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第三章 結末
憧れの形
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トーナメントの組み合わせは、当日の朝までわからない。だが、最終的に残るのは、ファルコ・クラッセのメンバーである可能性が高い。だから、摸擬戦を行えば行うほど、自分の手の内を明かすことにもなる。
それは間違いないことで、セレスは多少気にしていたようだ。
全力で向かわなければ摸擬戦にならない。
一方で、全力を見せてしまえば、対策を講じられてしまう。
アインハルトとの摸擬戦を見ていて、僕はその迷いを感じ取っていた。恐らくそれは、セレスだけではなく、アインハルトも同じだろう。
だが、デュークは違った。
摸擬戦であっても一切考慮することなく、対戦相手を追い詰める。それは、下級生だけにとどまらず、ベアトリスに対してもそうだ。
「デュークは、力を隠そうと思ったことはないの?」
その日も、コテンパンにやられたセレスは、デュークにそう聞いていた。
僕が力を隠していると勘違いした時も、デュークは激しい怒りを見せていた。もしかしたら、力を隠すこと自体に、卑怯さを感じて憤るタイプなのか。
僕は二人を窺い、デュークの答えを待った。
すると、タオルで顔を拭き、首に掛けてからセレスを見据えた。
銀色の瞳がどこまでも透き通っていて、僕が見つめられているわけでもないのに動揺した。
デュークは、つまらないことをとでも言いたげな顔で答えた。
「目標は、優勝ではない」
簡潔な一言に、セレスが首を傾げている。
僕はその眼差しに惹きつけられて、身動ぐこともできなくなる。
17歳の彼には、一体何が見えているんだろう。
その静かな瞳の色に、彼の深い思いを垣間見た気がした。
トーナメントでは、これまでの授業のように、属性を絞ることはない。ルール上は、単独属性に限らないため、複数属性を持つ者は、能力のすべてを使用することができることになる。
そうなると、技術面では弱くとも、複数の属性魔法が使えるアインハルトやセレスにも勝つチャンスはある。もちろん二人もそう考えているようで、組み合わせた攻撃の練習に余念がない。
交互に摸擬戦を行う4人は、僕には眩しい。
いつになったら、僕の力は発現するのだろう。
もしかしたら、炎の魔法に多少適性があるだけで、魔力は大したことがないのかもしれない。
それなら、僕はファルコ・クラッセに相応しくはない。普通科のクラスで学んだ方が、よっぽどマシだ。
ゲームの中のクリスティアンのように、セレスの我がままで入れたというのなら、まだ諦めもついただろう。自分に下手に期待してしまったのが悪い。
僕は、あの魔力測定器を頭に思い浮かべ、罪を擦り付けた。
来月には僕の発表の順番が回ってくるということで、僕は途中で切り上げて図書室に向かった。発表内容をそろそろ固めないといけなくて、資料に当たる必要がある。必要な本をすべて借りていたら冊数が足りなくなるため、できるだけ図書室でまとめて、借りる本は最低限にしたかった。
僕が担当するのは、火属性の攻撃魔法の種類についてだ。これまでの歴史と現状残っているテクニック、そして今後の展望。
新しい攻撃魔法なんて、僕に編み出せるわけがなく、ほぼ歴史についてまとめるのが主になる。
資料から内容を写し、まとめているうちに、閉室を告げる鐘の音が聞こえてきた。
「今日は、ここまでか」
全然進んだ気がしないが、時間なら仕方がない。
僕は、本を数冊借りて図書室を出て、寮ではなく修練場に向かった。
ここは24時間開放されている。
放課後には人で埋め尽くされるほどだが、今はほとんど人の姿はない。
僕はファルコ・クラッセが使用するエリアまで行き、見学席に本を置いた。そして、フィールドの中央に立ち、目を閉じて水魔法について思い出した。
今日の、セレスとデュークの練習風景だ。
二人とも水魔法を使っていたが、デュークの氷魔法は特に美しかった。
杖を使わない、独特の技法。
構えから能力の発動までの一連の動き。
僕は気付けば、見惚れてしまっていた。
デュークの姿かたちだけではない。
その魔法の形にも、彼の個性が光っている。
どこまでも透明で、鋭く、容赦がない。
美しさに目を奪われていれば、こちらの命が危うくなる。
磨き上げられた能力と卓越した魔力。
少しでも、デュークに近付ければ、どんなにいいだろう。
練習風景を思い浮かべ、彼が作っていた氷のつぶてのイメージを膨らませる。
自ら氷を錬成し、速度を持って尖らせる。
まずは、水を結晶化できなければ話にならない。
集中力を高め、イメージから実働へ向かおうとしたその瞬間、傍に人の気配を感じた。
目を開けると、見学席に人の姿がある。
長い白金の髪をひとまとめにし、前の席に腕を掛けるようにして僕を見ている。目が合うと、席から立ち上がって近付いてきた。
「クリスティアン君、一人なのか?」
「イェレミーさん」
最近は、研究室に引きこもっているイェレミーが、どうしてここにいるのだろう。
もしかしたら、自主練習をしに来たんだろうか。
「見せてみて」
突然そう言われて、僕は躊躇いを覚えた。
だが、恥ずかしがって、この機会を失うのは勿体ない。
僕は、右手を空に向けた。
すると、水が生じて、少しずつ集約していく。完全な球体になったところで、周りが氷結し始める。
だが、そこまでだ。
氷は、球体になるところで止まり、それ以上は形を変えることはない。
「なんだ、使えるじゃないか」
使える?
