【完結】乙女ゲームの女主人公の兄なので、ちょっと僕を狙わないでもらえますか?

佑々木(うさぎ)

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第四章 未知

銀色の後遺症

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 夏休みは思ったよりも短く、2週間ほどで終わるらしい。
 それでも、普通なら休みを楽しみにして、指折り数えて過ごすものではないんだろうか。
 普通科のクラスメイトとは関わりが薄いから仕方ないにしても、ファルコ・クラッセでも聞いたことはない。誰一人話題にしていなかった。あのセレスでさえも。

 フレディが騒がなかった理由は、すぐにわかった。
 剣術科は、夏休みという名の強化訓練に入るらしい。
 予備兵と共に行われる合同練習で、その過酷さで新学期に姿を現さない生徒も多々いるという。
 頑張れとも無理するなとも、僕には言えそうになくて、フレディの話を黙って聞いていた。

「夜に一緒に筋トレできなくなるのがなあ」
「さぼらないから安心して」

 僕に気を遣う必要なんてないと思って言ったら、「オレがしたいんだよ」と返ってきた。

「じゃあ、いってくるわ」
「うん、またね」

 朝食を終えてフレディと別れて、僕はまず図書室に行くことにした。
 本を返して、新たに借りる本を探してくる。
 それだけでも、検索端末のない図書室では一苦労だ。

 中に入ってすぐ、僕は習慣で手前にある自習室を見た。
 ぐるりと見回してみても、銀髪の姿はない。
 ホッとして中に入り、カウンターで本を返してから魔法書の棚に行く。
 
 夏休み明けの最初が、僕の発表の番になる。
 ここまでひたすら用意してきたけれど、本当に発表できるんだろうか。
 先生は未熟な生徒に慣れているにしても、ファルコ・クラッセのメンバーは容赦ない。時間の無駄だと、一刀両断されかねない。
 眉根を寄せて切って捨てそうな人が思い浮かんで、僕はぎゅっと目を瞑って頭から追い出した。

 本棚の近くに座って、ノートを開く。
 メモを頼りに探し始めたところで、良い匂いがした。
 薔薇の花のような清々しい香りなんて、かび臭い図書室では珍しい。花でも活けてあるんだろうかと辺りを窺うと、すぐ傍にベアトリスの姿があった。
 縦に巻いた髪をリボンでまとめていて、とても華やかだ。
 僕に近付くと、柔らかく微笑んだ。

「ごきげんよう、クリス」
「ベアトリスさん、おはようございます」

 挨拶し返すとふふっと吐息で笑い、僕に顔を寄せる。

「きっとここに居らっしゃると思いましたわ」

 寝坊したせいで、今やっと来たばかりだ。
 入れ違いにならなくて良かったと内心思っていると、封筒を一通渡された。
 真っ赤なそれは、蜜蝋で封がしてある。
 たぶん、カスタニエ伯爵家の家紋だろう。

「これは?」
「クリスへのラブレターですの」

 もちろん冗談なんだろうと思って笑うと、柳眉を顰める。

「あら、本当ですのに」

 そんなはずはないとわかっていても、胸が騒いでしまう。
 3つ年下の男子生徒をあまり揶揄わないで欲しい。

 中を開けてみると、二つ折りにしたカードが入っていた。
 時間と場所が書かれていて、ドレスコードもある。

「招待状、ですか」
「そう。今晩、うちの邸に是非いらしてね」

 伯爵邸で行われるパーティ。
 まさか断るわけにはいかないけれど、出席するとなると何を着て行けばいいんだろう。

「制服でいいのよ」

 まるでこちらの心の声を読まれたようで、少し驚いてしまう。

「わかりました。是非伺います」

 そう返事をすると、ベアトリスは僕の手を取って握った。
 細い指先と僕より少し冷たい体温。
 赤い唇が笑みを刻む。

「お待ちしておりますわ」

 離れていく時にも、薔薇の花の香りがした。
 僕は、招待状をノートにそっと挟み、頭の中で予定を組み立てながら本を探した。

 
 図書室での勉強を終えて、いつもは授業をする時間に自主練習をする。
 放課後以上に修練場は混み合っていて、これは場所を確保するのも難しそうだ。
 かといって、修練場の外で魔法を使うわけにもいかない。
 それなら、邪魔にならない魔法の練習に当てるのがいいだろう。

 僕はそう思い、飛翔訓練に当てることにした。
 前は3メートルくらいしか飛べなかったけれど、今はシールドギリギリの5メートルは飛べるようになっている。もしかしたら、それ以上も可能なのかもしれないが、一歩間違えて落下したら命が危うくなる。まずは、安定して飛べるようになるのが先だ。

 修練場を周回し、時折アップダウンも入れる。
 右回り、左回りと時間をおいて逆に回るのは、オーベリン先生の練習メニューにも書いてあったものだ。ぐるぐると回っているうちに午前は終了し、生徒の多くが昼休憩に向かったところで、攻撃魔法の練習もした。
 
 イェレミーとの練習のおかげで、水魔法も使えるようになってきている。
 矢まではいかないけれど、氷のつぶてを飛ばせるようにはなった。
 風に乗せて氷を飛ばし、先端を尖らせる。

 ──『最初から矢にしようとするな』

 突然、脳裏に声が蘇った。

 ──『水滴は速度に応じて形を変え、鋭さを増すのはわかるだろう。氷のつぶての先が尖る原理だ』

 深みのある落ち着いた声。明瞭で明確な言葉。
 僕に対して発されたものではないのに、僕の心を突き動かす。
 なぜこんなに、あの人の存在は僕にとって大きいのだろう。

 銀色の髪と瞳。
 まるで氷のように清澄せいちょうで美しい。
 それでも、僕と同じ様に血が通い、体温がある。

 ──『やはり、似ていないな。目がまったく違う』

 触れてきた指先の感触を思い出して、顔が火照り出した。
 顔だけじゃなく、なんか身体中が熱い。
 ハッと我に返ると、氷ではなく燃え盛る炎が放出されていた。

「うわっ!!」
「ご、ごめん!」

 驚きの声を上げた周囲の生徒に謝って、僕は魔法を解いた。

「駄目だ……ああ、もうっ!」

 あんなことをしてきたデュークが悪い。
 そう思おうとしたけれど、指でちょっとなぞられただけで動揺する僕の方がおかしい。

 僕は、情けなく思いながら後片付けをして、とぼとぼと寮に向かって歩き出した。
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