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04:日に日に愛しく

レオンハルト様のお仲間さん

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 翌々日。
 私は、予定より遅れて市場へと来た。仕事が片付かなくてね。
 目的地は、手芸屋さん! 栞につけるリボンを探しに来たの。今、ちょうど良い感じのものが見つかったところよ。

「すみません、こちらを10センチいただきたいのですが」
「承知です。少々お待ちください、ハサミを持って参ります」
「お願いします」

 ここは、2年前になるかしら。ソフィーと出かけたことのあるお店なの。
 彼女が好意を抱いている殿方へ、刺繍のハンカチをプレゼントしたいって理由でね。ソフィーったら、頬を赤く染めて可愛かったわ。
 でも、彼女は針仕事が苦手で。結局、私がデザインから刺繍、仕上げまでやったの。でも、糸の色を選んだのはソフィーよ。あれは、どなたに差し上げたのかしら。

 私、針仕事も大好き! 多分、黙々と何かを作業するのが好きなんだと思う。その時間だけは何も考えずにいられるし、頑張れば頑張るほど上達するし。
 最近は、マジョー奥様に教えてもらいながら洋服作りにも挑戦中なの。洋服と言っても、私が着るものじゃなくてカラフさんのところの子供が持っているお人形用ね。何度か受け取ってもらえて、今でも大切に使ってくれてるとか。
 他のお家の子も欲しがってね、マジョー奥様を通して配ってもらったこともある。そのお礼にもらった余り布で、また新しいお洋服を作っての繰り返し。ああ、なんだか作りたくなってきた!

「お待たせしました。こちらですね」
「はい、10センチお願いします」
「そんな短くて良いのですか?」
「栞につける用なので、大丈夫です」
「なるほど、失礼しました。では、こちらでお会計をお願いします」

 私が選んだのは、青くて真ん中にシルバーの線が入ってるリボン。青はレオンハルト様のお好きな色、シルバーは髪色よ。
 少し値段がはってるけど、いつも頂いているものに比べれば安すぎる。でも、私が出せるのはこれで精一杯。その分、頑張って作ろう。

 会計を済ませた私は、そのままお店を後にした。
 カランカランと、ドアについていたベルが私を見送ってくれる。
 さて、近くの公園に行きましょうか。

「おや、貴女様は確か副団長の……」
「え、あの噂の!?」
「見して、見して」

 今日は、自作のドライフルーツを持ってきたの。結構上手にできたのよ。まあ、お砂糖をまぶして乾燥させただけなんだけどね。それを食べながら、景色を見てボーッとして……なんて考えていると、そこに騎士団の制服を着た殿方が4名、私の方を見ながら話しかけてきた。
 1人は、見覚えがある。以前、レオンハルト様とご一緒していた時に呼び出しに来た方で、確か名前がルアー様だったかしら。

「お久しぶりです、ルアー様」
「お久しぶりです、ステラ嬢。今日は、どちらへ?」
「ここの手芸屋さんに用がありまして」
「もしかして、副団長へのプレゼントですか?」
「ひゃわっ!? あ、ち、ちが……」

 バレた!?
 こういう時、咄嗟に嘘がつけない。
 内緒でプレゼントしようと思ったのに。それに、そんなプレゼントってたいそれたものでもない。違うって言わなきゃ。違います、って。

 でも、口からは言葉が出てこない。

「わー、顔真っ赤」
「可愛いー。副団長って面食いなんだ、知らなかった」
「てか、まじで付き合ってるご令嬢が居たのか。副団長が女除けで流した噂かと思ってた」
「だってお前らは見てねえかもしれないけど、彼女と一緒に居る副団長は笑うんだぜ。彼女じゃなければ、なんだって言うんだよ」
「はあ!? 鬼の副団長が!? いやいや、笑ったところなんて1回も見たことないぞ」
「俺も」
「俺も」
「あ、あの……。お話し中すみません、私行きますね」
「ま、待ってください!」

 よくわからないけど、なんかお話を始めてしまったわ。私には関係なさそうだし、このまま退散しましょう。

 そう思ってお辞儀をしてクルッと向きを変えたけど、なぜか呼び止められてしまった。
 もしかして、近くにレオンハルト様がいらっしゃるのかな。……いえ、だとしてもお仕事だわ。会えるわけないし、邪魔したくない。

「何か?」
「あの、副団長とお付き合いしてるって噂は本当ですか?」
「……はい」
「マジだ……」
「だから言ったじゃん」
「これじゃあ、他のご令嬢に目が行かないわけだ」
「副団長って、貴族令嬢の間でファンクラブあるほど人気のですよ」
「え!? あ、知らなかったです……」
「ってことは、ファンクラブから知り合ったわけじゃないのか」
「ベルナール伯爵のとこのパーティじゃない? 副団長、初めてそういうのに参加してたし。ねえ、そうでしょ」
「確かにその場には居ましたが、その日はお会いしていません」

 背の高い方たちに囲まれると、なんだか尋問でもされているような感じがする。気のせいじゃないと思うけど、先ほどから通りかかる人がジロジロ見てくるし。
 別に、何も悪いことしてないわ! 買い物だって、お支払いちゃんとしたし。なのに、なんか申し訳なくなる。ごめんなさい。

 でも、とても気さくな方達なのはわかるわ。
 レオンハルト様は、このようなお方と一緒にお仕事をなさっているのね。私の知らない彼を覗けたようで、ちょっとだけ楽しい。
 にしても、ファンクラブって……。そんな人気のある人が、どうして私なんて……ううん、もうこういうことを言うのは止めるって決めたの。いつまでも考えていたら、彼に失礼だし。

「そうなんだ。……ねね、副団長に振られたら俺と付き合ってよ。君みたいに可愛い子なら大歓迎」
「バカ、あんなデレた副団長が離すわけないだろ。聞かれたら殺されるぞ」
「だって、俺その場見てないし」
「ふふ、みなさん仲良しなのですね」
「……可愛い」
「……可愛い」
「……可愛い」
「間違いない」
「……?」

 あれ、もしかして笑ったら失礼だった? なぜか全員して、私の方を見て固まってしまった。しかも、なんだか顔が赤くなってる気が。今日、そんなに暑くないと思うけど。大丈夫?
 騎士団って、過酷な訓練があるって聞くものね。きっと、お疲れなのでしょう。

 そう思った私は、カバンの中から食べようと思っていたドライフルーツを取り出した。

「あの、なんだかみなさまお顔が赤いので、お疲れなのだと思います。よかったら、甘いものをどうぞ」
「え、これ何?」
「私が作ったドライフルーツです。見た目はアレですけど、甘いし栄養価が高いお菓子で……お口に合えば良いのですが」
「へえ、初めて見た」
「いただきます!」
「ありがとうございます!」
「美味い!」

 よかった。どうやら、喜んでくださったみたい。

 その後、少しだけ王宮でのレオンハルト様のご様子を教えてくださった彼らは、仕事へと戻って行かれた。とにかく、尊敬しています! みたいな内容だったから、本当に慕われているのね。良い職場環境だわ。……うちのように悪口ばかり言っている使用人とは大違い。
 次は、このようなことがあった時のためにお手拭きも用意しておきましょう。お砂糖って、結構ベタベタするものね。団服で拭いちゃダメですよって言ったら、「やっぱり彼女にしたい」って言われたけど……どうして?


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