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05:幸せの連続
マーシャルの忠告
しおりを挟む「ステラお嬢様」
「はい。……あ、マーシャル」
厨房からお夕飯をいただき部屋へ運んでいると、後ろから小さな声でマーシャル……以前、本邸に居た時に専属メイドをしていた人ね。そのマーシャルが、話しかけてきた。
彼女は、たまに私を気にしてくれる。王宮からの手紙を届けてくれるのも彼女だし。
でも、他の使用人が怖いようでいつもオドオドしながらね。それでも、私にとっては数少ない信頼できる人なの。
と言っても、私から話しかけることはしない。
だって、彼女がいじめられたら可哀想だもの。私のように、お洗濯物をぐちゃぐちゃにされたり、ご飯の中に生ゴミが混じっていたりしたら申し訳ないでしょう。
「最近、どこかの殿方とお会いしていませんか?」
「……え」
「やっぱり。私の友人が街で背の高い殿方と居るお嬢様を見たようで、こうして話しかけました。その友人には口止めしましたが、今後はもう会わないでください。違うとは思いますが、ソフィー様の長年片想いしていらっしゃる殿方に最近恋人ができたそうなんです。今、血眼になって相手を探していらして……」
「ソフィーの片想い……?」
マーシャルは、その情報を早口で私に伝えてくれた。
そういえば、ソフィーはずっと同じ殿方を追いかけているという話を聞いたことがある。
私は興味がなかったからあまり突っ込んで聞いたことはないけど、良く「素敵」って言ってる人が居たのは記憶していた。好きな相手に好きな人ができたら祝福すれば良いのにって思うのは、私にもお付き合いしている方が居るからなのかな。
「一応お聞きしますが、ステラお嬢様のお付き合いしていらっしゃる殿方のお名前は?」
「……お父様やお母様に言わない?」
「言うわけありません! 私は、争い事が嫌いです。もちろん、ソフィーお嬢様にも他の使用人にも言いません」
「ありがとう。あのね、レオンハルト様という方で、騎士団に勤めていらっしゃ……マーシャル?」
「……そんな。その方です、ソフィーお嬢様の片想いのお相手は。ダメです。あの方だけは、ダメです。上位貴族の中でファンクラブも結成されているので、他のご令嬢にも知られたらタダじゃ済みませんよ! もう絶対に会わないでください!」
「……そう、なの」
「ああ、どうしてですかお嬢様。あまり目立たないでください……。これ以上、貴女様が傷つくのは見たくありません」
私は、マーシャルの言葉にサーッと血の気が引くのを感じた。
まさか、ソフィーと好きな人が被るなんて。それに、ファンクラブって上位貴族間で結成されてるの? どうして、今まで何も言われなかったのか考えたけど、ただ単に気づかれてなかっただけかもしれない。気づかれていたら、恐ろしいことが起きていた気がするわ。
でも、彼に会わないなんて出来ない。だって、次のお約束もしてしまってるもの。それに、会いたい気持ちを抑えるなんて無理だわ。
「じゃあ、次でしばらく会うの止める」
「次とは!?」
「明日、お会いする予定があるの」
「……明日でしたら、ソフィーお嬢様はお茶会にお出かけしますので大丈夫です。絶対にカランド地方には行かないように。17時に終わる予定なので、その前に帰ること。お約束してください」
「わかった。ありがとう、マーシャル」
「私は、争い事が嫌いです。もし、プレゼント等いただいていましたら、処分することをおすすめします」
「……ありがとう」
マーシャルはそう忠告したのを最後に、私の返答を待たずに去っていった。
教えてくれて良かったわ。知らなかったら、大変なことになっていたと思う。
そっか、ソフィーはずっとレオンハルト様へ片想いしていたのね。それを、私が横から奪ってしまった……。あの時、ちゃんとお名前を聞いておけば良かったな。
正直に話した方が良いとは思う。彼を好きになってしまったって。でも、それって火に油を注ぐ行為でしょう。黙っていることへの罪悪感が大きいけど、家族のことでレオンハルト様にご迷惑をかけたくない。
一番彼に迷惑のかからない方法は何かしら。
「……次お会いした時、仕事でしばらく会えないと言いましょう」
結局、それが一番良いわ。私が近づかなきゃ、噂が広まることはないし。
もし、会えない間に彼が新しい恋人を見つけてきたら……他のご令嬢とご結婚をされたら……それはそれで運命だったと諦めましょう。この数ヶ月、とても良い経験をたくさんくださったのだし。私にはもったいない時間だった。
でも一応、ほとぼりが冷めたらまた連絡を取ってみて……。
……ほとぼりが冷めるのは、いつになるのかな。
1年? それ以上? 私がおばあさまになってしまうほど?
いえ、待ちましょう! 彼にご迷惑をかけないためには、この方法が一番。目先の楽しみより、もっとずっと先のことを考えるのよ。数年後だって、川がなくなるわけじゃないし、ドライフルーツだって一緒に召し上がれるじゃないの。
私は、重たくなった足を前に出して、部屋へと帰った。
お夕飯が冷めちゃったって? いいえ、もらった時から冷めていたから大丈夫よ。
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