【完結】乙女ゲームの女主人公の兄なので、ちょっと僕を狙わないでもらえますか?

佑々木(うさぎ)

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第五章 人質

双子の王子

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 アルヴェスト王国との国境地帯。
 警備が敷かれた、いわば最前線に着くと、僕たちは馬車を下りた。
 通常であれば、ここは通行証があれば通れる場所だ。
 だが今は、堅牢な門が閉ざされていて、周囲には武装した兵士が詰めていた。

「今は、アルヴェスト兵の姿はありませんが、近くで野営をしていることも考えられます」

 フォーシュリンドの兵士の一人が説明して、門を開けるのを躊躇っている。

「本当に、よろしいのですか?」
「はい、お願いします」

 既に王都から伝達されているはずだが、それでも身の危険を考えれば、むざむざと行かせるわけにはいかない。
 兵士がこちらを気遣ってくれているのがわかり、僕は頭を下げた。
 僕からデュークへと視線を向け、意思を確認した上で開門した。
 僕たちは、王都から乗ってきた馬車を軍のものに乗り換え、国境を渡った。

 両国の間に流れる川には、橋が掛けられている。
 川を越えれば、アルヴェスト王国の中だ。

 僕たちを乗せた馬車は、アルヴェスト側の門の前で止められた。

「通行証を改める。馬車はこれより先には進入不可だ」

 僕が、フォーシュリンド王国で発行された通行証を出すと、事細かく読み始めた。

「そちらは?」
「私は、デューク・アルヴェスタム。この国の第三王子だ」

 兵士は、一瞬怪訝な顔をしたが、デュークが取り出したペンダントを見た途端に顔色を変えた。

「それは……っ」
「し、失礼いたしました。デューク殿下」

 慌てたようにその場に片膝を突き、兵士たちは深々と頭を下げる。
 ここまで劇的に変わるとは思っておらず、僕はその様を見て、フォーシュリンド王国との違いを思い知らされた。

 王太子のアインハルトに対する僕たち生徒の態度。
 学院内では平等に扱う教師陣。
 気さくに学院に訪れる国王。

 きっと、このアルヴェスト王国では、決して許されることではないのだろう。
 それは、次々とデュークに接遇する人々を見ているうちに確信に変わった。
 誰一人、立礼で済ませようとはしない。
 中には、跪礼きれいする人までいた始末だ。

 僕はデュークと共に、アルヴェスト王国側の馬車まで案内された。
 真っ白い馬が引く、純白の馬車。よく見れば、銀箔が張られているのがわかる。

「どうぞ」

 促されて先にデュークが乗り込み、僕も続こうとしたら止められた。

「何と無礼な。王子と同じ馬車に乗るなど、そなたに許されるはずがなかろう」

 僕を止めたのは、黒衣の男だ。
 僕の父と同じくらいの年齢に見えるその人は、険しい目で睨みつける。

「私は彼と同じ馬車で移動する。──こっちに来るんだ、クリスティアン」
「はい、デューク王子」

 僕は、言われたままにデュークに近付いた。
 男がしぶしぶといった体で道を譲ったため、僕はデュークの隣の席に座った。

「出発!」

 馬がいななき、馬車が動き出した。
 まったく揺れを感じることがなくて、僕は内心驚いていた。
 馬車自体が、フォーシュリンドのものとは大きく違っている。
 席の座り心地だけではなく、馬車自体の造りも違うんだろう。

 暗闇を馬車は一路、王都に向かってひた走る。
 まさかここで眠るわけにはいかないと、僕は必死に眠気と戦った。
 バッヘム城の帰りにアインハルトにしたように、デュークの膝枕で寝るなんてことになったら、首を撥ねられるかもしれない。
 夜駆けする馬車の中で、僕は一睡もしないまま、ついに王都に到着した。

 アルヴェスト王国の王都、オースリン。
 僕は、これまでその名さえも聞いたことはない。
 
 王城はすぐにわかった。
 切り立った崖の上にあるその城は、朝焼けの中にあって美しく輝いている。
 白亜の城には、青い旗が揺らめいている。
 正式な制服姿の時にデュークが左肩にしていたあの青い紋章。
 やはり、アルヴェスト王国の国旗だったようだ。