一体どこを見たらそう思えるんだ。
「水を生み出すのだって、技術がなければできないんだ。オーベリンにはまだ教わっていなかったはずだ」
確かに教わってはいない。
トレーニングメニューでも、後の方で出てくるくらいだ。
「ただの見様見真似で」
デュークに憧れて試していた、なんて言えるわけがない。
すると、イェレミーは眉を跳ね上げた。
「見様見真似、いいじゃない。何だって模倣から始まるんだ」
そして、口端を上げたところで、思いついたように言いだした。
「一人じゃ危ないから、僕が付き合うよ」
「え? いいんですか?」
「このくらいの時間なら、身体が空くからね」
ということは、今日一回だけではなく、これから毎回見てもらえるということなのか。
「ただし、皆には内緒だよ」
「ありがとうございます」
こんなに嬉しいことはない。
僕は差し出されたイェレミーの手を握り、約束を交わした。
それからは、図書室の閉室後に、イェレミーと毎日特訓した。
そして、寮に戻ると、アインハルトと食事をする。
それが、日課となっていた。
日課と言えば、もう一つある。
夕食後にセレスが部屋に現れるようになったことだ。
どうやら、ようやく攻略対象たちに興味を持ち始めたらしい。毎日、誰かしらの話題を出すようになった。
「今は、先生に興味があるんだけれど、なかなか話す機会がなくて」
「先生?」
そういえば、オーベリン先生も攻略対象だった。
「多分今頃は、講義室の隣にいると思うけれど」
僕がホログラムのように浮かび上がらせた構内図を頼りに言うと、セレスは笑顔になった。
「じゃあ、ちょっと行ってこようかな」
「僕も行くよ」
「大丈夫。一人で行けるから。クリスは早く休んで」
セレスは僕を気遣い、一人でオーベリン先生に会いに行った。
僕は、その背中を見送る力もなく、気絶するように眠りについた。
それは間違いないことで、セレスは多少気にしていたようだ。
全力で向かわなければ摸擬戦にならない。
一方で、全力を見せてしまえば、対策を講じられてしまう。
アインハルトとの摸擬戦を見ていて、僕はその迷いを感じ取っていた。恐らくそれは、セレスだけではなく、アインハルトも同じだろう。
だが、デュークは違った。
摸擬戦であっても一切考慮することなく、対戦相手を追い詰める。それは、下級生だけにとどまらず、ベアトリスに対してもそうだ。
「デュークは、力を隠そうと思ったことはないの?」
その日も、コテンパンにやられたセレスは、デュークにそう聞いていた。
僕が力を隠していると勘違いした時も、デュークは激しい怒りを見せていた。もしかしたら、力を隠すこと自体に、卑怯さを感じて憤るタイプなのか。
僕は二人を窺い、デュークの答えを待った。
すると、タオルで顔を拭き、首に掛けてからセレスを見据えた。
銀色の瞳がどこまでも透き通っていて、僕が見つめられているわけでもないのに動揺した。
デュークは、つまらないことをとでも言いたげな顔で答えた。
「目標は、優勝ではない」
簡潔な一言に、セレスが首を傾げている。
僕はその眼差しに惹きつけられて、身動ぐこともできなくなる。
17歳の彼には、一体何が見えているんだろう。
その静かな瞳の色に、彼の深い思いを垣間見た気がした。
トーナメントでは、これまでの授業のように、属性を絞ることはない。ルール上は、単独属性に限らないため、複数属性を持つ者は、能力のすべてを使用することができることになる。
そうなると、技術面では弱くとも、複数の属性魔法が使えるアインハルトやセレスにも勝つチャンスはある。もちろん二人もそう考えているようで、組み合わせた攻撃の練習に余念がない。
交互に摸擬戦を行う4人は、僕には眩しい。
いつになったら、僕の力は発現するのだろう。
もしかしたら、炎の魔法に多少適性があるだけで、魔力は大したことがないのかもしれない。
それなら、僕はファルコ・クラッセに相応しくはない。普通科のクラスで学んだ方が、よっぽどマシだ。
ゲームの中のクリスティアンのように、セレスの我がままで入れたというのなら、まだ諦めもついただろう。自分に下手に期待してしまったのが悪い。
僕は、あの魔力測定器を頭に思い浮かべ、罪を擦り付けた。
来月には僕の発表の順番が回ってくるということで、僕は途中で切り上げて図書室に向かった。発表内容をそろそろ固めないといけなくて、資料に当たる必要がある。必要な本をすべて借りていたら冊数が足りなくなるため、できるだけ図書室でまとめて、借りる本は最低限にしたかった。
