【完結】媚薬に狂った僕を助けてくれた、あなたは誰ですか?

佑々木(うさぎ)

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第五章 決意

魔力暴走

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 ルイのことがあってから数日後。
 僕は放課後に、セオドフに呼び出された。
 ファグの一人が僕のところに現れて、ついて来てほしいと言ったのだ。
 もしかして、セオドフの名を騙った誘いかとも思ったが、あまりに不安そうな顔をされて結局ついて行った。
 行き先は、寮のコモンルームで、セオドフが数人の一年生に囲まれて座っていた。

「来たか、ノア」
「お久しぶりです、セオドフさん」

 僕の住む寮の監督生だが、ここのところ顔を合わせることはなかった。
 一時期はあんなに絡んできていたが、最近はたまに食堂で見かけるくらいになっていた。
 セオドフは、組んでいた脚を解き、ニヤリと笑った。

「前の借りを返してもらう」
「借り?」
「アルバ寮に届け出なく外泊しただろ」

 そう言えば、あの時フェリルは、セオドフに使いを出したと言っていたっけ。
 外泊には本来、前もって申請が必要だ。
 届け出をしておかなければ、許可は下りない。

「隠すのが大変だったんだぞ」

 そう言われてしまえば、ぐうの音も出ない。

「その貸しだ。付き合って」

 付き合うと言われても、何をするつもりなのだろう。
 セオドフは立ち上がり、顎をしゃくって僕を寮の外に連れ出した。
 ぞろぞろと一年生もついて来て、こんなにいるのなら僕が付き合う必要はないのではと思えた。

「セオドフさんって、やっぱり人気なんですね」

 取り巻きに囲まれて歩きながら、僕は素直な感想を述べた。
 数人が僕をじろじろと見遣り、時に鋭い視線を寄越していた。

「お前の彼氏ほどじゃないさ」
「彼氏……」
「違うって言えるのか?」

 この場合、セオドフが言うのはフェリルのことなんだろう。
 あの夜に使いを出されたのなら、そう思われても仕方がない。
 それに、否定しきれないのも事実だ。
 だが、僕たちは、付き合っているわけじゃない。
 だから、彼氏と言われてもピンと来ない。

「今は俺にも、ファグが数人いる。あいつも、その一人だ」

 セオドフは、ちらりと背後の一人を目で示す。
 大人しそうな銀髪に緑の瞳の人で、この中では一番線が細い。

「いつか恋人になりたいところだが、今は止めておいている。マスターがファグに言えば、命じたみたいになるからな」

 こっそりと僕にだけ聞こえる声で言い、セオドフは片目を瞑る。

「セオドフさん、変わりましたね」
「何? 俺、そんな節操なしに見えてたのか?」

 そう言う意味じゃないが、ちゃんと好きな相手を気遣って守ろうとしているのが感じられて、僕はなぜか嬉しくなった。

 僕たちが向かった先はカフェで、みんなで座ってケーキを食べた。
 しかも、すべてセオドフの奢りだった上に、お土産まで持たせてもらった。

「これじゃあ、借りを返したことにならない気がしますが」
「なら、また付き合ってよ。お前からフェリルの話を聞くのは楽しそうだ」

 僕から話せることなんて大したことはない気がするが、僕はセオドフの言葉を否定しなかった。
 そうして、集団で歩いて帰っていると、正門に人だかりができていた。

「何かあったんですか?」

 セオドフがそのうちの一人に声を掛けると、初老の人が答えた。

「生徒の一人が街中で魔力暴走を起こしたらしくて」

 魔力暴走、と言われて最初に浮かんだのはルイの顔だ。

「今、治療に当たっているらしいが、どうも助けたほうが重体らしい」

 嫌な予感がした。
 街にも医者はいるが、魔力の治療となるとこのカレッジが最適だ。
 ここまで運び込まれたということは、相当に症状が重いのだろう。
 僕は、震える脚を動かして、医務室の方へと走り出そうとした。

「落ち着け、ノア」

 セオドフが僕の手を引いて、肩を掴んだ。

「ここで転んで、お前まで怪我をしたら大変だ」

 ざわつく生徒の中を歩いていくと、言葉が漏れ聞こえてくる。

「訓練中の事故だって」
「一体どうしてそんな……」
「前もってわからなかったのか?」

 僕がその中を歩いていくと、治療室から出てくるアレン先生と出くわした。

「アレン先生!」
「君か」
「聞きました。魔力暴走をしたって」

 あのルイの魔力暴走を抑えられる人物なんて、僕には一人しか思い当たらない。
 アレン先生は、険しい顔つきで僕を見返し、傍にあったベンチに座らせた。

「ああ、ルイが魔力暴走を起こして、フェリルが抑えたんだが……。そのせいで、急激に生命力を失ったんだ」

 先生は一度そこで言葉を切り、僕の両目を見据えて続けた。

「彼はこのままでは目を覚まさないだろう。身体から徐々に力が失われ、魂と共に沈む」

 僕の身体から血の気が引き、目の前が暗くなる。
 気が動転して、何も考えられない。
 その間にも、アレン先生の説明は続いた。

「生命力を強めればと可能性はある。ただし、彼の魂に接触し、引き上げるためには、まずは彷徨っている彼を見つけなければならない。余程強い繋がりがなければ、彼の中まで深く沈んだところで、見つけることさえ不可能だ」

 僕はそこで、俯けていた顔を上げた。
 ということは、まだ可能性はセロではない。
 魂の接触については、過去に論文を呼んだことがある。
 やり方も、その詠唱も記憶している。
 
 僕がそう考えていた時だ、廊下の向こうからこちらに近付いてきた影が目に入った。
 黒い瞳に涙を溜め、蒼白な顔で僕の方へと歩み寄る。

「……ごめん、ノア」

 か細い声で僕に謝罪し、座る僕の手を取ろうとして、身体がバランスを失う。
 背後に立っていたエルビーが支え、何とか倒れずに済んだ。

「まだ寝ていなさい」

 アレン先生がそう言ったが、まったく耳を貸さずに、僕だけを見つめている。
 僕はベンチから立ち上がり、ルイの身体を抱き締めた。
 魔力暴走がまだ落ち着いていないのか、身体は酷く熱く、燃え盛っているかのようだ。

「良かった、ルイ。君が無事で、本当に良かった」

 その場にフェリルがいなければ、ルイの命はなかった。
 こうして顔を合わせることも、出来なかったに違いない。

「でも、フェリル先輩が」

 ルイは身体を震わせ、喉を詰まらせる。
 僕は抱き締める力を強め、その頭を撫でた。

「大丈夫。フェリルは、必ず僕が連れ帰る。だから、ルイは休んでいて」

 僕は、背後に立つエルビーと視線を交え、ルイから身体を離した。

「ルイをお願いします」
「お前は、何を──」
「僕は、平気です」

 エルビーにすべて言わせる前に、僕は続きを遮った。
 そして、治療室のドアをノックし、中にいたフォースター先生に告げる。

「フェリルと、少しだけ二人きりにしてもらえませんか」
「……ああ」

 最後のお別れをすると思ったのだろう。
 フォースター先生は、聞き返すことなく部屋から出ていった。
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