上 下
18 / 78
04:日に日に愛しく

今日は、どちらに?

しおりを挟む


「うちの団員が、ご迷惑をおかけしたようで……」
「い、いえ。みなさま、とても気さくな方で楽しかったですわ」
「そう言っていただけるとありがたいです。本当に、すみません」

 次の週、作った栞を持ってレオンハルト様とお出かけをした。約束の場所は、いつもの広場。噴水の前って一緒に決めたの。

 私の首には、彼に買っていただいたネックレスが光っている。いつもお会いする時はつけているのよ。
 それにしても、スーツの彼も好きだけど、今日のような私服のラフな感じの彼も素敵ね。そういえば、団服姿って見たことないわ。……見てみたいな。どんなお姿になるのでしょう。

 会って早々、レオンハルト様は見本のようなお辞儀をしてきた。一瞬、「別れましょう」と言われるのかと思ってハラハラしちゃったわ。でも、そうじゃなくて安心した。あれは、むしろ私も話し込んじゃったからお仕事中に申し訳なかったと思ってる。

「何か、頂き物までしたようで……」
「あ、あの、後で食べようと思っていたドライフルーツを差し上げただけです。みなさん、顔を真っ赤にしてお疲れの様子だったので」
「……顔を、真っ赤に?」
「き、気のせいかもしれませんが、心配で……。手作りだったので、みなさんお腹壊したりしませんでしたか?」
「は!? て、手作り……」
「何か、規則でダメなことありましたか……?」
「あ、いえ……。なんでもないです。みんな元気ですよ。今日も、訓練に勤しんでいる頃でしょう」
「そうですか、よかった」
「……手作り」

 今日は、特に行く場所を決めているわけではない。いつもは、行きたいところの候補を出し合って決めるけど、今日はどうするのかしら?
 私は、どこでも良いわ。彼と一緒なら、どこに居たって楽しいもの。……手を繋げるところだと、もっと良いな。人通りが多いと恥ずかしいからどこか静かなところとか。って!? 結構限定されちゃう。違うの、彼と居られるだけで良いの。

 1人で慌てている中、隣をチラッと見ると……何やら考え事をしている彼が居る。

「レオンハルト様、どうされましたか?」
「へ!?」
「あ、いえ。その、何か考え事をしているような気がして」
「なんでもありません。それより、ドライフルーツとは、どうやって作るものなのでしょうか」

 良かった、なんでもないみたい。
 レオンハルト様は、そのまま私の手を持って歩き出した。……恥ずかしいけど、嬉しい。手が温かくて、安心するわ。

 でも、人前なのに大丈夫かしら。彼、ファンクラブとかあるのでしょう? 今更だけど、こういうところを見られたら良くないんじゃ……?
 うーん、離したら失礼よね。……それに、離したくないなって思う自分も居る。

「お砂糖をまぶして、お日様で乾燥させるだけですよ。そう難しい作業はありません」
「なるほど。フルーツは、何を?」
「今乾燥させているのは、オレンジの皮と桃、それにりんごとラズベリーです」
「今……?」
「はい、お屋敷の近くで牧場を営むカラフさんという男性のお家で乾燥中です。日当たりの良い場所があって、いつもそこで作ってるんです」
「……だ、男性のお家? い、つも?」
「羊さんや豚さんも居て、とてものどかですよ。川も近くにあるので、よくそこで水浴びして遊んでいます」
「み、水浴び……。ステラ嬢!!」
「は、はひ!」

 歩きながら話していると、なぜか急に大きな声で名前を呼ばれた。それに、立ち止まってしまったわ。まさか、他のお家でそういうことしちゃダメって法律があったとか? 全部の法律を勉強してるわけじゃないから、違反だったらどうしよう。

 というか、レオンハルト様ったら目がグルグルと泳いでるわ。なんだか、焦っているような印象を受けるけど……。
 とりあえず、私も立ち止まって返事をした。すると、

「今日は、そこに行きましょう。私も、ステラ嬢のおっしゃるのどかな風景を見たいです!」
「え、あ……良いですけど、どこか行こうとしてませんでした?」
「特に! 特に、どこも! それより、紹介してください」
「……わかりました。多分、ドライフルーツも出来上がってると思うので、景色を見ながらお召し上がりになられますか?」
「是非!」

 と、前のめり気味で会話が続く。
 もしかして、そんなに川がお好きとか? それとも、ドライフルーツ?

 よくわからないけど、カラフさんはいつでもおいでって言ってくださったし急に行っても大丈夫だと思う。問題は、私のお屋敷が近いこと……。絶対に、彼にお屋敷の話題をふらないようにしないと。私が別棟で暮らしてるなんて知ったら、別れられるかもしれないし。それは、嫌。
 嘘をつき続けてごめんなさい、レオンハルト様。

「では、案内いたします。ここから、10分も歩かないところです」
「……そうか、敵は近くにいたか」
「敵?」
「あ、いえ。てき、てき……適当に歩こうと思っていたので、予定ができて良かったです」
「私も、ご一緒できてとても嬉しいですよ。足元が悪くなるので、お気をつけください」

 私は、暗い気持ちを振り払うように軽快な足取りで歩き出した。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

僕の番が怖すぎる。〜旦那様は神様です!〜

msg
BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:385

神木さんちのお兄ちゃん!

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:159

風の音

ホラー / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:19

夢見の館

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

辺境暮らしの付与術士

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1,116

勇者のこども

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:711

美少年異世界BLファンタジー 籠の中の天使たち

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:349

処理中です...