僕が担当するのは、火属性の攻撃魔法の種類についてだ。これまでの歴史と現状残っているテクニック、そして今後の展望。
新しい攻撃魔法なんて、僕に編み出せるわけがなく、ほぼ歴史についてまとめるのが主になる。
資料から内容を写し、まとめているうちに、閉室を告げる鐘の音が聞こえてきた。
「今日は、ここまでか」
全然進んだ気がしないが、時間なら仕方がない。
僕は、本を数冊借りて図書室を出て、寮ではなく修練場に向かった。
ここは24時間開放されている。
放課後には人で埋め尽くされるほどだが、今はほとんど人の姿はない。
僕はファルコ・クラッセが使用するエリアまで行き、見学席に本を置いた。そして、フィールドの中央に立ち、目を閉じて水魔法について思い出した。
今日の、セレスとデュークの練習風景だ。
二人とも水魔法を使っていたが、デュークの氷魔法は特に美しかった。
杖を使わない、独特の技法。
構えから能力の発動までの一連の動き。
僕は気付けば、見惚れてしまっていた。
デュークの姿かたちだけではない。
その魔法の形にも、彼の個性が光っている。
どこまでも透明で、鋭く、容赦がない。
美しさに目を奪われていれば、こちらの命が危うくなる。
磨き上げられた能力と卓越した魔力。
少しでも、デュークに近付ければ、どんなにいいだろう。
練習風景を思い浮かべ、彼が作っていた氷のつぶてのイメージを膨らませる。
自ら氷を錬成し、速度を持って尖らせる。
まずは、水を結晶化できなければ話にならない。
集中力を高め、イメージから実働へ向かおうとしたその瞬間、傍に人の気配を感じた。
目を開けると、見学席に人の姿がある。
長い白金の髪をひとまとめにし、前の席に腕を掛けるようにして僕を見ている。目が合うと、席から立ち上がって近付いてきた。
「クリスティアン君、一人なのか?」
「イェレミーさん」
最近は、研究室に引きこもっているイェレミーが、どうしてここにいるのだろう。
もしかしたら、自主練習をしに来たんだろうか。
「見せてみて」
突然そう言われて、僕は躊躇いを覚えた。
だが、恥ずかしがって、この機会を失うのは勿体ない。
僕は、右手を空に向けた。
すると、水が生じて、少しずつ集約していく。完全な球体になったところで、周りが氷結し始める。
だが、そこまでだ。
氷は、球体になるところで止まり、それ以上は形を変えることはない。
「なんだ、使えるじゃないか」
使える?
一体どこを見たらそう思えるんだ。
「水を生み出すのだって、技術がなければできないんだ。オーベリンにはまだ教わっていなかったはずだ」
確かに教わってはいない。
トレーニングメニューでも、後の方で出てくるくらいだ。
「ただの見様見真似で」
デュークに憧れて試していた、なんて言えるわけがない。
すると、イェレミーは眉を跳ね上げた。
「見様見真似、いいじゃない。何だって模倣から始まるんだ」
そして、口端を上げたところで、思いついたように言いだした。
「一人じゃ危ないから、僕が付き合うよ」
「え? いいんですか?」
「このくらいの時間なら、身体が空くからね」
ということは、今日一回だけではなく、これから毎回見てもらえるということなのか。
「ただし、皆には内緒だよ」
「ありがとうございます」
こんなに嬉しいことはない。
僕は差し出されたイェレミーの手を握り、約束を交わした。
それからは、図書室の閉室後に、イェレミーと毎日特訓した。
そして、寮に戻ると、アインハルトと食事をする。
それが、日課となっていた。
日課と言えば、もう一つある。
夕食後にセレスが部屋に現れるようになったことだ。
どうやら、ようやく攻略対象たちに興味を持ち始めたらしい。毎日、誰かしらの話題を出すようになった。
「今は、先生に興味があるんだけれど、なかなか話す機会がなくて」
「先生?」
そういえば、オーベリン先生も攻略対象だった。
「多分今頃は、講義室の隣にいると思うけれど」
僕がホログラムのように浮かび上がらせた構内図を頼りに言うと、セレスは笑顔になった。
「じゃあ、ちょっと行ってこようかな」
「僕も行くよ」
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