだ、と……。
もちろん、目的の為には国王に近い宮廷貴族への輿入れは必要なプロセスである。そのことは、とうに理解している。誰にも――たとえ弟にさえも――言えるようなことではないけれど、テオドールと分かち合えている。
ただ、幼いころから育ってきたこの場所を離れること。
そしてテオドールへの想いを押し殺したまま別の貴族のものになってしまうこと。
その2つが、アリシアの心に重くのしかかる。
そもそも、互いに肖像画でしか顔を知りえない状態。
権威を笠に着た行いが取り沙汰される家系。
そういった不安もある。
貴族同士の婚礼は両家の繋がりを作るためのものであり、現にサーカルクレ領はシュヴァイツ侯爵家との密接な繋がり――侯爵家による手厚い庇護と地域における盟主としての地位を約束され、シュヴァイツ家については、サーカルクレ領一帯から採れる資源の優先的な使用権を獲得することが決定している。
そして嫁いだ子女に求められるのは、血を絶やさないようにする為の世継ぎを産むこと。それができなければ周囲の目が冷たくなるのは避けられないし、婚姻の解消によって、それまでに与えられたものを剥奪されてしまう恐れもあった。
相手が誰であれ、相手への情の有無など関係なく、必要だから。
そんな実利的に結ばれる関係によって、いま確かに自分の中に宿っている想いを踏みにじってしまうことが、怖くて仕方がない。
何よりも、悲しい。
遠くから領民たちが自分を見送っている。
「お元気で、アリシア様!」
「あの小さかったお嬢ちゃんが、もう侯爵夫人とはなぁ」
「王都かぁ、僕たちも行ってみたいなぁ」
「どうかここのことを忘れないでくださいね……!」
「お元気で……っ!」
口々にかけられる言葉に、領民たちとの日々が蘇る。きっと、王都で侯爵夫人になったらここで生きてきたような自由な日々はもう訪れないのだろう……。
そして、彼との日々も、もう戻らない。
「テオ、――――」
思わずテオドールの名前を呼びそうになって。
それでも、全ては目的のため。
自分に言い聞かせながら、アリシアは前を向いた。
やがて、数日前に王都を発ったというシュヴァイツ侯爵家からの使者の一団がサーカルクレ領に現れて。アリシア達一行を伴って、馬を進め始めた。
ハプスブルビア王国の中心――暁の都とも呼ばれる王都、ピュセルブランシュに向かって。
アリシアの乗る馬車の横に張り付いて辺りの様子を窺いながら、テオドールは思う。
これでようやく始まったのだ、と……。
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