【完結】媚薬に狂った僕を助けてくれた、あなたは誰ですか?

佑々木(うさぎ)

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第四章 想い

あなたが欲しい

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 薄暗い部屋の中で上掛けを被り、僕は顔を隠して泣いた。
 声が漏れてしまわないよう、必死に押し殺す。
 
 フェリルへの想いが溢れて、今にもベッドを出ていって、言い募りたくなっていた。
 だが、言っても無駄だ。
 彼は、もう僕には関わってほしくないに違いない。

 どうして僕は、あの日常で満足できなかったのだろう。
 あの夜の行為をよすがに生きていこう思えば、出来たんじゃないのか。
 我儘で身勝手で欲深い自身を呪い、僕は罵りながら泣き続けた。

 やがて寝室の扉が開き、細く光が漏れ、部屋の中に人の気配を感じた。
 フェリルが入ってきたのだとわかり、僕は上掛けの下でぎゅっと身を縮める。
 勘付かれないよう必死に息を整え、扉の方を見ないようにする。
 そうして、やり過ごそうとしていると、不意に頭にそっと手を乗せられた。
 頭の形を辿るように撫でる手。
 その温もりに、僕は目を見開いた。

「お前は、声を殺して泣くのだな」

 これまで聞いた中で、いちばん優し気で柔らかな声だった。
 そのせいで、余計にしゃくりあげてしまい、フェリルはぽんぽんと頭に触れる。
 僕は堪らず、涙で濡れた顔をフェリルに向け、訴えた。

「お願いです。今夜だけでもいいです。僕を、抱いて……ください」

 こんなことを言ったら、迷惑でしかない。
 それでも僕は、フェリルの優しさに縋り、付け込もうとした。
 フェリルの右手が僕の頬に触れて、親指で涙を拭われる。
 次いで、顔を寄せて、その青い目を伏せた。
 長い睫毛に目を奪われ、僕は身じろぐこともできない。

 一瞬の間に吐息が重なり、唇が触れ合う。
 ぞくりと背中が痺れ、身体が戦慄いた。
 キスが深まり、熱い舌が口腔内に入ってくる。
 僕は目を閉じ、そのキスに浸った。
 間違いない。あの夜の、あの人のキスだ。
 僕の舌を絡め取り、軽く吸い上げる。
 カタカタと身体が震え、指先に力が入らない。
 それでも僕は、おずおずと腕を伸ばし、フェリルの背中に回した。

「ん……っん……ぁ……は……っ」

 舌を閃かせ、僕の口腔内を弄る舌の感触に、足先まで快感が走る。ぎゅっと背中に爪を立て、自分からもキスに応える。顔の角度を変えてさらに弱いところを攻め、キスは深くなる。あの夜のキスと重ねようとしたのは最初だけで、いつしか夢中になっていた。
 
 やがてキスを解き、フェリルは顔を離す。
 そして、僕の前髪をさらりと指先で梳いてから微笑んだ。

「涙は止まったな」

 これで、僕から離れていくのだろうか。
 向こうのベッドに向かい、別々に眠って朝を迎えるつもりか。

 どう言って引き止めればいい?
 これ以上、何を願えば叶えられる?

 僕が必死に考えを巡らせていると、目元に唇が押し当てられた。軽く啄んで離れていった唇は、頬を滑り、耳朶の舌を吸う。首筋に顔を埋め、舌先で辿られて、彼の意図を知った。
 僕が背中に縋っていた手を放すと、身を起こして上掛けを捲る。僕が着ていたシャツのボタンを両手で一つ一つ外して、前をはだけた。
 期待にふるりと顎先が震え、コクリと喉が鳴る。
 フェリルは、着ていた服の裾を捲って頭から脱ぎ、ベッドの下に放った。
 初めて見るフェリルの肉体は、鍛えられていて、無駄な肉がない。
 滑らかな肌とその下の筋肉に、僕の欲望は高まった。
 この身体に触れたいと思っていると、フェリルは僕に覆い被さった。
 その重みに身体が火照り出し、吐息が震える。

 もう一度唇が重なり、滑らかな手が僕の胸元を這う。
 キスをしながら、みぞおちや下腹、脇腹を手で辿った後、胸元に顔を伏せた。
 チュッと音を立てて肌にキスをし、舌で鎖骨を舐め、乳首を吸い上げる。

「は……っあ……」

 思わず漏れた声に驚いて、僕は手の甲で唇を塞いだ。
 腕が上がったことで晒された脇下にもキスをされて、身体がビクビクと跳ねる。そんなところでも快感を覚えるなんて、僕は知らなかった。

 肌を晒したところにキスをし、舌で味わうように舐め、僕の身体を昂らせていく。自分の身体の変化に戸惑い、緊張して、僕は動けずにいた。
 服の上から僕の股間を握り、形を確かめるかのように指で辿る。
 まるで僕の身体の昂りを検分しているようで、余計に恥ずかしい。

 フェリルは僕のズボンを下着ごと脱がして、膝を立てさせてから開いた。
 その間に膝を突き、綴じられないようにしてから小瓶を手にした。
 前に飲まされた媚薬が入っていたのと、似た形状の小瓶だ。
 僕が目を凝らしていると、フェリルは自身の手にそれを取る。

「潤滑油だ。心配することはない」

 それだけ言って、僕の後ろに塗し、指で触れてくる。
 そんなところを本当に使うのか。
 このままフェリルに任せていいのか。
 僕が自分で入れやすいようにしておかなければいけなかったのではないのか。

 頭の中をいろんな考えが巡って、身を起こしてフェリルの様子を窺う。
 すると、フェリルは顔を上げて僕を見た。

 何も言わず、ただその美しい瞳で僕を見ただけだ。
 それなのに、すべての懸念が吹っ飛び、身体が昂る。

「……あ」

 思わず声が漏れ、羞恥してベッドに身体を沈める。
 フェリルはじわじわと僕の身体を開かせ、中に指を入れた。
 フェリルが僕の中に触れ、弄って緩めている。
 吐息がモノにかかったかと思うと、温かく湿ったものに包れた。
 口に咥えられたのだと知り、息を呑んでシーツを掴む。

「あ……っは……ふ……っく」

 モノを舐めしゃぶりながら中を弄られて、今どっちで感じているのか、自分でもわからなくなった。
 
 身体が熱い。
 気持ちがいい。
 もっとしてほしい。
 
 気付けば僕は、喉を反らしてフェリルの名前を呼びながら啼いていた。

「フェ、リル……あっ……は、っいい……それ……あっ」

 ガクガクと身体が痙攣し、もう達するというところで、フェリルはモノをしゃぶるのをやめて中から指を引き抜いた。

 頭の芯がくらくらして、目を開けていられない。
 声を上げ過ぎて、息をするのもやっとだ。

「ノア」

 乱れた前髪を後ろに梳いて、僕の名前を呼ぶ。
 ぼんやりと目を開けると、覗き込む蒼い双眸と目が合った。

「フェリル……もっと、あなたが……ほしい」

 これではまるで、媚薬を盛られた時と同じだ。
 僕の本性は、結局変わらないのだろうか。

 フェリルは、僕の言葉に頷いて、もう一度唇を重ねた。
 そして、足を大きく左右に開かせてから、後ろに自身をあてがう。
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