 馬車で城門から中に入り、城の前で降りる。
 降り口から城の入り口に向けて赤絨毯が敷かれて、僕はその上をデュークに従って歩いた。

 城の床は石造りで、鏡のように磨かれていた。
 その段になって僕は、自分がフォーシュリンド王国の王城には行ったことがないことに気が付いた。海辺にあるアインハルトのバッヘム城に入ったことがあったが、あれは私邸に近い。
 ここは警備も厳重で、何より広い。
 
 王の謁見の間に着くまで、ひたすら長い廊下を歩いた。
 グリューン学院を出てから半日馬車に揺られて、その上、一睡もしていない。
 今の僕には、歩くのすらつらい。
 気を抜けば、その場にへたりこんでしまいかねないと、気を引き締めて歩く。

 やがて、歩兵に守られた扉が見えてきて、僕とデュークはその前で待った。

「お許しが出ました。どうぞお入りください」

 扉が開き、促されて中に入ると、奥の椅子に人影が二つ見えた。
 ドレープ状のカーテンが邪魔をして顔はよくわからない。自分たちよりも先に王が入室して待っていたのかと驚き、扉が閉まったところで二人の前まで進んだ。
 そして、カーテンに隠れていた顔が判別できるほど近付いたところで、相手が王と王妃ではないことがわかった。

 まったく同じ顔をした二人の青年。
 クセの強そうなウェーブの黒髪で、眉のあたりで切りそろえられている。
 瞳は落ち着いた紫紺の色で、冬の深い海を思わせた。

 二人の違いは、その冠だ。
 左が赤い冠を、右が青い冠をしている。
 違いはそれだけだ。
 初見の僕には、二人の見分けはつかない。

 不躾に見てしまっていたことに気付き、僕は片膝を突いて頭を垂れた。

「よく帰ったな。デューク」
「顔を上げていいぞ。そこのお前もだ」

 順番に喋る声もまた、まったく同じだ。
 デュークの声よりも若干高く、だが柔らかく耳に馴染む。

「ただいま戻りました。ルカーシュ兄さん、ルドビーク兄さん」

 ということは、赤が王太子であるルカーシュ、青が第二王子であるルドビークか。
 あまりじろじろ見てはいけないとわかっていても、目が離せなかった。

 デュークとはまるで似ていないが、とても美しい二人だ。
 青みがかったデュークの肌とは違い、血の色が透けているかのように赤みがかった肌だ。
 アーモンド形の瞳は勝気そうで、挑戦的な眼差しを僕に向けている。
 悪く言えば、こちらを小馬鹿にしたような笑み。

 自分たちより地位の高い者なんていない。
 そう認識しているように見える。

 実際、アルヴェスト国の王は最近は国政には参加せず、王子が政権を担っているという噂だった。それは、どうやら真実だったらしい。

 王太子であるルカーシュが右手を上げ、僕を指差しながらデュークに問いかけた。

「で、そいつは何者なんだ?」

 僕は、深々と頭を下げ、自ら名乗ろうとした。
 だがその前に、問われたデュークが答える。

「フォーシュリンド王国のアッシュベルト子爵家の長男、クリスティアン。私の恋人だ」

 僕は、思わず顔を上げてデュークを見た。

 今、何て……?
 恋人と言ったのか?
 どうして? 何のために?

 僕はパニックになる一歩手前で我に返り、もう一度頭を下げた。
 もしかしたら、何か策があるのかもしれないと思い直したからだ。

 すると、二つの声が重なった。

「は!? お前に恋人だと!?」

 驚いているのは、デュークに恋人ができたことそれ自体で、男の僕を恋人だと言ったことではないように感じる。
 二人にとって、デュークはそういうイメージなのだろうか。

「はい。兄さんたちに紹介したくて、連れてきた」

 デュークがそう言ったところで、自分に向けられる視線を感じ、僕は顔が熱くなる。
 嘘だと叫んでしまいたい気持ちと、ここは上手く合わせなくてはという考えがい交ぜになる。

 その時だ。

 椅子から立ち上がって、僕に近付いてくる足音が聞こえた。
 しかも、二人分だ。

 僕めがけて歩いてきているのだとわかり、血の気が引いた。

「立て!」

 ほぼ二人同時に言われて、僕はそろりと立ち上がった。
 顔を見上げたところで、二人は僕の手を握った。

「でかした!」
「……え?」

 二人は目を輝かせ、感無量といった顔つきだ。

「こいつにも、人を愛することができたのかと、私は嬉しい」
「今日は美味い酒が飲めそうだ。おい、宴席の用意だ!」

 デュークの兄二人に、僕はこのようにして厚遇されることとなった。
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